四月 黄昏時

そう言う先生は歯を噛んで笑っていた。

でも確かに、先生の右拳は握られていた。

先生の右拳は、音楽会の後の俺と、

全く同じだった。

誰に腹が立つのだろう、先生は誰に怒ってるんだろう。

色んな疑問が浮かんできたけれど、ひとまず、はい、俺もです。と俺も右拳を握った。

先生が急にこっちを向くので、俺は先生と目が合った。

そして先生は確かにそう言った。

「ヨシを死なせたやつが......マツに.......死にたいと思わせたやつらが.......」

先生の、お前は悪くないって、そう言う気持ちが言葉の裏側にあったので、

「俺も.......憎いです.......」

先生も悪くないです、と裏側に貼り付けた。

誰のせいとかそういう事は実際どうでも良くて。

先生もきっとそれは同じで。

ただ、ヨシがいなくなったこの悲しみを軽くするには、怒りに変えるしかなかった。矛先はなくても。

目的地のない怒りは、散々迷った挙句、自分の元に帰ってくる。

結局、俺が悪いって思ってしまう。

先生も多分いっしょ。

自分で自分を傷付けるくらいならばと俺は。

「先生、俺に言ってください。全部、俺に、。」

先生は、何を言ってるか分からないと言いたげな目で俺を見下ろす。

俺は真っ直ぐに先生を見つめ返す。

「.......俺は先生だぞ。」

ははっと笑いながらそう言う先生の目は、寂しそうだった。

俺は先生だからマツは言っていいよって。そんな事言わないでくれと思っても、優しい先生は直ぐに言う。

「言っていいって言ってくれるのは嬉しいし、是非そうさせてもらいたい所なんだけどさ.......」

また笑いながら、先生はそう言う。

俺も本当はそう。

言っておきながら、俺も同じ。

「なんて言ったらいいか、わかんないよ、」

誰に怒ればいいか、なんて怒ればいいか、誰かに教えて欲しいくらい、考えても考えても答えは出ない。

考える程、悔しくて悲しかった。

俺の涙が止まった頃にクラスメイトの足音が聞こえてきて同時にチャイムが鳴った。

「……次の時間は算数かー、。

よっし、授業すっか。」

先生は目をゴシゴシ擦って

口角を少し上げてから、言った。

そんな先生をひたすら見つめていると

先生がこっちを振り向いた。

目が合った。

「どーする。授業うける?それとも、抜ける?」

「受けなくても……怒られない…ん……ですか……?」

もう切り替えなきゃ。

ずっと抱えててもヨシが帰って来ることは無いから。

「いいよ、受けなくても。」

「そうなんですね。」

俺も口角を上げて答える。

先生も受けなくていいじゃないですか。

そうは言えなかった。

先生の目が力強かったから。

表情から不安の色は微塵も見えなかった。

さっきまでの寂しそうな笑顔が他の人のものと思えるほどに。

先生が行くなら。俺も。

「受けます…。俺、授業受けます。」

「そっか。じゃ、席。」

俺は頷いて、目を擦り涙を拭った。

先生も、立ち上がり教卓へと歩く。

教室に段々とクラスメイトが入ってくる。

特にいつもと変わらず話しながら、笑いながら、各々の席に着く。

そうしてチャイムが鳴り、

先生は授業を始めた。





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桜守 浅葱 @sakura2121

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