第38話 水着を買う②
ショッピングモールに到着すると、舞はすぐさまに水着売り場へと直行した。
俺も舞を一人にさせるわけにも行かず、おずおずとその後を追う。
「へぇ~。結構種類があるんだな」
水着売り場に着くと、過半数が女性客でいっぱいだった。
スクール水着もあれば、競泳タイプもあり、ビキニと言った可愛らしいものもある。
俺は別に水着は家にあるものでいいと思ってはいるが、このまま売り場内をうろちょろしているのも不審者と思われ、警備員さんに連行されてしまうかもしれない。
買うつもりではないが、隣に併設されている男性用水着売り場を適当に見ることにした。
「じゃあ、俺はこっちで見とくから買ったら呼んでくれ」
「う、うん……分かった」
なんか歯切れの悪い返事だったが、まぁ気にすることはないだろう。
舞が女性用の水着売り場に行ったところで俺は男性用の水着を見て回る。
「最近はこんなのがあんのかよ……」
あまりの衝撃的なデザインに一瞬目を疑ってしまった。
Tバック型の水着……こんなの誰が穿くんだよ。ボディービルの選手くらいしか穿かないだろ。
それにストロングムタンガという名の水着もある。分からない人は是非とも検索していただきたものだが、こんなものが今の時代出てきている世の中って……どうにかしていると思うんだが?
他にも普通にスタンダードな水着もあれば、上下スウェット型のものもあり、バリエーションが豊富。
俺がまだ小さい頃はここまで男性用水着の種類なんてなかったと思う。と、言っても、幼い頃の記憶の中ではだけどな。
一通りの水着を見終えたところで俺は近くのベンチに座る。
別に買うつもりで来ているわけでもないので、適当に見たあとは暇である。
女性用水着売り場では、舞がひたすらビキニを手に取っては鏡の前で自分に合わせるの繰り返し。正直言って、どれも胸のサイズと合ってないように見えるが……。
「り、りょーすけ……」
そんな様子の舞と目が合う。
「な、なんだ?」
目が合ってしまい、ドキッとしてしまったが、俺は平常心を装う。
そんなことを知らない舞は手に持っていたビキニを一旦あるべき場所に戻すと、俺の元にとてとてと近寄り、
「あ、あのね……水着選んで欲しいんだけど……」
「は?」
「だ、ダメ、かな?」
舞が俺を上目遣いで捉える。
頬は蒸気していて、どこか色っぽい。
––––何ドキドキしてんだよ俺! しっかりしろ!
最近の俺はどこかおかしい……そう思いながらも、気持ちを切り替える。
「分かった。その代わりなんだけど、俺の好みで選んでもいいよな?」
「う、うん」
舞が小さくコクンと頷く。
幼なじみとはいえ、女子の水着を選んであげる日が来るとは……思いもよらない緊急クエストだ!
俺はベンチから立ち上がると、舞と一緒に女性用水着売り場の方に向かう。
周りの女性客からはなぜか変な目で見られているような気がするが……俺の思い過ごしか?
とにもかくにも商品をある程度眺め、舞に似合いそうなものを手に取っては黙考する。
「な、なんか、いいのあった?」
隣にいる舞が恐る恐るといった感じでそう訊ねてきた。
「そうだなぁ……これとかどうだ?」
俺はそう言うと、ある一着を舞に手渡す。
すると、舞はそれを見て、嬉しいのかこめかみに青筋をたて、全身をプルプルと震わせ……
「ああああああイタタタタタタタタ!!! なんで噛むんだよ!」
思いっきり手を噛まれた。
俺は舞の歯型がくっきりとついた手の甲を反対の手で抑えながら、あまりの痛さに涙目になる。
舞は凶暴な犬みたいにガルルルル……と唸り声をあげ、俺を睨みつけている。
「急にどうし––––」
「急にどうしたんじゃないでしょ!? これどう見ても小中学生用のスク水じゃない!」
「そうだけど……もしかして気に入ら––––って、いたたたたたたあああああああああ!!!」
次は反対の手を噛み付いて来た凶暴犬。
「そう言うことじゃないでしょ! このバカっ!!」
そう言うと、舞は「ふんっ!」とそっぽを向いてしまい、自分で探すことにしたらしい。
スク水の何がいけなかったんだ?
スク水と言えば、数々の魅力があると俺的には思うのだが……? 例えば、ビキニとスク水で比較してみよう。まず最初にビキニだが、いい点をあげるとするならば、露出度が高いところだ。通常の服を着ていれば、普段滅多にお目にかかれないであろう脇だったり、太ももだったりと存分に見ることができる。一方でスク水はその逆と言えば、少し違うような気もするが、ビキニよりかは露出度が低い。一見すると、ビキニの方がいいじゃないかと思うかもしれないが、そう思ったやつはまだ若造だ。スク水の本当のいいところと言えば、露出度が少ないところにある。スク水を着ている小中学生を見たまえ! あの布一枚の奥には秘められし財宝と言っても過言ではないほどの麗しき宝が眠っている。体のラインに沿ってピチピチになったスク水はなおさらだ。あれだけでご飯三杯は食える自信はある。
って、思っていたが、こんな考えを持っている自分が急に気持ち悪くなった。まじドン引きだわ。
俺って、自分でも知らなかったけど、ロリコンだったの?! 自分で自分に驚くことってそうそうないよね。
「はぁ……」
俺はため息をつくと、痛みが引いたことを確認して、仕方なくではあるが、再び選び直すことにした。
「これなんかどうだ?」
そして、再び舞にある一着を手渡す。今度はスク水とかではなく、普通にどこにでもありそうなちょっと可愛らしさがある水着。
「え?」
「だ、ダメか?」
「う、ううん……ちょっと試着して来るね」
そう言うと、舞はどこか嬉しそうな表情を見せながら、試着室がある方に向かって行った。
––––次は気に入ってもらえるといいんだけどなぁ……。
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