迷惑電話

TRRRRRR……

TRRRRRR……


勇者の携帯が鳴った。


『ま、マズイ、こんな時に』


透明化して敵地潜入している勇者。


「おい、なんか変な音してないか?」


少し離れた所に居る敵兵が

携帯の着信音に気づく。


いくら透明化しているとは言え、

このままではバレてしまう。


『チッ、なんでこんな時に』


仕方ないので

誰もいない場所に移り、

携帯に出る勇者。



「勇者様ぁ!

ごめんなさいぃ、

魔王軍の人に捕まっちゃいましたぁ」


電話からはテトの

情けない声が聞こえて来る。


勇者は携帯電話を即切った。


そして何事もなかったかのように

潜入調査に戻って行く。


『何の用事かと思えば、

しょうもないことで掛けて来やがって』


ちょうど今重要な話が

聞けそうだったのを邪魔され

勇者は機嫌が悪い。


-


TRRRRRR……

TRRRRRR……


再び勇者の携帯が鳴る。


「勇者様ぁ!

こいつらの命が惜しければ、

今すぐ助けに来いって言ってますぅ、

お願いですから助けてくださいぃ」


勇者はまた即電話を切った。



切っても切っても

何度も何度も

その後も電話は掛かって来る。


お陰で何も話していないのに、

用件の内容が勇者にもわかってしまった。


要するにテトの集落が

魔王軍の数人に襲われて、

テトが捕まり、人質にされ、

自分を脅して、おびき出そうとしている

ということだろう。


もちろんその電話は

ダークエルフ達がテトを脅して

勇者に掛けさせているものである。



あまりにしつこく掛かって来るので

勇者は携帯を着信拒否にし

無視することにした。


『まったく、

迷惑電話とかふざけんなよ』


この場合は迷惑の意味が

かなり違うのだが。


着信拒否にしているにも関わらず、

それでも携帯の着信件数が

とんでもなにことになってしまい、

勇者は遂にブチ切れる。


-


テトの集落に転移する勇者。


その前にはテトの首筋に

ナイフを突き付けるストヤの姿が。


その後ろにダークエルフが四人、

さらにその後ろに集落の

年寄りと子供達が座らされている。


「勇者よ、

この者達の命が惜しければ……」


ストヤがそう言い掛けた時、

既に勇者はブチ切れて怒鳴っていた。


「いつまでも、いつまでも、

電話掛けてくんじゃねえ!!」


「殺すなら、

さっさと殺せっ!!」


勇者は言いたいことだけ言って、

即転移、その場から姿を消した。



その場にいる一同は

人質もダークエルフ達も

ただただ唖然とするしかない。


「そんなぁー! 勇者様ー!」


そう叫ぶテトだったが、

彼もこれを機に魔王軍に

寝返った方がいいかもしれない。


「お前、あいつとの付き合い

止めた方がいいぞ」


脅迫犯本人であるストヤにまで

心配されてしまうテトであった。






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