筋肉マッチョで爺のオネエが転生させてくれるんか?(困惑
「あら、
いらっしゃい〜(はあと」
扉を開けると
おっさんの眼前には
巨漢の女装をした
立ちはだかっていた。
お洒落なカウンターバーのような室内が
巨体の隙間から微かに見える。
あかん、店間違えてしもうたわ
間違えてゲイバーに
来てしもうたみたいや
中に入ることなく
手にしている扉の取っ手を
そっと閉めるおっさん。
しかし、
扉の外はまったく何もない
真っ白な空間が広がるだけ。
そして、ここにあるのは
ただこの扉のみ。
ワイ、どうやら、死んで
地獄に来てしもうたみたいやな
あれやろ、
オカマ地獄とか、オネエ地獄とか、
そんな感じのやつやろ?
ホンマ地獄もけったいなことしよるな、
時代のニーズに合わせたっちゅうわけか?
まるで地獄と親しい友人でもあるかのように
地獄を語るおっさんだが、
もちろん死んだのははじめてのことだ。
あれやなぁ、
仕事で接待の時にオカマバー行って
オカマをブサイク呼ばわりしたんが
いかんかったんやろな~
これから何百年もあんなのに拷問されるとか、
あかんわ、鳥肌立つわぁ
地獄もエグイこと考えよるで
ホンマに、エゲツないわ~
「ちょっと!
あんた何やってんのよ!
早く入んなさいよ!」
扉が勢いよく開くと
室内から女装
おっさんの腕を鷲掴みにして
強引に引っ張り入れる。
その様子はどうしても、
ぼったくりバーに連れ込まれる
中年のおっさんにしか見えない。
-
おっさんが改めてよく見てみると、
二メートルを優に超える
巨人のような大男、
彫りの深い顔立ちに
白髪と白髭を長く伸ばしており、
しかもその上に女装。
ピンクのチークに、
真っ赤な口紅、
ボディコン衣装と
真紅で色を揃えている。
死んでいきなりこんなのが出てきたら、
おっさんが地獄だと思うのも無理はない。
あかんやん
ワイが知ってるドラッグクィーンの中でも
最悪の部類やん、これ
「改めまして、
『ゼウス』で~す、よろしこ~(はあと」
ゼウスて有名な神様なんと違うんか?
こいつ、こんなナリで神様なんか?
そらバリアフリーと言うか、
ジェンダーフリーなとことか、
老いも若きも男も女も、
老若男女を一人四役でこなしてるあたり
人間を遥かに超越した存在って気はするけどやな、
変態的な意味で
「あんた、神様なんか?」
「あらやだ、
あたしは神様なんかじゃないわよ」
「ほな、なんなんや?」
「こう見えてもあたし
転生エージェントなのよ~
ほら、人間て『ゼウス』って名前出すと
どんな不条理なことでも、
妙に納得してくれるじゃない?
だからあたし達、転生エージェントは
みんな『ゼウス』って名乗ることになってるのよ」
なんちゃらエージェントってなんやねん?
まぁでも、そりゃそやろな
神さんの名前出されたら
どんなことが起こっても
ほなしゃないな、って
誰かて思うわな
しかし、
そのなんちゃらエージェントとか言うんが
なんでこんなけったいなカッコしとるんや?
あぁ、なるほど、あれか?
人種差別とか、性差別とか、
全員方面に配慮していったら
こんな原型留めてない
キメラみたいな感じになりました、みたいな
そういうことやろ、きっと
わかるわ~
最近いろんな団体がすぐ抗議して来よるから
仕事でワイもやりづらくてかなわんかったんや
「あんたも、
そんなカッコさせられて大変やなあ」
「あら、このカッコ?
このカッコはただの趣味よ」
「趣味なんかい!」
-
「そもそも、その
なんちゃらエージェントってなんやねん?」
「て・ん・せ・い(はあと
転生エージェントよ!」
「転生エージェント?
ワイ、もしかして転生させてもらえるんか?」
「そうよ、あなた
転生対象者に選ばれたのよ!
あなたホンとラッキーね、
今なら転生キャンペーン中だから、
どんな望みも思うままなのよ~
異世界で勇者になって
チート能力で俺TUEEE!
ハーレムで美女と
キャッキャウウフしまくるとか~
今ならキャンペーン特典として
チートスキル付け放題、
最強武器・防具選び放題、
知り合った美女全員が
ハーレムメンバーになる
ハーレム確約も付いてくるわよ~
もちろん
前世の記憶引き継ぎオプションに
させてもらうから安心してちょうだいね~」
最初はあまり興味がなかったおっさんも
オネエゼウスの巧みなセールストークに、
ぐいぐい引っ張られて、次第に
異世界転生プランが魅力的に思えて来る。
異世界転生プランを
これだけ強烈にプッシュしてくるのだから
そりゃ異世界転生の物語も増えるといものだ。
オネエというのは得てして
話術に長けていたりするものだが、
御多分にもれずオネエゼウスも
プレゼン、勧誘のプロらしく、
あっという間におっさんもすっかりその気に。
それ、ええなぁ……
異世界で英雄になって
数え切れないぐらいの美女とムフフとか……
それいけるやん!
しかしおっさん、
心のどこかでお嫁ちゃんと間男のことが
引っかかっている。
そんなことはとっとと忘れて
異世界で美女達と
新しい恋を楽しんだほうが
よっぽどおっさんにとっては
幸せなことであると言うのに。
あかんあかん
あやうく決意が揺らぐところやったで
ワイは決めたんや
もう一度お嫁ちゃんに会うって
お嫁ちゃんに会って
気持ちを確かめるって
ワイは、ワイは今でも
お嫁ちゃんを愛してるんや!
おっさんの決意は固く
オネエゼウスがどんなに説得しようとしても
頑として首を縦に振ろうとはしない。
よくも悪くもおっさん
頑固で強情で意地っ張り、
昔
その決意の固さに、
ついにオネエゼウスも根負けして
おっさんの望みを叶えてあげることに。
「いい、
あなたの希望は叶えてあげるけど、
あなたにとって相当ツライ転生になるわよ、
本当にそれでもいいのね?」
「かまへん!
ワイの気持ちに変わりはないわ!
どんなにツラくても
ワイはもう一度お嫁ちゃんに会うんじゃ!
会ってちゃんと確かめるんじゃ!」
「そう、わかったわ」
ゼウスは室内の奥にある
もうひとつの扉の前におっさんを連れて行く。
「あなたの次の生が
実り多きものとなることを祈っているわ」
「ゼウスはん、おおきに、
ありがとうやで」
おっさんが扉を開くと
眩しくて目が開けていられないほどの光が満ち溢れ、
おっさんはその光の中に消えて行く。
こうして元の世界に転生することになったおっさんだが、
きちんとした
実はまだまだ苦難が待ち構えているのだった。
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