第10話 舞の気持ち①

 放課後。

 今日もどうにか一日を終えたところで、俺は帰りの支度を始める。

 隣にはもう準備が終わったらしく、俺を待っているあーちゃんがいた。


「りょーくんまだ?」


「あともう少し待ってくれ」


 教材類を全てカバンの中に入れた後、席を立ち、明日の連絡事項などが書かれている後ろの掲示板に目を通す。

 そして、何もなかったことを確認し終えると、俺とあーちゃんは並んで教室を後にする。


「じゃあ、結花また明日な」


「うん、二人ともまたね」


「……(ぺこり)」


 やはりあーちゃんは人見知りなのだろうか?

 小さい頃もそうだったけど、内面はあまり変わってないみたいだ。

 それからして何気ない雑談をしながら廊下を歩き、靴箱に到着したところで、あーちゃんが思い出したかのような反応をする。


「そういえばなんだけど、今日って舞さんいないんだね」


「ああ、舞は部活だからな」


「え? 舞さんって部活してるの?」


「うん、テニス部のエースとして活躍してるよ。ああ見えてね」


「そうだったんだぁ……(もしかして、チャンス来ちゃった? えへへ……)」


「ん? 最後なんか言ったか?」


 最後の部分だけが周りの生徒の話し声で、よく聞き取れなかった。

 俺はそのことをあーちゃんに訊き返す。


「え?! う、ううん、なんでもないっ!」


 そう言って、先に靴へ履き替えたあーちゃんは俺から一旦距離を取るかのように校舎の外へ出て行く


「……何なんだ?」


 そう思いながらも俺は先に行ってしまったあーちゃんの後を追った。



 りょーすけと昨日転入してきたもう一人の幼なじみという早坂が一緒に帰るところをあたしはクラスの教室から眺めていた。

 二人は仲良く並んで歩き、時折楽しそうな笑顔を見せる。

 ……りょーすけって、あたしと一緒にいる時あんな顔してたことあったかなぁ?

 そう不安に思わせるほどにりょーすけは楽しそうな表情をしている。

 

「なんだろう……この気持ち――」


 なんだか二人の楽しそうな様子を見ていたら、なんと言ったら伝わるんだろう……? 胸の奥がむずむずするというのかな? なんか嫌な気分になってくる。

 ――どうしてなんだろう……これってなに?

 このむずむず感がなんなのか今のあたしには分からない。

 やがて二人は学校の門を超えたところで右に曲がり教室からは見えなくなってしまった。

 この気持ちは……一体――


「ま~い! まだなのぉ~?」


 と、いきなり自分の名前を呼ばれて、少し驚く。

 

「い、いきなり後ろから声をかけないでよ桜!」


 あたしは後ろを振り返るとそこにいたのは友達の中でも一番仲が良く、同じテニス部の桜がいた。

 桜はいつもなんだけど、おっとりとした雰囲気があって、ちょっとSっ気がある。


「ごめんね~? でも、まいたんがどこか考えふけった顔をしてたから~」


「あ、あたしは別に……」


「あれれ~? 顔が赤いぞぉ~」


 そう言って、桜があたしの顔を覗き込むように近づいてきた。

 あたしはもちろん顔を逸らす。恥ずかしいし。

 顔が本当に赤いのかは分からないけど、熱く火照っているということだけはなんとなく感覚で分かる。


「う、うるさいっ! それに『まいたん』って呼ぶなっ!」


「うふふ……その反応も可愛いんだからもぉ~」


 そう言うと、桜はあたしに抱きついたと同時にこちょこちょとくすぐってくる。


「んっ……ちょ、ちょっとやめ――」


「耐えてるまいたんも可愛い~」


 これが終わる頃にはすっかり部活動時間が少し過ぎ、この後あたしと桜は顧問に怒られる羽目になった。

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