勇者、要害戦

魔王の復活

魔王は復活を果たした。


やはりあの老人が魔王であったのか。


この世界の魔族、

おそらく全員ではないだろうが、

かなりの数が元人間である、

そう考えると勇者には

辻褄が合うことが多い。


そもそも冷静に考えれば、

人間より遥かに寿命が長く、

子孫を残しして

個体数を増やす必要が無い魔族が

これだけ一方的な数になるまで

増殖していること自体が

おかしな話ではあったのだ。


それに秩序と規律があり

律儀な面もある、おそらくは

人間であった頃の習慣であろう。


そしてイヴァンを複製する時に見た

人間のそれに酷似した遺伝子情報。


しかしイヴァンを見る限りは、

人間の頃の記憶は全く無く、

忘れてしまっているようだ。



つまり勇者は元この世界の人間を

大量虐殺して来たことになるのだが、

そこは今更どうこう考えても仕方がない、

そもそもそれが神からのオーダーなのだから、

そう勇者は割り切っている。


しかし、それを考えると

あの転移の女神も胡散臭くなって来る、

そのことを知っていて

自分をこの世界に寄越した可能性が高い。


考えることはいろいろとあったが、

時間はそれ程なかった。


魔王が復活したということは、

おそらくは総力戦になるであろう

次の戦いがすぐにでもはじまる

ということでもある。


-


勇者はすぐに敵内部に潜入したが、

結局魔王の姿を

捉えることは出来なかった。


魔王を暗殺するように

勇者が催眠洗脳を掛けていた

四魔将のアインは人知れず殺されていた。


四魔将のツヴァイとドライもまた

粛清を受け処罰されている。


しかも魔王本人は姿を現さずに、

別の者を操りそれを実行させる、

おそらくは勇者と同様に

他者を自由自在に操れる

能力でもあるのだろう。


三人の将軍を処分すると

魔王はすぐに内部を立て直し、体制を整え、

戦いの準備を命じた、

東側の勇者と人間達を一掃するために。


-


勇者はイヴァンに確認する、

魔王の能力を。


「魔王の能力については、

わたくしにもよくわからないのです、

まず滅多に姿を見せることがありませんでしたし、

人前で能力を使うこともまずありませんでした」


「東側に直接軍勢を

転移させて来る可能性はあるか?」


勇者の一番の懸念はそれであった。


外から地続きを侵攻して来るのであれば、

東側の大陸自体を要塞化したため

まだ対抗は出来るのだが、

中に入られてしまうと

正直対抗策がほとんどない

と言うのが現状。


この期間でさすがにそこまで手は回らなった。


「それはおそらくないでしょう。

今までそのような戦い方を

魔王がした記憶はありません」


とりあえず勇者一番の懸念は

外して考えても問題なさそうである。


「ただ、もし魔王が勇者様の

転移能力を知っているのならば、

何かしら対策をして来るでしょう」


「例えば、アンチ転移フィールドなど」


『アンチ転移フィールド』


ここまでほぼ転移に頼って来た

勇者にとっては致命的になりかねない。


そしておそらく

あの老人は勇者が

転移能力使いであることを知っている。


「ただ、アンチ転移フィールドは

広域に張ることは出来ません。


例えば、城全体を覆うとか

せいぜいその程度です」


これで勇者が魔王の城を丸ごと

転移消滅させるという望みは

ほぼ無くなったと言っていい。


-


そして地平を埋め尽くさんばかりの

魔王の大軍勢が

東側を目指してやって来る。






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