第4話 現在-2
現在-2
2019/06/07
「あー、頭がいたい!」
一時限目が始まる五分前の講義室。
俺の隣に女がドガっと座る。
志田だった。
「あ、ヘタレじゃん」
俺の方を見て、志田はそう呼ぶ。
「別に好きに呼んでくれて良いけどよ、お前、その調子で次の授業出れるのか?」
志田の顔を今にも死にそうってヤツだった。
「無理そうだわ……」
志田は額を机に当てる。
「酒、飲み過ぎだ」
「ま、それだけじゃないけどねー……」
志田は額を机に当てたまま、くぐもった声を出す。
「この授業の小テストはなんとか受けるけどさ、二時限目の授業の出席カード、代筆しておいて。その時間用事あるし」
「ああ」
俺は二つ返事で頷く。
「お、良い返事。それが昨日もできたら、良かったのにね〜」
「……」
俺はネックレスのチェーンをさする。
「ま、もう一回チャンスをやろう」
「は?」
「今日も私の家に来て良いよってこと」
志田は額を押さえながら、笑みを作る。
「あ、もちろん酒持ってきてー」
「……別に良いが」
正直、嫌な予感しかしないが、断わるのも面倒な気がした。
「おら、服脱げよこら」
「……」
適当な理由付けて来なければ良かった。
「私を抱けないって言うの?」
今日も酒飲んで、トイレでスッキリしたら、志田はこんな絡みをし始めた。
「お前はなんでそんなに抱かれたいんだよ……」
こいつの貞操観念ってどうなってるんだろう。
「え?だって、顔が良い奴と気持ちいいことしたいじゃん」
「……」
……まぁ、そんな感じか。
「お前はそうかもしれないけど、俺はそういう気分じゃないんだよ」
「じゃあ、どうやったらそういう気分になる?」
「さぁな」
俺は適当に言いながら、ビールを志田に差し出す。
「おりょ?」
志田は素っ頓狂な声を出す。
「俺達は一緒に酒飲んでるだろ?だから、さっさとビールを楽しめ」
俺もビール一本袋から抜き取り、それを口の中に流し込む。
「……上谷、酒にしか興味ないの?」
「それだけだったら、わざわざここに来たりしない」
「……そう」
志田は急におとなしくなる。
「じゃあ、飲むかー!」
「飲め飲め」
俺と志田は一気に飲む。
今日の宅飲みは中々終わりそうにない。
2019/06/12
「今日の二時限目の出席、任せていいか?」
一限の小テストを終えたあと、志田に俺はそう小声で声をかけた。
「……ま、良いけど。理由は?」
「ちょっと用事があってな」
「ふーん……。その用事って何?」
「欲しいものがあるんだよ」
俺は手早く荷物をリュックにしまう。
「じゃ、任せたぞ」
俺はそのまま講義室を出た。
誰かにつけられている。
まさか、俺の人生でこのワードを使う日が来るとは思わなかった。
ただ、不気味な感じはしない。
ミラーで見たら、知っている奴だった。
「はぁ……」
軽く小走りで角を左に曲がり、体の向き180°変える。
俺を見失った尾行者の慌てる走り音が聞こえてくる。
そいつは見失った俺を追って角を曲がると
「うわ、危なっ」
俺にぶつかりそうになる。
「……何してんの、お前」
目の前にいたのは志田だった。
「……いやー……」
流石の志田も少しバツが悪そうだ。
「いや、じゃない」
「怖い言い方するなよぉ」
志田は情けない声を出す。
「……」
俺はそれに無言で返す。
「……あんたがどこ行くのか、気になっただけ」
志田は開き直ったのか、いつもの強気な態度に戻る。
「それで、次の授業の出席は?」
「一回ぐらい出なくても大丈夫でしょ」
なぜか志田は勝ち誇っていた。
……
「はぁ……」
俺は首元のネックレスの鎖を弄る。
「……どっかのレストランで飯でも食うか?」
「え?」
「あんまり人連れて行きたい所じゃなくてな。だからと言って、今から大学戻るのも面倒だし」
「……誘ってくれたんだから、あんたの奢りだよね?」
「……ああ、良いぞ」
「やった」
志田は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
初めて志田の笑顔を見たような気がする。
今までの乱暴な、皮肉めいた笑みじゃなくて、純粋な志田の笑み。
それを見て、俺は――
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