家捜し勇者

『こんなことなら、

元の人間世界から宇宙服でも

盗んで来るんだったな』


スペースコロニーの残骸と思われるここには

人の姿が全くなく既に廃墟のようであった。


しかも老朽化具合から見て

人がいなくなってから

相当長い年月が経っている様子。


それでも

太陽光を取り込む機構はまだ動いているのか

中はそれなりに明るく、

空気も植物が光合成で酸素を供給しているためか

今はまだ空気が全くない無酸素という訳ではない。


以前の勇者であれば

別世界から瞬間的に宇宙服を盗んで来ることなど

造作も無いことだったのだが、

今は神々によって

彼の能力は制限されていた。


-


改めて勇者は、

状況を整理しようとする。


ダンジョンの探索調査で

異世界の地中深くまで潜り

鉄の扉を通ったら

宇宙にあるスペースコロニーに辿り着いた。


状況整理したところで

訳が分からな過ぎて

勇者も泣きたくなって来るというものだ。


『しかし、この世界の地中に

宇宙があるって、あれか、

体内に小宇宙コスモがどうのって

みたいなもんか?』


勇者は泣き言の一つも言ってみる。



原因は間違いなくあの鉄の扉。


勇者が通った時の感覚からすれば

あれが異世界と別の異世界を繋ぐ

ゲートになっているように思えるが、

そうであればここはまた別の異世界で、

その世界に存在する宇宙に来たことになる。


だが、このスペースコロニーの残骸が

ダンジョンがあった世界における

滅んだ先史文明の遺跡、

という可能性も否定は出来ない。


この場合は単に

地中から宇宙に転移で

飛ばされただけとなる。


その辺りを今ここで

あれこれ考えても仕方がないのだが、

未知なる物への冒険は

勇者も嫌いではない。


今の転移流浪の生活も

結構気に入っている、

神々にいい様に使われているようで

そこは少し癪に障るので、

いつかまた神々に

一泡吹かせてやろうと思っているが。


-


コロニー内部の探索をはじめると

目にする物が珍しくて仕方がない

ドン・ファンは興奮しまくっていたが、

勇者からすれば何とも微妙な気分であった。


かなり老朽化した廃墟とは言え、

元の人間世界で

見慣れた形状の家、他人の家に

次々と入って家捜やさがしするのは、

火事場泥棒感が半端ない。


被災した地域に残された家を

金品がないか探し回っている

泥棒にでもなった気分。


『いやぁ、これ

コソ泥感半端ねえわ』


そう思いつつも勇者は

ここに残されている物の中に

印字されている筈の文字を探す。


-


そして勇者は

廃墟となっている無人家の台所で

真空パックされている

宇宙食らしき物を見つけた。


これがここでの

常用食だったのかは分からないが、

パッケージに印字されている文字は

少なくとも日本語や英語などではない。


人間世界も様々な言語があるので

それだけでは断定出来ないが、

やはり勇者が元居た

人間世界ではないのかもしれない。


ただ生活様式やスタイルは

非常によく似ているので

もしかしたら人間世界の

パラレルワールドという可能性もある。


勇者はそう推察しながら、

手に持つ宇宙食を

ドン・ファンに放り投げた。


「ほら、これ食ってみろよっ」


それをキャッチするドン・ファン。


「そんな古そうなもん

食える訳ないだろっ」


「何言ってんだ、

これは真空パックという

俺が元居た世界の技術で、

何百年経っても

腐らないようになってるんだぜっ」


勇者の口から出任せに騙されて

ドン・ファンは封を切り、口にしてみる。


「ぶっ!!

お前等本当に

こんな不味いもん食ってたのかよっ?」


『それ、やっぱり

食えなかったんだな』


-


「しかし今日は

巨大ゴーレムはいないようだな」


「えっ?」


ドン・ファンの一言に

勇者は嫌な予感しかしない。


「今、なんて言った?」


「いや、いつもは

ここで出るんだよ、

緑のデカい巨大ゴーレムが」


『ちょ、ちょっと待て、

宇宙で、スペースコロニーで、

緑の巨大ゴーレムって、

アレしか思い浮かばないんだが』



まるでその話を

聞いてでもいたかのように、

遠くから巨大な人影が

地響きをさせながらやって来る。


「噂をしたら来やがったなっ!」


『あぁ、やっぱりか……

やっぱりアレなのか……』


その姿を見た勇者は

その巨大ゴーレムが

自分が昔見ていたアニメに出てくる

緑の巨大ロボットに

そっくりであることに驚愕した。


『まさか、こんなところで

本物が見られるとは……』


緑の巨大ゴーレムは

赤く発光する一つ目を

左右上下に動かしながら、

まるでここに侵入して来た者を

探しているかのようであった。





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