第11話 舞の気持ち②
部活動が終わった後、あたしは途中まで桜と一緒に帰っていた。
「じゃ~、またね~」
「うん、また明日」
手を振りながら、別れ道で桜と別れたあたしは家まで残り半分の道のりを一人で帰る。
部活があるときは毎回こんな感じなんだけど……今日に限っては、放課後のりょーすけと早坂を見ていたせいか、一人で帰ることがすごく嫌になってくる。
––––今まではこんな気持ちになったことなんてなかったのに……。
あたしはなぜかヤキモチみたいな感情を抱いていた。
これまではこんな感情を抱いたことなんて一度もない。
それなのに早坂が転入してきてからというものあたしは心のどこかで何かを焦っている。
何に対して焦っているのか……それが自分自身でも分からない。
だから、こんなにもヤキモチみたいな感情だったり、むしゃくしゃしたりするんだ。
そんなことを考えているうちに気がつけば、もうすぐ家に着く。
「ほんと……何してるんだろあたし」
もしかしたらただ疲れてるだけなのかな?
最近は、恋愛ドラマにハマって夜通し見まくってるし。
今日はいつもより早く寝ようかな……。
☆
家に帰り、お風呂とかいろいろ済ませた後。
あたしはリビングのテーブルに座っていた。
部屋着に着替えたあたしは身も軽くなった気分で、お母さんが作ってくれた料理を黙々と食べる。
お母さんはもう先に食べていたらしく、あたしの対面に座って、にこにこと微笑みながら食べているところをじっと見つめてくる。
お父さんに関しては、今日も残業かな? ほとんど残業っていう日が多いからブラック企業じゃないの? って、思うこともあるけど、その分休みも多いし、まぁ、大丈夫でしょ。
それにしてもなんだけど……
「ね、ねぇ、お母さん」
「ん、どうしたの?」
「さっきから何であたしのことをじっと見つめてるの? 正直言って、食べづらいんだけど……」
「あら、そうだった?」
「あらって、普通に考えてもそうでしょ!?」
そう言うと、お母さんは声を出して笑った。
「あははは……冗談よ。ちょっと、最近大丈夫かなって思ってただけよ」
「ん、なんのこと?」
「なんのことって、亮介くんのことに決まってるじゃない」
「りょーすけがどうかしたの?」
「どうかって、あんたも知ってるでしょ? 亮介くんの隣に引っ越してきた女の子」
「早坂がどうかしたの?」
そう言うと、お母さんは呆れ半分なため息を吐く。
あたしなんか変なことでも言ったかな?
「どうかって、あんたこのままじゃ亮介くん取られちゃうわよ?」
「そ、それは……あたしには関係、な––––」
「なくないでしょ? あんたの気持ち知ってるんだから」
「あたしの気持ち?」
素で疑問に思った。
あたしの気持ちってどういうことなんだろうって。
すると、お母さんは目を丸くして驚いた顔をした。
「もしかしてあんた……自分の気持ちに気づいていないの?」
「え、えっとー……たぶん」
お母さんは頭痛でもするのか、こめかみを手で押さえる。
「お母さんはてっきりそのつもりだったんだろうって思ってたのに……」
それから残念そうな声でそう言った。
「どういうこと?」
あたしは首を傾げる。
さっきから何を言っているのか全然頭に入ってこない。
お母さんはあたしの何に気づいているのだろう。
「じゃあ、もう言うけど、あんた亮介くんのこと好きでしょ?」
「…………」
その言葉を聞いた瞬間、すぐに否定しようと思った。
でも、あたしは否定することができず、みるみるうちに顔が熱くなっていくのを感じる。
「やっと気づいた?」
そのあたしの様子を見たお母さんはにやにやしながらそう言う。
あたしは熱くなった顔を見られまいと一旦下を向く。
「ち、違う。あたしはりょーすけのこと……っ!」
「何言ってんのよ。あんた毎朝亮介くんより早く家を出ては、彼が出てくるのを待っているじゃない」
「そ、それは……幼なじみだし、家も近いから、念の為というか……」
「念の為でそこまでする? それにあんた、今日はやけに早かったじゃない。それで何事かと思って、家から覗いてたけど、隣に引っ越してきた女の子があんなに可愛ければねぇ~……そりゃあ、焦る気持ちも分かるわ」
そのとき、あたしが何に焦っていたのかが、分かったような気がした。
ずっと一緒だった幼なじみのりょーすけを取られてしまうんじゃないかって心のどこかでそう思っていたんだ。それであたしは焦りを感じ……
「あ、あたしはりょーすけのことなんて……」
「はいはい。ほんと素直じゃないんだから。あんたのやっている行動って、好きな女の子にちょっかいを出している男子小学生がやっている行動と一緒よ? あんたは亮介くんのことが好き。だから、毎朝家の前で待っては、彼にツンとした態度をとる。違う?」
「……」
「あんたは黙っていれば可愛いし、素直になったら亮介くんなんてイチコロよ」
「で、でも……りょーすけには弱いあたしを見せたくない」
「何言ってるのよ。女の子は弱い方がモテるのよ?」
弱い方が……そういえば、いつからあたしってこうなってしまったんだろう。
小学生の頃はもっと素直だったような気がする。それこそ、りょーすけには弱い自分をたくさん見せてた。
「ごちそうさま」
「あら、もう食べないの? まだ半分も残ってるじゃない」
「うん、今日はもうお腹いっぱいだから」
あたしはそう言って、食器類をキッチンに持って行くとそのまま部屋がある二階へと上がった。
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