第7話 大苦戦
ここまで何の問題もなく、レベルアップしてきた俺の中に、慢心という名の傲りが芽生え始めた。
エクレールには禁止されていたが、より効率よく経験値を稼ぐ為に、森の奥に進んでみよう。
今の俺なら強い魔物が、現れてもなんとかなるだろう。
レベルアップに応じて狩場を変えるのは、RPGでは基本中の基本だからな。
そんな甘い考えで、俺は止せばいいのにさらなる強敵を求めて、書庫から少し離れたところまで足を延ばした。
そしてブラッド・ベア(黒熊)を発見。
黒熊は、身の丈2mは超えるであろう巨大な熊の魔物だ。
地球ならばヒグマか、グリズリーといったところだろうか。
しかしこいつにも地球の獣とは大きな違いがある。
マッド・ボアと同じように額に小さいが眼がついているのだ。
この眼が俺を睨みつけてくるので、プレッシャーは半端ない。
地球にいたならば、たとえ狩猟用の銃を持っていても出会いたくない相手だろう。
しかし今の俺には、フォトン・ブラストがある。
たった5日とはいえ、数多くの魔物を一撃で葬り去ってきた魔法があるのだ。
「フォトン・ブラスト!」
先手必勝、俺は速攻で光弾を発動すると魔物に投げつける。
全弾直撃!
・・・したのだが、一撃では仕留めきれなかった。
苦しみながらも唸り声を上げて魔物が突進してくる。
ならばもう一発と俺は再度腕を振り上げるが、魔法が発動しない。
そう魔法の連続発射には習熟度を高める必要がある。
これまで全ての魔物を一発でしとめてきた俺は、そんなことも失念していた。
魔法が発動せずに焦る俺に、急接近してきたブラッド・ベアが、苦し紛れに腕を振り回す。
「うわっ」
後ろにのけぞって、何とかそれをかわしたが、爪の先端が俺の肩をかすめる。
(痛い、めちゃくちゃ痛てぇぇぇ)
ほんの少しかすっただけ、それなのに、ステータスを見れば一撃でなんとHPが1まで減っている。
「うわぁぁぁ」
俺はやっと発動したフォトン・ブラストをとっさに地面に打ち込んだ。
撒きあがった土砂が熊の顔面を直撃、視界をふさがれた敵が混乱している内に、俺は全速力でその場から逃げ出す。
傷みなどはかまっていられない。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・」
どうやら追ってはこないようだ。
それにしても危なかった。
俺はここにきて初めて、異世界の恐ろしさを実感したのだった。
確かにこの世界はRPGゲームのようなシステムで運用されているようだ。
だが、ゲーム感覚で敗れても、何度でも強敵にトライできるわけではない。
そしてHPがゼロになれば、すなわちそれは死を意味する。
転生した時に女神アーリンに言われたように、決してゲームのように何度でもやり直せるわけではないのだ。
そんなことは理解していたはずなのに、
そもそも地球に居た頃の俺なら、熊どころか猪、いや鶏でさえ自分でさばくことなんてできはしなかった。
異世界に来て計らずもメイガスとなり、魔法を手入れた。
その魔法で何度も魔物を退治して、魔石や素材を回収してきた。
5日間とはいえ、いつの間にか感覚が麻痺していたのだろう。
解体時の魔物の血の匂いやグロテスクな肉に慣れてきて、以前の俺ならありえなかった無謀な闘いを挑んでしまった。
傷の痛みに苦しみながらも、俺はほうほうの体で書庫へと逃げ帰った。
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