モリアーティも笑わない 第一話 改訂版

@hanabanasiku

end of plologe

「若さまぁ!あと何分だ!?私たちは間に合いそうか!?予測が正しければあと数分ってとこかな!?」

「名推理!!5分しかない!」

「Fooo!良いニュースだねドキドキしちゃう!」


2049年12月。温暖化のご時世に珍しく雪の降る日本国東京都渋谷区。PARCO前を通りすぎて、ヘルメットをしていてもなお目立つ容姿の女子高校生が運転し、後ろに巨大な海苔のような長方形の物体を抱えた男子高校生が乗る 、2人乗りのバイクがスクランブル交差点方面へ爆走する音が響く。

大渋滞を起こして道路一面が多種多様な車両でところ狭しと埋め尽くされた今、今の東京を成層圏から見ようものなら光の筋が途切れることなく網状に広がる、さながら人間の血管のような模様が見えることだろう。その網の中、車と車、人と人の間を走り抜ける僕たちはさながら血球か何かに見えるだろうし、赤血球が人を生かすために酸素を運ぶが如く、今も都内に釘付けにされている数十万人の命を救うかもしれないドローンを抱えて移動する僕たちは本当に血球であり最早ワクチンなのかも知れない。


「直葉!わかってると思うけど僕たちが事故ったら元もこもないんだからな!安全運転でどわぁぁぁ」


左側の車線に止まっている白のセダンと宅配車の間から出て来た壮年の男性をかわした拍子に車体が傾き、僕は舌を噛みかけた。


「むりむりむり!恨むならヘリを出せない怜藤警部を恨みなぁ!」


「もう速度は諦めるからせめて落ち着いて運転してくれ!あと少しでドローンの操作可能範囲と、旅客機の位置がだぶる!」


「お願いだから…間に合ってくれ…!」


眉目秀麗。そう表現してもまだ足りないほど整った顔を焦燥に歪め、日本人らしくない金色の長髪が風に乱れながらも、赤い瞳はまだ希望に輝いている。


守家 ジェーン 直葉。17歳。


転校してくるなり僕の名前を見て

「若葉 淳也ね、日本では昔偉い人の子供を若様と読んだそうだな、うむ、君は若様だ!ふっ…なんて素晴らしいネーミングセンス…流石私」

と言ってきたヤバい奴。

そして今、僕と共に死地へ向かってくれている唯一無二の相棒。そして



数学を、学問を、個性を失ったこの国でモリアーティになろうとする女。


じゃあ彼女の相棒を自負する僕はなんなのか?ホームズなのかって?

残念ながら僕は彼の名前を冠することが出来るほど優れてない。所詮この国で生きるために一度、夢を諦めた男だ。

彼女の活躍をこうして書き付けているあたり、さながらホームズの活躍をタイプライターで物語として残したワトソンと言ったところだろうか?


書き付けているのはモリアーティの活躍で、タイプライターではなくノートパソコンに音声入力だけど。


「間に合うさ。」

「えぇ!?何だって!?このヘルメット耳がすっぽりはいっちゃって音が殆んど聞こえなくてね!愛の告白だったら受け入れるよ!」


「違わい!!!! …僕は信じてる!きっと最後の最後!数字は!直葉に力を貸してくれるはずだって!」


「…っ!あぁ、信じよう!」


警告を叫ぶ警察官の声と、スマホのアルバムにこの混乱時に街を暴走するアホを収めてひとバズり狙おうとする人々を尻目に、僕たちはバイクを走らせる。希望の花火を打ち上げるために。




2049年 10月、第一月曜日。11時42分、3時間目と4時間の間の休み時間。


週の始まりの憂鬱と、残暑と呼ぶにはあまりにも盛りたいように盛る太陽の熱を前にやる気をなくした

都立緋山高校の生徒たちは、美しすぎる転校生の登場ににわかに活気づいていた。


カースト上位の生徒はどうやってお近づきになるかひいてはどうやって彼女にするかで盛り上がり、

女子は帰国子女であることを聞いて海外の文化に興味津々。

そんな中、転校生の話題に盛り上がるグループに僕は親友の浅羽を奪われて少しイライラしていたような覚えがある。


頭が怒りに支配されそうになったら必ず甘いものを食べる僕が、その時アポロチョコを頬張っていたはずなので多分間違いない記憶だと思う。


ちなみにその肝心の転校生はというと今朝、一時間目が始まる前のホームルームの時間を使って

「初めまして皆さま!守家 ジェーン 直葉と言います。イギリスから出戻りました!好きな教科は数学。得意な教科は国語。スターバックスでアイスコーヒーを飲むのが趣味です♪よろしく」


と簡単に自己紹介を済ませた後、担当の新谷先生と共にどこかへ行ってしまい、四時間目が始まる前の今になっても現れない。


教室の黒板から見て左隅、窓際の列の最後尾から見えた彼女の容姿は端麗さを極め明るいブロンドの髪は見事なウェーブを描き、10月の午前光を受けてなお、暑苦しくさのない優雅な輝きを放っていた。

…つまり、そういう事だろう。僕にはすぐわかった。彼女が姿を見せない理由は。


新谷先生はこういう時、生徒の側に立って守ってくれるけど昭和のスポ根ドラマから飛び出てきたような、学年主任の金崎がいる以上新谷先生は逆らえないだろう。彼女は多分、僕と同じ目に合うんだろうなと思っていた。


当時の僕はその状況にえらく親近感を覚えていたんだ。今ごろ彼女もあのむちゃくちゃな問答を教師相手に繰り広げているのだろうと思うと、彼女とはなんだか友達になれそうな気がしたものだ。

それに僕には、あの派手な容姿以上に彼女に対して興味を弾かれる理由があったのだ。


「好きな教科は数学です」って!


今どきめったに聞かない一文だ。ってあの時は思ったんだ、僕も数学は好きだから久々に見つけた同士の存在に心が沸き立ったのを覚えてるし、


実際あの自己紹介の時 、正直誰が来ようが興味がなくて、彼女の容姿にさえ目もくれず窓の外に目線をやってたというのに思わず彼女の方を見てしまった!


ちなみに、その時の僕の顔は彼女いわく、


「昆虫を研究していたファーブルの目もかくや!なレベルで目がキラッキラしていたなぁ~ 口もポカンと空いてしまって!あんまり嬉しそうに見つめるものだから、私はてっきり君に惚れられたのかと…」だそうだ。うん、後でこのくだりは削除しよう。



結局、浅羽と言葉を交わすことも転校生が戻ることもなく予鈴がなる。

木材でできた昔ながらの机は、その長方形の真ん中あたりに右手を当てると昔ながらの指紋認証が行われ、登録ユーザーである確認が済んだ途端、30度ほど傾き先ほどまで茶色の木目模様の古めかしい板だったそれはタブレット端末に早変わりする。



そして教師の登場を待って、算数の授業が始まる。


画面に写し出されるのは、白の背景に黒文字で無数の足し算引き算かけ算割り算の単純な数式が書き連ねられたページ。


右上にカウントダウンタウン用のタイマーが5分を数えている。

算数の授業の時間、僕らは右耳に装着したワイヤレスイヤホンの指示に従い、この数式をひたすら解く。制限時間内にどれだけ解答出来たか。

間違いをどれだけ少なく出来たかが評価され個人のスコアになる。


教師は最早、そのスコアが出るのを待ってタブレット内臓のAIが用意した「もっと出来るようになるコツ!」なるものを読み上げるだけの存在だったが、最近ではその職務さえも放棄して教卓で自分の仕事に勤しんでいる始末だった。


教職員のブラック労働が騒がれるようになっても20年が経過していたわけだけど49年当時もその辺りは変化がなくて、授業をAIが取り仕切るようになってなお教職員の残業時間は変わりがなかったのだと後から聞いた。

まぁ高校生当時の僕にはそんな事どうでも良くて、とりあえず目の前の問題に集中していたのだけれど



「ほーーん?ほんほんほん。わかば…ミスターわかばねぇ…ちょっと待ってね、もう少しで良いアイディアが思い浮かびそうなんだけど…」


頭上右側より降ってきた美声に思わず問題を解くのをやめて顔を上げると、そこにはあの転校生の過剰なまでに整った顔面が、にんまりと笑みを浮かべて置いてあった。



「あの…?」


「フルネームは?ほんほんほん?わかばじゅんや、若葉 淳也ね、日本では昔偉い人の子供を若様と読んだそうだな、うむ、君は若様だ!ふっ…なんて素晴らしいネーミングセンス…流石私」


いやほんとね、思ったよこの時。あっやべえ奴だって。


「君は転校生の守家さん、だよね?今は授業中で…」

「授業?これが?ほんほんほん。パパから聞いてた話はマジマジだったのか~!実に嘆かわしいぃ!

君たちは車輪の下リスペクトでもしてるのかい?」


日本語の発音は完璧だけど色々おかしかったのを覚えている。


「うん、あの~…授業中だから静かに出来るかい?君の席はここ?とりあえず座ろ?もう授業に参加する準備は済んでるのかい?」

すると直葉のドヤ顔の後ろから、新谷先生が小声で申し訳無さそうに話しかけてきた。


「それなんだけど、まだ何もしてなくてね…」


「わっ新谷先生」


「ちょっと若葉くんに守家さんの準備を手伝ってもらいたいんだ、私は少し忙しくて…」


190近い長身とスーツの似合うスタイルと整いながらも糸目の穏やかな顔つきとおっとりした話し方をする新谷先生には当時、公私共にお世話になっており断りづらかったのを覚えているけど、隣の席というだけで何故男子の私を宛がうのが理由を問うと

「そ、それがねぇ、守家さんg「私の指名だ!君には私と似たものを強く感じる!君となら仲良く出来ると思ってね!」


もり…直葉が先生を押しきって答えたのであった。あまりに直葉がうるさいので、「似たもの」なんて釈然としないセリフを吐かれたのが気になったものの邪険にする理由もないので即時快諾して教室を出て、多目的室の倉庫に押し込められた机を取りに歩き始めた。その途端だった気がする。こんな事を言われた。


「それとな、単純に容姿が好みだった!」


「逢い引きなら他を当たって貰えれば…」


「ohーーーーーっっっ連れないなぁ君は!こーーんな絶世の美女に容姿を褒められてなぜ喜ばない!」

ナルシストすぎる発言に少々引きながら、正直否定できない美しさを直視して僕は思考の疲労困憊に陥った。そしてあることに気づく。あれ、この子髪の色がそのまま・・・?


「若さまのそのくりっとして愛嬌のある可愛らしい大きい目とシャープな輪郭!うちのダンデのようでとても好みだ!」


「ダンデ?」

「ゴールデンレトリバーの…」

「いや犬と比べたのね」

「髪の毛の感じもそっくりなんだ!その中途半端にくるくるした天然パーマも感じが似てる!ま、ダンデは黒くないが…」


この時、海外暮らしをしていた彼女らしいフランクさで髪の毛に触れてくる事を予想していなかった僕は、触れられたくない事実を知られるのを、避ける事が出来なかった。

「ん…?根本は赤みがかった…茶色か…?」



まずい。今日放課後に染めに行く予定で…!

焦った僕は思わず頭を撫でてくる彼女の手を強く掴んで引き離した。

「ほんほんほーん…。これもパパから聞いてた通りだ。君ぃ地毛を黒く染めてるな?」


「…祖母がフランス人で、隔世遺伝なんだ。本当は赤茶色だよ。」


「君はその色が嫌いなのか?」


「まさか、祖父と祖母を僕は誇りに思ってる。でもね、ここは日本の学校だから。黒髪にするのがルールなんだよ。君もその話をしていて今頃教室に来るはめになったんでしょ?大変だったね。」


緋山高校は表向きには自由な校風を売りにしてはいるがその実、規則でがんじがらめの生活と、ルールに従い公共の場でも恥ずかしくない人間を育てるという名目の元、髪の色からペンケースの色、休日の服装まで指定される生徒指導が待ち受けている。


金崎先生が赴任してきた四年前からは休日の外出をするために親のハンコが押された「外出許可証」の提出も必要になった。




「で、君はそういう規格化に抗う革命家志望ってとこかい?」


そう言うなり彼女は僕のポケットを指差して

「そこに持ってるの、ブックリーダーだろう?日本人は本の朗読音声をそのイヤホンから聞きながら通勤通学していると聞いたことがある。満員電車の中でデバイスやら紙の本やらを広げる余裕がないからと聞いてる」

ブックリーダーは黒貴重に銀色のラインが走る、片耳装着可能の小型イヤホンだ。一昔前は「意識高い系」なる人々の間で流行っていた代物と聞いているが今は国民標準装備並みに普及している。


「う、うん確かにそうだけど皆がこれを使ってる理由は違うよ。人によって本を読む速度は違うだろう?今の社会、少しでも速く多く情報を得ることこそが肝要だから朗読を聴いてサクッと内容を理解しようって理由で普及したんだ。ま、守家さんの言うとおり場所を取らないって言うのもあるかもね。」


「じゃあなんで君は紙の本を読んでいるんだい?しかもよりによって監獄の誕生だなんて…」


いたずらっぽい笑みを浮かべて彼女の追求は核心をついてきた。多目的室のある南校舎との渡り廊下に差し掛かった所で良かったと思う。教室棟で言われていたら明日からいじめでも始まっていたかもしれない。



「ちょ、ちょっと守家さんこっち…!」


「おっ!手を引いて走り出す高校生!知ってるぞこれがラブコメというやつだな!」


「マンガの読みすぎだね!」なんてセリフさえそういう恋愛小説の導入みたいだな、なんて今は思うし恥ずかしくて顔が真っ赤になりながら記述してるけどそれ以外何を言えばいいのかって話だった。


そのまま僕は彼女を南校舎横の電圧調整の大きな機械がでーんと置いてあって教室棟の死角になっているところに逃げ込んだんだけどこれも今にして思えば

「ラブコメか!?ラブコメか!?」と騒いだ彼女を否定できない行動だった。

なんだか青春小説のような状況描写だな。

でもその時の僕はそれどころじゃなかったんだ。

脂汗とか冷や汗っていう言葉の意味を身を持って実感した時間だった。

「守家さん、お願いします…僕が紙の本を、ましてや哲学の本を読んでたなんて、どうか誰にも言わないでください…!なんでもしますから」


顔面蒼白。浅羽と一緒に放課後に読むつもりでカバンに入れていた本を、待ちきれずにこっそり読んでいたのが不味かった。どうやら本の背がカバンのファスナーの隙間から覗いていたらしい。


沈黙。深々と頭を下げる俺を、彼女は無表情で見つめていた。

「…2008年、ウォール・ストリートの金融危機に始まる世界恐慌。その影響を一切受けることなく発展を続けた、神さまに守られた国と言うのがイギリスでの日本の評判だったけど。」

その後に続く言葉は僕の脳裏に過去の映像をフラッシュバックさせた。

「神さまに守られてるわりに、随分息苦しい生き方をしているようだねぇ」

無限にも思える数十秒の間を置いてようやく彼女が口を開いた。


「神さまなんて…」


僕は祖父の顔を思い浮かべる。最後に見たのは病院の窓辺からスマホを投げ捨てる姿だった。


「あいつは神さまも越えてるよ。」




2005年の初めに、人類の叡知と常識を凌駕する勢いで人工知能技術を発達させた日本の様子を、当時海外の新聞では日本の漫画文化になぞらえて

「シンギュラリティ・テツワンアトム」と表した。

わざわざ「テツワン」と書いてあるのはアトムという単語単体を日本にあてがうと過去の歴史がどうのこうのというリテラシー的な問題があったのだというが、この日本らしさとSFっぽさが絶妙にマッチした一文は、そのキャッチーさで世界の注目を浴びた。

にもかかわらず、技術特異点と化した日本で生まれた究極の人工知能に与えられた名前は


「シャーロック」


という日本っぽさの全くないものだった。


All acknowledge を縮めてAA,


ダブルエーと読んで 「WA自己知性群体」はシャーロックの名前で親しまれるようになる。


そして2006年に現行の官僚制度の建て直しに使用されると、その能力を遺憾無く発揮した。


従来のスーパーコンピューターを2006年当時稼働していた分をすべて合わせてもまだ遥かに越える演算能力は、日本の社会システムを根本から書き換えてしまうほどの改革を、猛スピードでこなし、結果的に2008年の世界恐慌の影響の外へ、日本を逃がした。


「それ以降はこの国から政治家という職業は全部シャーロックにとって変わられたよ。彼1人の方が、何万人の、不正を働く以外能のない政治家を税金で養うより遥かに安上がりだったし何よりシャーロックの国政管理は完璧だったよ。まるで未来がわかってるみたいだと評判だった。」


「あれだな、私わかるぞ!マックス・ウェーバー曰く理想の官僚制的行政とは憤怒も不こ」

「不公平もなく、愛情も熱狂もなく、ただひたすら職務に殉ずる事だ。ってやつでしょ?僕も知ってるよ。シャーロックはまさにそれを体現してる。そりゃそうだよね、感情は彼にとっては労働効率の計算上必要なデータに過ぎない」


彼女に促されるまま結局頭を上げると一緒に座り込んで話を始めた。

新谷先生には一時間使っていいと言われたし、この後はどうせ昼休みだ。僕たちお弁当が食べられなくても良いからとにかく彼女と話がしたかった。


「私から言わせれば、アナーキストにとっての典型的な攻撃対象にしか見えないけどねぇ、ましてや0年代なんて人工知能へのリテラシーなんか無い時代だろう?」


「そ、だから非人間的な支配の否定をモットーにする人たちを生み出すようなリテラシーも土壌もなかった訳だよ」


ほんほんほん。と彼女が頷く。

「だがわからないのは、何だって君らは高校生にもなってあんな単純な計算をさせられてるんだい?世界を見ろよ!世界のハイスクールでは皆二次方程式やら代数やら背理法やら空間図形をこなしてるんだぞ?」


「…シャーロックの政策の1つだよ。学校教育とは労働、及び社会貢献に適した人間を育てる職業専門過程である。って言う一文が、僕らから数学のコマを奪ったのさ。」

シャーロックが欲するのはもはやノーベル賞を獲れる天才の出現や優秀なクリエイターではなく、自分の運営する社会にとって望ましい駒だ。

当たり前だけど、人間がどんなに頑張ったってシャーロックに勝ちうる研究成果や科学的知見を生み出す事は出来ないのだし、そうであればシャーロックを支える存在として彼の研究成果の後押しをするのは確かに効率が良いことだった。

でも…



「でも君はこっそり数学を勉強していると。」

「哲学は浅羽の趣味なんだけどさ。学校に求められてない余分な事を隠れてやるって結果辛いから。心の拠り所が欲しくて僕も読んでたんだ。」


「素晴らしいことじゃあないか?学校では学べないことを自ら進んで取り入れているなんて」


「カッコいいって言われちゃうよ」


「?coolで良いって事じゃないか」


「もし数学や哲学を嗜んでいる事がバレたときに僕に向けられるカッコいいって単語があるとしたら、それは必ず ”学校の勉強で日本一ならわかるけど、俺より成績低いくせして他の勉強するとか余裕じゃんワロタ”って意味だから」

「はーーーーーーっっっっっ!!!!!めんどくさっ!めんどくさっ!日本ヤバイな!」

「僕からすれば君も充分ヤバイけど…ねぇそんな事よりさ、君も数学が得意なんだろう!?良かったらイギリスで勉強してたことを、僕に教えて貰えないかな!?」


「…君ね、さっき私になんでもするから本の事を黙っててくれと懇願したばかりだろ?」

うっ。そう言えばまだ答えを聞いていなかった。

「ふふーん♪まぁ良いだろう!本の事も数学を学んでいることも、全部黙ってやろう!そしてついでに!私がイギリスで学んでいたことも教えてやろうではないかーーーっ!」

「うっそ!!!良いの!?」

「もちろんなんでもするというのは守ってもらうぞ?」

首を全力で縦に降ったこの時に僕の運命は決した。


「早速だが1つお願いだ。」

「なんでも言って!僕頑張るよ!」

「頑張るような事じゃないさ。君にね…」

ゴクリと唾を飲んで続く言葉を待つ。



「私の数学の先生をしてほしいんだ。」


「…ん?いや、構わないけど、多分僕よりも守家さんの方が余程数学出来ると」

「いや無理なんだ。だって私数字が読めないし!」

「…んん!?どういう!?どういうこと!?」


「ディスレクシアなんだ。数学に意味情報を見いだせないのさ、私の脳はね。でも」

「でも…?」


「ディスレクシアで引かれた分、私には個性が備わってるのさ!共感覚と高度な記憶力の二つがね。だから全く数学が出来ないわけではないのさ!」

「いや、でも数字読めないのにどうやって」


「共感覚とは、一つの情報に二つの感覚が伴う事を言うんだ。誰かが肩を触られているのを見ると、何故か自分も肩を触られているように感じたり、

文字を見ると色や味を感じる人もいる。私は数字の意味はわからないが数字という記号は見えてる。

記号に私は色を感じてる。その色を全部覚えて色の組み合わせで数式を作ってるのさ!」


















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