第5話 体育祭当日①

 今日は早朝から清々しいほどに雲一つない青空が広がり、絶好の体育祭日和となっていた。

 気温も時間が昼に近くにつれ、どんどんと上昇し、それとともに開会式を終えて競技に移っていた会場内のボルテージも比例して上がっていく。

 そんな中で俺はテント内にある後方の席でのんびりとしていた。

 あーちゃんや舞、結花に関してはどうやら役員の仕事があるらしく、午後まで戻ってこない予定になっている。

 そのため、こうしてぼーっと椅子に座りながら行われている競技を眺めているのだが、ふと隣の席に誰かが座る気配を感じた。

 俺は誰だと思い、横目でちらりと見る。

「退屈そうだな?」

 珍しくジャージ姿になっていた平先生だった。

「そうですね。めちゃくちゃ退屈ですよ。それより交通指揮はどうしたんですか?」

 平先生はたしかプール裏にある第二グラウンドの交通指揮を任されていたはずだ。

 それなのになんでここにいるんだろうか?

「ああ、あれめんどくさくなって途中で放り投げ出してきたんだよ」

 さらっとすごいことを言った平先生。

「それって、いいんですか?」

「いいんじゃないか? そもそも交通指揮に三人もいらないだろ? いくら役割の先生がいるからって全てを交通の方に回してどうする?」

「それもたしかにそうですけど……」

 この学校の駐車場は全部で三つほどある。先ほども言った第二グラウンドと校舎裏と体育館横。その三つ全てに交通指揮を任された先生がいるのだが、全員で平先生も含めて十人程度だろうか? 

 ただ駐車場の案内だけなのにこんなに人員はいらないと発言している平先生の主張にもたしかに頷ける。

 が、先生の立場でありながらこう大胆にサボってもいいのだろうかと思ってしまうところもある。

「まぁ、神崎が思っていることもわかる。私の立場でありながらこんなことをしていいのかと問われると、答えは当たり前だがNOだ」

「……じゃあ、そう自覚しているのだったら戻ったらどうですか? 他の先生方に怒られますよ?」

「何を言っている? 時にはサボりということも大切だぞ? どうしても嫌な時は拒絶したり、意見を言ったりする。これは現代社会において、このような行動を取れる人は案外少ないもんだぞ?」

「それはそうかもしれませんけど、行動の取り方がそもそも間違ってますよ。嫌なら教頭先生や校長先生になり直接言えばいいじゃないですか」

「そんなことをしたら私の首が吹っ飛ぶ」

「じゃあ、結局平先生は何がしたいんですか……」

 意味がわからない。

 今こうしてサボっている状況自体マズいものだと自覚していないのだろうか?

 このことをもし他の先生方が教頭先生や校長先生にチクれば、大目玉を食らうこと間違いなしだというのに……。

 平先生はわざとらしくコホンと咳払いをすると、俺の方に顔を向ける。

「ちょっと今から職員室に来てほしいのだが……少しだけいいか?」

 平先生の表情が妙に真剣なものになっていた。

 さっきまでは適当なことばかりを言っていたのに、これに関してはどうやら本気らしい。

「……わかりました」

「うむ。じゃあ、さっそく職員室に向かうぞ。詳しい話はそこでだ」

 一体どういった話が行われるのだろうか……。

 一応考えては見たものの思い当たるような節は何一つ思い浮かばなかった。

 心当たりがないときに呼び出される職員室が一番怖いんだよなぁ。

 と、思いつつ先に椅子から立ち上がり、校舎に向かって歩き出していた平先生の後を五歩遅れで追っていくのだった。

 

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