第3話 きっかけ

「ほんと美少女だよなー、渚ちゃん。明るいし胸もおっきいし」




しみじみと圭吾が言う。彼女持ちなのにいいんだろうか。あとで告げ口することも考えておこう。




「んー、俺は綾乃ちゃん派かな、優しいし。なんかなんでも許してくれそう。この学校みんなレベル高いけどあの二人はちょっと抜けてるよな、一緒のクラスで良かったわ」




健人もつられて話す。綾乃も輪の中に入って楽しそうに見える。


綾乃と渚を囲むように男女が集まりクラスの中心となっているリア充グループ。それを外から眺めているのが今の僕の立ち位置だった。




「湊ってあの二人と幼馴染なんだろ?羨ましいなぁ。お前はどっち派なの?」




「あ…僕は…」




ただの興味本位なんだろう。話の流れで健人が聞いてきた。それに対して答えあぐねていると、教室の扉が開いた。




「はい、席についてー。いつまでも話してたら駄目よー」




先生が教室へと入ってくる。健人は前を向き、圭吾も少しばつの悪そうな顔をしながら自分の席へ戻っていった。


…正直助かった。あの質問に僕は上手く返せる自信がなかったから。


毎朝一緒に登校してくる仲の良い幼馴染。彼女達のことをそういった目で見たことはなく、むしろ苦手に思っているのだから。




きっかけは中学に入ってすぐの頃だったと思う。


僕の容姿は当時から男らしいものではなく、女の子のようであったため同級生から軽いいじめにあったのだ。たまに野次られたり小突かれる程度ではあったが彼女達は目ざとく気付き、すぐにいじめは収まった…僕の心に湧き上がった、劣等感と引き換えに。




女の子に助けられたという事実が僕を余計惨めにさせたのだ。しかも可愛くて頼りになって皆に好かれる幼馴染に。僕は男なのに、彼女達に勝てるものをなにも持っていなかった。それ以来変わろうとずっと努力し続けた。




でも勉強では綾乃に勝てず、運動では渚に絶対勝てなかった。人望なんて言わずもがなだ。


泣きたくなった。それでも最後の意地で泣くことだけは絶対にしなかったけど。




そんな彼女達と今でも一緒にいるのはたとえ苦手でも嫌いになりきれなかったからだと思う。




ずっと一緒にいたから。


楽しかった思い出もたくさんあるから。




「でも、それでもやっぱり離れないといけないよな…」




そうでないと、きっと僕はこの劣等感に永遠に苛まれ続けるのだと思う。


きっかけが欲しい。


何かが変わるきっかけが。


それがくるときを願いながら僕はその日の授業を受け続けた。




「やっと終わったねー」




「みーくんは部活にいくの?」




授業が終わり、二人が僕の席にやってくる。




「うん、今日も行くよ。入部したばかりでサボるとかできないしね」


僕が所属してるのはバドミントン部だ。中学から続けていて、そのまま高校でも入部していた。




「そか。頑張ってね、いつも通り一緒に帰ろうねー」




「それじゃまた後で」




二人はテニス部に入っており、教室の外で既に待っている女子生徒が何人かいた。本当に人気者だな、と思いながら僕も立ち上がった。




「んじゃ俺らも行くか」




健人が声をかけてくる。彼も同じ部活でそれがきっかけで仲良くなったのだ。二人並んで体育館まで歩いていく。その途中の廊下で健人が口を開いた。




「あのさ、あんな可愛い幼馴染がいていうことじゃないと思うんだけど…」




少し目を泳がせながら話し始める。何故か僕はその時、少し胸が弾んだ。




「湊を紹介して欲しいってやつが知り合いにいるんだよ。同じ中学のやつなんだけどさ。どうしてもっていうから話だけはしておこうと思って…」




僕は答えた。迷うこともなかった。




「うん、いいよ。どんな子なの?」






僕は、ただきっかけが欲しかったんだ

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