第16話 現在-8

現在-8

 

2019/07/03

 

 俺が欲しかったものは――

 

「この夕のネックレスと」

 

 俺は手の中ネックレスをジッと見る。

 夕との想い出のネックレス。

 

「お前が夕を殺したっていう証拠だよ」

 

「証拠……?」

 

「このネックレスはお前が犯人であることを示す、徹底的な証拠だ」

 

 俺は、これを見つけるために志田に近付いたのだ。

 俺は夕のことをポーカーフェイスが上手いと思っていたが、俺もかなり上手かったようだ。

 俺はいつも志田を殺したいと思っていたのに、こいつはそれに気付かなかった。

 一緒に授業を受けたとき。

 一緒に酒を飲んだとき。

 一緒に歩いたとき。

 こいつを殺したいと思わないときは無かった。

 ずっとずっと、我慢していた。

 この時をずっと、待っていた。

 ――ああ、本当ここまで長かった。

 まず、志田の財布を盗む事から始まりだった。

 カバンから飛び出てた財布を抜き取るのは、簡単だった。

 財布に鍵が入っていたら、一番楽だったのだが、そうじゃなくても、志田に近付く口実作りになる。

 ただ鍵を入手するのも、思ったより簡単でビックリした。

 志田は俺と会って二日目で俺を部屋に入れるばかりか、トイレに10分も篭るもんだから、俺は鍵を盗むだけじゃなく(鍵をしまった場所は、部屋に入るときに見ていた)、その時点で色々部屋を調べる事もできた。

 志田がシャブ中で鍵が消えたタイミングが、自分でもわからくなっていたのも幸いで、盗まれたとすら思わなかったのは助かった。

 ……そして、志田の部屋の鍵を手に入れてやることは一つだった。

 夕のネックレス探し。

 ただ、志田の部屋で鉢合わせしたら、全てが台無しになるかもしれない。

 だから、保険で、『俺の出席カードを書かせる』ことを頼むことによって、その時間は講義から動きにくくしてから、志田の家でネックレス探しを行うようにした。

 何度も探したけど、見つからなかった。

 志田が犯人だとわかってはいたが、夕のネックレスを取っておくとは限らない。

 それでもあると信じて、探し続けた。

 そして、今日、ようやく見つけた。

 

「お前が犯人だ」

 

 俺は志田を見下ろす。

 

「ま、もう自白も録れたから、宣言する意味も薄いけどな」

 

「え……?」

 

「さっきのお前が自分は殺人犯だって告白を、俺が録音してないと思うのか?」

 

 ……最近のスマホはホント便利だ。

 少し操作しただけで、ボイスレコーダーに早変わり。

 覚醒剤の使い方解説も、殺人の自白も録音することができる。

 さて……

 

 

 こいつをどうしようか。

 

 

 ――俺は夕が好きだ。

 俺は志田が嫌いだ。

 ――夕ともっと一緒に居たかったのに。

 俺はこいつの腕も足も腹も頭も首も顔も髪も何もかもが嫌いだ。

 ――夕に、長く幸せに生きて欲しかったのに。

 憎い。

 ――今、夕はこの世に居ない。

 夕を殺したこいつが憎い。

 ――だから。

 だから。

 こいつはできるだけ苦しめてから、殺したい。

 

「あんたは」

 

 俺は、喋り出そうとした志田の後頭部を殴りつける。

 クソの声を聞いてしまったため、つい殴ってしまった。

 

「……あんたは」

 

 志田そのままセリフを続けた。

 

「私を殺さないよね?」

 

「今の言葉で、お前を殺す方法を考えるのが一気にめんどくさくなったんだが、どうしてそう思う?」

 

「こんなこと、中原夕は望んでないよ?」

 

「……」

 

 このゴミは適当に言ったのだろうが、それは確かに正しい。

 夕はこんなことを望むような奴じゃない。

 それに警察に引き渡せるだけの証拠もある。

 だけど

 

「これは夕のためにやっているわけじゃない」

 

 俺は夕を殺したこいつを殺したい。

 俺の心が叫んでいるんだ。

『殺せ』と。

 死ねよ、クズ。

 俺は後ろから志田の首に手を当てる。

 

「俺がやりたいからやるんだよ」

 

 俺はその首を思いっ切り絞めた。

 苦しいからか、志田が嗚咽を漏らす。

 その声が余計に憎しみを駆り立てて、更に力を込める。

 それを何度も繰り返した。

 

 

 

 ――俺は夕が好きだった。

 俺は夕を愛している。

 だから、俺は。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る