夢中戦─夢の中で戦う話─

チラシ

第一夜 告白

 こんな夢を見た。否、こんな夢を見ている。俺は蹲りめそめそ泣いていて、足元には血がべっとりついた日本刀と先ほどまで人だったモノが転がっている。


 俺はつい先ほど殺人をしてしまった。だから泣いている。死にたくなるほど惨めでみっともない。


 しかし泣いているのはそんな理由では無い。俺は、人を殺したことがとても楽しく、嬉しく快感だった。そう思えてしまうことが何よりも悔しかったのである。











 遡ること20分。そこは俺の部屋、普段ほとんど使わない勉強机に向かって座りながら真っ白い画面のスマホをただじっと見つめている。これだけだと夢だと判断する要素は無さそうにみえるがなぜ俺がここに座っているのかわからないのだ。そもそも俺は布団に入って寝ていたはずである。暇さえあれば剣道の修業をしているか筋トレをする俺は夜更かしなんぞしたことが無い。それらをせずただ座るなんてことをする人間ではないから多分これは夢だろう。おまけに頬をつねっても痛くないからこれは間違いなく夢なのである。


 さて、これが夢であるとご理解いただけただろうがどんな夢なのだろう、このまま座ってるだけならあまりにも暇すぎる。何かないものかと思った矢先スマホに文字が流れた。





<皆様こんにちは。これは夢です>





 ここが夢であることを知らない誰かに保証された。ぼーっとしながらその文字を追う。





<皆さんはここで殺し合いをしてもらいます。夢なので実際には死ぬことはありません。法律的にも問題ありません>





 心臓が跳ね上がった。人を殺してもいい、という文に目が離せない。





<もしここで死んでしまったとしても問題ありません。ここは夢です、現実と異なっていると考えて下さい>





 画面に表示される文字が頭をぐるぐる回る。心臓が暴れ肋骨を叩き息が荒くなる。そうさせる感情はこれから始まるであろう何かに対する緊張でも恐怖でもなかった。





<皆様が殺し合いをスムーズに遂行していただくために各々能力が与えられます。それぞれの端末に詳細が写されますのでご確認下さい>





 画面に赤い字で{あなたは物質を元の状態に修復するが与えられました}とある。正直よくわからなかった。そんなことどうでもよくただ混乱していた。





<他人を殺せば殺すほど能力が強化されます。ふるって殺し合って下さい>





これを書いた人間は余程殺し合いをさせたいらしい。あまりに悪趣味では無いだろうか。





<なお、皆様の能力は個人の願望を反映したものとなっております。そして最後まで生き残った方は能力を現実に引き継げます。つまり生き残った方は自身の望みが叶うということです>





 手段に動機、アフターケアまで完璧である。そのせいかこれから行われるだろうことに現実感が湧かない。現実感も何もこれは夢なのだが。





<ではただいまから殺し合いを始めてください。健闘を祈ります>





 始まったらしい。俺はぎゅっと心臓抑えるように服を握りしめる。胸は高鳴り高揚していた。








 告白すると俺は。


 非常に恥ずべきことだと理解しているのだが。


 かねてよりどうしても人を殺してみたかったのである。


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