最終話【※改稿済み。第二章も続きます】
空港での出来事から数日が経過した。
夏休みももうすぐで終わってしまう。
今年は去年と比べると、いろいろとありすぎた夏休みではあったが、結果的にあまりいつもと変わっていない。唯一変わったと言えば……舞と久しぶりに花火大会に行ったこととあーちゃんを含めた三人で旅行に行ったくらいか?
そのほかは例年といつも通り、家でのんびりと過ごしているのだが……ただいま俺の家は絶賛修羅場中である。
「なんで早坂がここにいんのよ!?」
「なんでって、りょーくんにプロポーズを受けたから?」
リビングにて朝から押しかけて来た二人が何やら揉めている。
……いや、揉めているという表現も少し違うか?
とりあえずいざこざみたいなことを起こして舞が憤慨しているのだが、あーちゃんの表情はその逆で至って冷静かつ少しニヤけている。
そう言えば、あーちゃんに対する誤解が解けてなかったか? 俺と舞の事故とは別の空港での誤解。
俺はソファーから立ち上がると、すかさずあーちゃんに話しかける。
「あの、あーちゃん? 少しいいか?」
「え? どうしたの?」
あーちゃんが振り向く。
「そ、その……非常に言いづらいんだけど、えーっと……ぷ、プロポーズ? あれ、誤解なんだけど……」
あれは別に嘘をついたわけではない。捉え方の問題だ。
そう誤解させるような言い方をした俺が一番悪いということは分かっているし、あーちゃんが悪いわけではない。
だけど、罪悪感? と言うのだろうか。申し訳なさにあーちゃんの顔を見ることができない。
よって、俺は下を俯いていたのだが……
「なーんだ。誤解だったんだぁ」
「え?」
意外な反応に俺は反射的に顔を上げてしまう。
「なんか変だなぁとは思ってたんだよね。でも、りょーくんたらいつになっても言わないからあれ本気だとつい思っちゃったじゃん」
そう言って、あーちゃんは優しく微笑んだ。
庭に出る窓から流れて来るそよ風にあーちゃんの長くて綺麗な髪がかすかになびく。その様子はどの絵画や彫刻よりも美しく、繊細であまりの可憐さに目を奪われてしまう。
「でも、これからも幼なじみということには変わりないよね?」
「あ、ああ」
「なら、よかった」
本当によかったのだろうか? ふとそう思ってしまった。
それからしてあーちゃんは「昼ごはん作るね」と言って、キッチンの方に向かってしまう。
「って、ち、ちょっと待って! そもそも二人とも何しに来たんだよ!?」
そうだ。忘れてた!
この二人が俺の家に何をしに来たのかがまだ不明だった。
特に何を聞かされたわけもなく、事前連絡もなしにいきなり来ては先ほどまでリビングで口論的なことをしていた。
俺の家で何をするつもりだ? というか、何で口論してたんだよ!?
「あ、りょーすけにはまだ言ってなかったか。あたし、週三回程度りょーすけの家の家事をすることにしたから」
「……は?」
「あ、私もついでです」
意味が分からない。何を言ってんだろう。
「いやいや、なんで俺の家の家事をすることになってるんだよ。というか、家事くらい俺一人でもできるし、必要ないだろ」
そう言うと、舞が大きなため息を吐き、呆れた顔になる。
「それはそうなんだんだけど、実際にはしてないじゃん」
「りょーくんの家がゴミ屋敷同然になってしまったら隣に住んでいる私たちも困ってしまいますし……」
「いや、勝手に決めつけるんじゃねえ! どこをどう見たらゴミ屋敷になると思うんだよ」
「じゃあ、そこのソファーに積み上がっている洋服は何? そもそも洗濯したわけ?」
「りょーくん、食べ終わった後は食器を洗って元の場所に戻すって、お母さんから習わなかった?」
「……」
ぐぬぬ……。
何も言い返す言葉が見つからなかった。
舞の言っている通り、ソファーの上には洗濯物が山のように積み上がり、キッチンの流し台には食器類で溢れかえっている。
見事に俺を論破したあーちゃんと舞は、それぞれ食器類を片付け、洗濯物を畳んだりしている。
これに関しては正直、ありがたいがここまでさせるわけにはいかない。かくなる上は……
「あ、りょーすけ。あたしの両親に言っても無駄だからね?」
「え……?」
「ちゃんとお父さんとお母さんから許可をもらってるし、あんたのお母さんにも伝えてあるから」
「ついでなのですけど、私も舞さんと同様ですよ?」
「……」
最終手段も先回りで潰されていた?!
てか、よくご両親が許してくれたな?! それはそれで驚きだわ。
俺一人の家に美少女二人が家政婦のごとく週三で通い詰める……。
なぜかそう思うと、変な妄想が頭の中で掻き立てられてしまう。
俺はそんな煩悩を振り払うかのように頭を左右にブンブン振ると、コホンと咳ばらいをする。
「か、家事をやってもらうことはありがたいけど、やっぱり俺一人でやる。他人任せにしていたら何となくだけど悪いような気がするしな」
このままずっと続いてしまえば、本当に何もかもできないようなだらしない大人になってしまうかもしれない。
例え、そうならなかったとしても何もかも他人任せになってしまうだろう。そんな大人にはなりたくない。できるだけ、自分で何もかもやり遂げたい。
俺は舞から洗濯物を取り上げ、素早く畳む。
それが終わったら、すぐに皿洗いをしているあーちゃんの元へ向かう。
「悪かったな。本当に大丈夫だから」
それだけを伝え、間に割って入ると、続けて皿洗い。
あーちゃんはそんな俺を見て、少し不満そうな表情をしていたもののすぐに引き下がっていく。
「りょーくんがそうしたいなら仕方ないね。じゃあ、昼ごはんも作ってくれる感じ?」
「ああ、当たり前だろ。自分でやるって言ってるんだから」
「それなら、楽しみに待っとくね」
あーちゃんは手を洗い終えると、キッチンを出て、舞がくつろいでいるソファーに座り、一緒にテレビを見始める。
舞は文句こそ最初は言っていたが、なんだかんだで結局あーちゃんを受け入れている。
俺はこの状況に対してどう思えばいいのだろうか。
周りから見れば、ハーレムみたいでいいなとは思われるかもしれない。
が、実際にはそんな甘ったるいもんではない。この二人は俺が幼なじみだからという理由だけで家事を、生活を手伝ってあげようとしているだけだ。
このことに関しては、申し訳ないという気持ちもあるが、大きなお世話だという思いもある。
この奇妙とも言える三人の日常が今後続くことを考えると……いいことなのか、悪いことなのか……。
☆
「そんなこともあったわね」
俺の妻はそう言ってニコニコと笑っている。
明日は俺と妻の結婚式だ。
その前に二人でリビングのテーブルに座りながら、昔話をしているのだが、あの出来事からもう十年が経っていることに自分でも驚く。
「なぁ、本当に俺でよかったのか?」
「なによ。今更言っても結婚した後だから後戻りはできないわよ?」
「でも、お前みたいな美人が俺の妻なんて……」
「あなただから結婚しようと思ったのよ? これだけの気持ちじゃ……ダメ?」
妻は俺の隣に移動すると、頭を肩の上にのせ、片手をぎゅっと握りしめる。
妻の方を向くと、お風呂上がりということもあり、シャンプーの甘い香りが鼻を刺激し、その匂いにくらくらとしてしまう。
「妻として、あなたを一生愛すわ。だから……あなたも愛してくれる?」
妻の上目遣い。
顔が目と鼻の先くらいに近く、熱い吐息が混ざり合う。
そして、見つめ合っているうちにだんだんと見えないものに引き寄せられるかのように顔と顔が重なり合い、妻は目をゆっくり閉じて……柔らかい感触が唇に伝わって来た。
やがて、顔が離れると、妻は照れたように笑い、
「じゃあ……先に寝るね? おやすみ」
席から離れると、リビングを出て寝室がある二階へと上がって行った。
俺は何度目かになるキスではあったが、やはりこの柔らかい感触は今でも慣れない。
こんな美人な妻ができたのも高校時代のおかげというものなのか……。
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