第23話

『ドンッ』


愛奈の左耳の隣で少し大きな音が響く。

愛奈の瞳が驚いたように見開かれているのを至近距離で眺めながら、これからの展開を考えている俺。


実際閃いたから、速攻でやっただけでありこの後の事を何にも考えて無かったのである。どうしようか・・・。


愛奈は驚いた顔をしながらも、その表情の中に狂喜と期待が見え隠れしている。

逆効果だったかと思いながらも、展開が思いついたので実行することにする。


俺は、愛奈の顔の横・・・もっと言うと、右耳に自分の顔を近づけて囁く。






「――――あまり挑発すると、本当に喰らいつくぞ?」




愛奈の体が『ぞくっ』といった風に震えるのが感じた。

微かに、けど確かに鋭く吸う息の音。


俺はその音と振動を感じて、『してやったり』と微笑みながら離れる。


愛奈はこちらを真っ赤な顔で見つめている。

ちょっとだけ瞳がうるんでいるのが可愛いポイントである。


俺が愛奈から手を離した瞬間。まさに油断。


「っ!!」

「ふっ!」


今度は愛奈が俺の手を引っ張る。

油断していたせいもあり、バランスを崩して簡単に壁に背中を打つ。

愛奈は俺の右手を壁に押し付けながら、俺の胴体に自身の体を押し付ける。

力が強いのと、地味に右手が極められているので抵抗が出来ない。


愛奈が俺の胸に押し付けていた顔をあげて、こちらを上目使いで見上げる。


「期待、してたんだよ?」

「・・・・・」

「やっと、手、出してくれる・・・って」


うるみ、揺れる瞳。

一筋の雫が、愛奈の頬を伝い、床に落ちる。

重なる愛奈の胸から、心臓の鼓動が伝わる。

緊張と期待でいっぱいな、速い脈が。



俺は、ため息をつきながら、つぶやく。



「特別だからな?」

「―――っ!」


極められていない左手で愛奈の顎を軽く持ち上げて、愛奈の額に唇を落とす。



愛奈は、顔一面に狂喜を浮かべながら俺の鎖骨に甘噛みをしてきた。

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