お嬢様が誘拐された
「……遅いな、どうしたんだろう」
お会計を払い終えて、外でお嬢様がトイレから戻ってくるのを待っているのだが、一向に帰ってくる気配はない。お腹を壊してしまったんだろうか? ……だとしても、もう結構な時間が経ってる。
「連絡してみるか……。いや、でもトイレにいるのに連絡するのは……いやいや、ラインなら問題ないだろ俺」
失礼に当たらないか不安だったが、それよりもお嬢様の身に何かあったらと心配の気持ちが勝り、俺はラインでメッセージを送る。だが、一向に既読はつかない。
「どうしたんだろう……まさかナンパとかに……いや、でもお嬢様はそんなのについていく人じゃないし……」
お嬢様の状況が把握できないからか、俺の焦りと不安は高まっていく。しかし女子トイレに入るわけには行かないし……くそ、どうしたら……。
「おい純!」
「……え? さ、佐野さん? ど、どうしてここに」
何もできず途方に暮れていると、ふと突然私服姿の佐野さんが俺の目の前に現れた。どうやら様子がおかしく、いつものヘラヘラした空気は一切感じられない。
「話は後だ。今お嬢様はどこ行った」
「そ、それがあそこの女子トイレに入ったきり戻ってこなくて……」
「あそこか。ちょっと見てくる」
俺がそう言うと佐野さんはすぐにトイレの中に入っていく。一体何があったんだ……あんな佐野さん、見たことない。
「……ちっ。やられた」
そして佐野さんがトイレから戻ってくると、焦りと怒りが入り混じった表情をしていた。
「お、お嬢様は……」
「いなかった。多分……いや、間違いなく誘拐されたな」
「ゆ、誘拐!?」
まさかここにきてそんな言葉が出るとは思わず、俺は驚きを隠せなかった。でもトイレから一向に出てこなかったことを考えると……ありえない話じゃない。
「い、一体誰が……」
「六条家だ。奴ら、ここにいるんだよ」
「六条家が……? だ、だからか……」
俺が執事をしていた頃から、六条家と八条家は仲が最悪だった。特に六条家が一方的に忌み嫌っており、その中でも八条家次期当主「八条柚(はちじょうゆず)」様は歳が同じであることもあってかライバル視して、ノアお嬢様に何かと嫌がらせをすることが多かった。ただ、それでもノアお嬢様はうまくあしらっていたけど……。
「ほんとは二人のデートの邪魔にならんよううちらで片すつもりだったんだが……来る途中も妨害が酷くてな。奴ら、なぜかは知らんが妙にやる気だ」
「それでお嬢様が誘拐されたってことですか。……となると、奴らは六条家に何かしらの要求をしてくるかもしれないって……ん?」
唐突に、さっきまで一切連絡がなかったお嬢様とのラインのトーク画面が更新される。まず最初にこの地図、そして次に……。
【八条ノアは預かった。返して欲しければ「野原純」一人でここに来い】
とメッセージが書かれていた。これは……。
「明らかに罠だろこれ……。相変わらずやることが姑息だな」
佐野さんの言う通り、これは間違いなく罠だ。俺一人で来させたところで、袋叩きにして人質を増やす魂胆だと考えるのが妥当だ。ただ、どうして俺を呼んでいるのかは……わからないところだけど。
「純、絶対一人で行くなよ。もうすぐ他の奴らもくる、そいつらと一緒に行こう」
「…………」
間違いなくそうするべきだ。おそらく六条家の人間が監視しているだろうし、彼らも八条家と同様相当な訓練を積んだスペシャリスト。一人ならともかく、複数人を俺一人で相手するなんて、危険でしかない。
「今は作戦たてるぞ。この場所なら……こうしてこういったルートの方が……」
だけどこれは俺の失態だ。俺がもっとお嬢様のことを守れる存在であれば、こうはならなかったかもしれない。それに……今こうやって増援を待ってる間、お嬢様は心細い思いをしているに違いない。なのに俺は今何もせず突っ立ってるだけじゃ……。
「……おい、聞いてんのか純!」
「…………………すみません、佐野さん!」
「は!? お、おいお前行くんじゃない! ま、待て!」
ダメに決まってる。だから俺は佐野さんの指示に一切従わず、単独で奴らの場所に向かうため走っていく。俺のエゴだと言われたら、その通り。冷静な判断なんてできてないことはわかってる。
だけどさ……我慢できないんだ。お嬢様が心細い思いしてるってのが。あの人には、いつだって笑って欲しいから。
それを邪魔するやつらは……全員、ぶっ飛ばすまでだ。
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