ヒットアンドアウェイ

勇者は最初の拠点を叩くと、

再びバイクを駆って、

次の拠点を目指す。


とにかくこの緒戦は

電撃作戦であり、

敵が警戒しだす前に

一つでも多くの拠点を

叩いておきたい。


この世界には

通信設備らしきものがない。


携帯はもちろんのこと

ネットや無線すらもなく、

つまり伝達網がないに等しい。


おそらく兵による伝令のみが

連絡網となっているのだろう。


千里眼を持っている

魔道士が水晶越しに見ているという

可能性は否定出来ないが、

全拠点を監視するなどは

不可能に近い筈だ。


-


本来一番望ましかったのは、

いきなり魔王の拠点を突いて、

トップの寝首を掻くことだったのは

間違いなかった。


まさに少数が大軍に

立ち向かうための

常套手段とも言える。


だが、

魔王の拠点を知っている人間は

この世界にはいないらしく、

勇者もそれは諦めざるを得なかった。


この魔王有利な戦局の中でも

常に警戒は怠らないということでもあろう。



そのため、

人間達が住むエリアに

最も近い敵拠点を手はじめに

次々と近辺の拠点を叩いて行き、

敵拠点の最前線のラインを

下げることを目的にした。


当然今の人間の兵力を考えれば、

敵拠点を叩いたところで、

そこまで侵攻することは出来ない。


しかし敵の最前線拠点と

人間エリアの間に

空白の区間、距離が出来れば

そこに敵の侵攻を防ぐための

地雷を埋設して

地雷エリアをつくることも可能だろう。


転移強奪能力で、

それ程の地雷を

あちらの世界から奪って来たら、

それはそれで

あちら側では大問題になるだろうが、

あちらは地雷撲滅を唱えているのだから、

願ったり叶ったりということで、

まぁいいだろう。


勇者はそんなことを考えていた。


-


次の拠点では、

爆撃機を使って

上空から焼夷弾をばら撒いた。


そんなものまで転移強奪して

使えるということに

まずやってみようと思った

勇者本人が驚いていたが。


魔法で強化したランチャーミサイルが

敵に通用することは

先の戦闘でわかったので

他の兵器も試してみて、

その威力を見極める必要もあった。


次々と落下して来る爆弾によって、

敵の居城は爆発を起こして燃え盛る。


もちろん中には

空爆が致命傷にならない

頑丈な魔物もいたが、

そうした少数にムキになって

まだ疲弊するタイミングではない。


とにかく今は出来るだけ

敵勢力の総数を減らすこと、

こちらの被害を一切出すことなく。

まぁ、こちらの兵力と言っても

新任勇者一人だけではあるのだが。


奇襲とは言え、

敵を数人ずつ削っていくだけでは

全く拉致があかない。


奇襲でありながら、

広範囲、大火力という

一見矛盾しているような攻撃、

それがこの作戦であり

これで敵の相当数を

削っておかなければ、この先がない。


空爆の中で生き残った頑丈な者達が

勇者を見つけ追い掛けて来るが、

ここは速やかにバイクで撤退し、

次の拠点へと向かう。


ヒットアンドアウェイ。


今はまだ深入りして

消耗する段階ではないのだ。





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