最高のプロローグ


 出会いは最高だったと言える。








「おや? なんじゃ小僧。捨て子か?」




 老獪な言葉とは違ってその姿はひどく幼く見える彼女は自分の森に迷い込んだ少年を見つけた。




「捨てられたんです」




 深海よりも深い瞳で酷く落ち着いた口調で少年は言った。捨てられたことを受け入れている。生まれて十年にも満たない少年がそんな事を口にする姿を見て、彼女の口は自然と動いていた。




「うちに来るか? 小僧よ」




 自分でも驚いた。でも言ってしまったからにはもう取り消すことはできない。




「いく」




 少年は考えるまでもなくそう答えた。彼女はまぁいいかと思い、少年に右手を差し出した。




「儂はこれからお前の母になってやろう。お前はこれから儂の息子になってもらおう」




「ままなの?」




「ママ? ママか? ははっ、そう呼ばれるのは儂の長い人生でも初めてじゃの。あぁそうじゃ。ママと呼ぶがよい。して、小僧よ。お前の名は?」




「僕? 子供の名前はままがつけるもんでしょ?」




 そう来たかと彼女にニヒルに笑った。




「面白い小僧じゃの。そうじゃの……アネモネ……いや、リンドウ、リンドウじゃ」




「リンドウ?」




「そうじゃ。良い名じゃろ。由来は花のリンドウじゃ。花言葉は悲しんでいるあなたを愛する。捨てられた小僧を母である儂がめーいっぱい愛してやろう」




「うん!」




 ここでふと思った。




「最初に言った……アネ? なんとかはどんな意味だったの?」




「あれは見放されたという花言葉も持つ花なんじゃが……」




 と少し彼女は言葉を濁したが、隠しても仕方がないと思いそのままを言う。




「愛しい我が子につけるには寂しいじゃろ」




「いっぱい愛してね?」




「言われるまでもないわ」




「ところでままの名前は?」




 そうだ。まだ名前を聞いていない事に気が付いた。母親の名前ぐらい知っておかないと失礼だ。




「リリー。魔女のリリーじゃ」




「りりーまま!」




「そうじゃ。さぁ我が家へ案内してやろう。おいで我が息子よ」




 リリーは腰を曲げて両手を大きく開いてみせた。その中に迷う事なく飛び込むリンドウ。




「よっ、こらせっ」




 リリーはリンドウを持ち上げる。




「強くなれリンドウ。最悪でも儂を守れるぐらいにはの」




「わかったまかせてっ」




 これが魔女リリーと少年リンドウの最高の出会いだった。


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