初手、核

厚い雲に覆われ

太陽が隠された鉛色の空。


魔族達の大軍勢、その行軍で

舞い上がった砂や土の埃が

地表の大気を濁らせ、

その中を無数の人影だけが

動き続けて行く。


その数は遥かに広がる地平、

その全てを覆い尽くす程であり、

上空から見下ろすと

地平が見えなくなる彼方まで

途切れることがない。


地上の軍勢と同じく

空を覆い尽くさんばかりの軍勢が宙を舞い、

やはりこちらに向かって来ている。


総勢数百万なのか千万以上であるのか

正確な数はもはや計りようもないが、

途方もない数であることは

間違いがない。


それがこれから勇者達が戦う

敵の物量である。


-


勇者は決断を迫られていた。


次の戦いは総力戦になると予想はしていたが、

まさか魔王がここまでの大軍勢を

送って来るとは思っていなかった。


こちらも勇者のクローン部隊

その兵数は既に数十万人を超え、

イヴァンとフロリアのクローンを

各数万人ずつ準備はしていたが、

それを遥かに超える敵総数である。


魔王は本気で魔族のすべてを

この戦いに駆り出す気なのであろうか。


その場合、最終的な敵総数は

以前試算したことがあったが、

おそらく億を超えるだろう。


-


この大軍勢を前にして、

おそらく核兵器が最も効果的であるのは

疑いようもなかったが、

それが使える回数は限られている。


この世界の規模から考えて、

核兵器を使える回数は

ギリギリ三回と言ったところか。


それ以上使えばこの世界全体が

堪えられなくなってしまう、

いや三回でも危ないかもしれない

本当にギリギリのところだ。


既に勇者はアンデッドを掃討するのに

一度核を使っており、残りは二回、

そしてその内一回は

魔王の城を攻める際のために

出来れば温存しておきたい。


転移消滅が効かない可能性が出て来た現在、

魔王を城ごと消し去るには

核兵器の力に頼ることになるかもしれない。


-


『やるしかない』


しかしそれでも結局は

核を使わざるを得ない、

この数はさすがに只事ではない。


勇者軍初手、核。


勇者は敵大軍勢の真上に

巨大なゲートを出現させ、

核ミサイルを高速で

地上へと打ち込んだ。


爆心地から半径約二十キロメートル、

その範囲内にいる大軍勢のすべてが、

閃光と共に業火の中に消えて行く。


以前も見た巨大なキノコ雲が

天高くへと登り詰め広がり続ける。


半径約二十キロメートル圏内、

その中の敵は跡形も無く

焼き尽くされ消え去った。


空中を舞った土や砂、そして灰が

黒い雨となり地上に降りはじめる。


しかしこれはまだ

戦いの開始を告げる

ゴングにしか過ぎなかった。


魔王軍の後続は進軍し続けて来ている、

地上に降り注ぐ黒い雨の中を。






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