マスマジックス~魔法の数学を使えるようになりませんか?~
ざわふみ
第一章 数と術式
第一回目 降べきの順・昇べきの順
日本の山奥にある高校では1週間に1回その授業がやってくる。
教室のドアを開けて入ってきたのは黒縁メガネをかけた男性だった。
――彼は青山きびす、25歳の教師。自称170センチである。
科目は数学。ただし、数学と言ってもただの数学ではなく、魔法を使った数学である。
その教室のど真ん中、ほぼ中央にJK、女子高生が机に向かっている。
広い教室の中、教師とその女子高生だけが存在している。
彼女の名は
机に教科書は開いてあるが、ノートは閉じたままになっている。
「じゃあ授業を始めるぞ!…って朝から元気だな、俺」
青山きびすは自分で自分にツッコミを入れてみた。反応は何もなかった。
JKの右手にはシャーペンが握られている。ペン回しをしていたが、それが速くなったぐらいである。今、彼女の脳は絶賛高速でフル回転している。活性化されまくりである。
ある程度活性化した後、ノートをゆっくりと開いた。
「まず何乗ってやつのおさらいだ。ある文字aを2回かけたものを2乗、もしくはじじょうという。ちなみに俺はじじょうの方を使っている。で、3回かけたものを3乗、4回かけたものを4乗というように、かけた分だけ増えていく。ここまではいいか、
「あぁ、うん。そうだね。そうですね」
ゆなは曖昧な返事をした。どうやら違うことを考えているようだ。
「おーい、三度!聞いてるかー?」
「はっ!聞いてください、青山!今ゲームでつまづいてることがあって…」
「先生だ!青山先生。ゲームは今関係ないだろ…。授業中で、おさらい中だ!」
青山きびすはびしっとゆなを指差した。
「うわっ、いつの間にか黒板に文字が書いてある!えー、いつ始まったの?」
「ちょうど三度がペンをぐるぐる、ぐるぐると高速回転してた時だ!」
「おうっ!あたしがゲームの攻略の仕方を考えてた時だ!始まったなら始まったって言ってくれればいいのに」
お気楽JKゆなは、自分の肩までの黒髪をくるくる指で巻いて言う。
「三度、お前の耳はどうなってる!?一番初めに言っただろ!しかもしらけて…。まるで俺の独り言みたいになったぞ!」
「ごめんごめん。やっぱゲームは危険だー!すごいな生み出した人。売り出した人」
「俺は三度の友達じゃないんだが…。まあいい。続きを始めるぞ!」
「はーい!」
ゆなは手を元気に上げて返事をした。
「お前は小学生か!」
ツッコミ教師青山はチョークを黒板に当てて、また書き始めた。
「いくつかの文字や数を掛け合わせた式を単項式と呼び、単項式において、数の部分を係数と呼ぶ。そして、掛け合わせる全ての文字の個数を次数と呼ぶ。で、いくつかの単項式の和として表される式を多項式と呼ぶ。ここまでは分かるか、三度」
「つまり、2abcみたいのが単項式、それの数字の部分が係数、文字の個数が次数。その単項式の和が多項式だねー!」
「おい、三度。…よく分かってるじゃないか!さてはお前、帰って猛勉強してるな」
「えへへー!あたしもやればできる子なんだよー!…まあ、ここでつまづいてたら後の祭りだけどね」
「それは意味が違うぞ、三度」
「あれーっ?」
ゆなはおとぼけをかました。
「ちなみに、aの3乗は?」
「aかけaかけaでしょ。aの右上に数字の3だし」
いやみJKがここに誕生した。
「そこは抜け目ないな…。数学は外さないのか…」
ツッコミ教師青山は心で舌打ちをした。
「続けよう。多項式の文字の部分が同じであるものを同類項と言う」
「えっ?」
「多項式の文字の部分が同じであるものを同類項と言う」
「へぇー、そうなんだ」
ゆなは横を向き、聞き流すふりをした。
「x(えっくす)2乗+2x(えっくす)2乗y(わい)の同類項をまとめると?――」
「かっこ、1+2y(わい)かっこ閉じx(えっくす)2乗でーす!」
いやみJKはまだ健在だった。
「そして、単項式と多項式を合わせて整式と呼ぶ」
「おーい、せんせー!無視ですか―」
いやみJKはチョークで板書する青山の背中に手を振って、存在をアピールしている。
板書し終えた青山はいやみJKに向き直ると、目を見開いた。
「遂に今日の本題に入るぞ!」
「わーい!――それって何なんですか?」
「ずばり!降べきの順だ」
「請うベッキー?何それ」
「違う。降べきの順だ!それだとベッキーが請う、みたいじゃないか」
「それもそうですね。ごめんちゃい」
ツッコミ教師青山は再び板書をする。
「数学では整式のある文字に着目し、項の次数を低くなる順に整理する。これを降べきの順と呼ぶ。逆に高くなる順に整理するのを昇べきの順と呼ぶ。ほとんどは降べきの順に並べるぞ」
そう言った後、教科書を指差して青山は続ける。
「じゃあ教科書の問1、2bx2乗-5x4乗+3+x5乗を、xについて降べきの順に並べてみろ、三度」
「しばし待たれよ、青山氏。あと3秒だけ」
ゆなは高速でノートに答えを書いている。書き終わると立って、答えを黒板に書き始めた。黒板に答えを書くと、誰もいない自分の席に向かって発声した。
「x5乗-5x4乗+2bx2乗+3ですっ、はい!」
「どこに向かって言ってるんだ?…まさか、透明な何かがいるのか!?」
「いえっ、いません!」
ツッコミ教師青山は持っていた教科書でいやみJKの頭を軽く叩いた。
「まあいいが…」
青山は姿勢を正すと真面目な顔に戻った。
「ここまでは普通の数学だ。ここからは魔法の数学でいくぞ!」
ゆなは席に戻ると「待ってました!」と叫んだ。
「そしたら問2、abx+2x2乗y-5y2乗+1-3x3乗をxについて、魔法の数学で解くぞ!」
青山は教卓の中から色が付いた小さい円柱を取り出した。色は4色でそれぞれ、赤、青、緑、黄色だった。その円柱を教卓の上に並べた。
「この円柱の、そうだな…。赤をabx、青を2x2乗y、緑を-5y2乗+1、黄色を-3x3乗として…」
青山は単項式をそれぞれの円柱にマジックペンで書きこんだ。
ゆなはその間に問2の答えをノートに書いた。
「解けたか?」
「はい、解けましたよ!」
「よし、準備万端だな!そしたら教卓の前に出て来てくれるか」
ゆなは教卓の前にゆっくり進み出た。どこにでもありそうな制服を着た女子高生、三度ゆなは腰で手を組み、体をくねくねしながら一歩ずつ歩いた。
「お前、顔はまあまあ良いのに中身は残念だな」
「失礼ですよ、先生!あっもしかして…あたしのこと好きなんですか?」
「いや、哀れんでるんだよ、お前の将来を…」
ツッコミ教師青山は自意識過剰JKに手を合わせて頭を下げた。
「あたしはパワースポットか!」
逆転ツッコミJKはツッコミ教師青山の頭を叩こうとしたが、身長差がありすぎて届かなかった。
「分かった。もういいから次行くぞ!」
青山はゆなと向かい合うように教卓を挟んだ。
「じゃあ三度、この円柱に両手をかざして、問2の答えを頭に思い浮かべてみろ!」
ゆなは言われた通りに4色の円柱に両手をかざし、答えを思い浮かべた。
「うん。思い浮かべたよ!」
「そしたら、これから俺が言うことを真似してくれ」
「いつでもいいよ!」
ゆなは友達のような口調で言ったが、青山は気にせず続けた。
「心のままに真実の場所を示せ、位置換え!」
「心のままに、真実の場所を示せー、位置換え!」
ゆなが決め顔で詠唱を終えると変化が生じた。
教卓の上が光り出し、円柱が一瞬消えたかと思うと次の瞬間には並びが変わって現れた。
初めは赤、青、緑、黄色で並んでいた円柱が黄、青、赤、緑色の順になっていた。
「答えは…-3x3乗+2x2乗y、+abx-5y2乗+1だな。正解で成功だ…!」
青山は魔法が上手くいった嬉しさに
「うぉー、すごー!あたしの魔法使いへの一歩が踏み出されましたー!」
「それは大げさだ。三度はせいぜい、おちゃらけ残念女子高生止まりだな」
ツッコミ教師青山は、おちゃらけ残念女子高生の頭をぽんぽんした。
「ちょっとー、背が縮むからやめてくださーい!」
ゆなは青山の手をどかした。
青山はふっと笑うと、「すまんな。三度を励まそうとしただけなんだ」と言った。
いやみJKは青山のいやみの混じった励ましが何なのか分からず、疑問だけを残した。
そして、その日の授業は幕を閉じたのだった。
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