第6話 前幼なじみと現幼なじみ

 掃除時間が終わり、放課後。

 親友の結花は信じられないものでも見ているような表情をしていた。

 いや、結花だけではない。クラス中……学校中の生徒がそんな表情をしている。

 それもそのはずだ。

 

「りょーくん、早く帰ろ?」


 そう言って、俺の腕にくっついてくるあーちゃん。

 その光景を見れば誰だって、掃除時間の間に何があった? というような顔になる。

 俺はそんな視線に居心地の悪さを感じながら、帰りの準備をすぐに済ませる。

 そして、あーちゃんに腕を引かれながら俺はクラスの教室を出た。

 


 靴箱に到着すると、ある女子と八会わせた。


「遅い! どんだけ——って、誰この子?」


 そう言って、あーちゃんをしかめっ面でじっと見つめるもう一人の幼なじみ。

 

「げっ……」


「げっじゃないわよ。で、この子誰?」


 俺はなんと説明しようか言い淀む。

 ふと、あーちゃんの方を見ると、舞と同様に「この人誰?」みたいな目線を俺に向けながら、同時に不安げな表情を浮かべている。

 ——これは……嫌な予感がする。

 なぜかは分からない。

 でも、生まれ持った本能というやつなのだろうか……直感でそう思った。


「と、とりあえず、帰りながらでいいか……?」


 気がつけば、俺たちの周りにはギャラリーらしきものが出来ていた。



 帰り道。

 俺は天国と地獄を両サイドで味わっていた。

 あーちゃんは腕に抱きつくような形で俺にくっつき、舞はその様子を殺してしまうのではないかというような凶悪な目つきで見ている。

 俺を境目に何やら不穏な空気が流れ始めている中、舞が苛立ちを隠せない声で再度訊いてきた。


「で、その子は誰なの?」


 いつもより声のトーンが低く、威圧感が増している。

 これは完全に怒っているときだ。

 どこからどう説明しようか、考えていると、あーちゃんが俺の腕を解放する。


「初めまして。りょーくんの幼なじみの早坂綾乃です」


 そう言って、綺麗な角度で軽くお辞儀をする。

 それを見た舞は眉間にしわを寄せながら、俺の顔を睨みつける。その顔は「幼なじみ? どういうこと?」と言っているかのようだ。


「お、幼なじみと言っても、前住んでいた街のだぞ?」


「ふ~ん……ということは、というわけね」


 なぜか舞が勝ち誇った顔での部分だけを強調した。

 それを聞いたあーちゃんはむっとした表情になる。


「ちなみになんですけど、私はりょーくんがから知ってます」


「生まれたときって——っ?!」


 覚えてないだろとツッコもうとしたとき、あーちゃんに思いっきり右足を踏みつけられた。

 俺は声にこそ出さなかったものの、ローファーということもあり、胸中で悶絶する。

 あーちゃんはにこにこ笑顔を舞に見せているが、目元に影がかかり、その笑顔がなぜか怖い。


「へぇ~。でも、りょーすけのことって生まれたときからせいぜい小学校前まででしょ? たった六、七年じゃん。あたしはだし、小学校から今日までのりょーすけを知ってますけど?」


 舞がそう言って、嘲笑う。

 あーちゃんも笑う。

 俺は……今にでもこの場から逃げ出したい思いだった。

 そして、どのくらいかシーンとした時間が過ぎていく。

 なんで争いを起こしてしまっているのか、理解できない俺は、二人を宥めるべく、気まずい空気の中、口を開く。


「と、とりあえず二人とも俺の幼なじみなわけだし、前も今も関係——」


「「あるのっ!」」


 見事に二人の声が重なった。

 それに圧倒された俺は……


「あ、はい……」


 一瞬にして萎縮してしまった。

 とにもかくにも今の空気は俺には耐えられない。別の話題で変えなければ……!

 謎の指名感に押された俺は、再び無理やりではあるが、どこに家があるのかをあーちゃんに訊く。


「そ、そう言えば、もうすぐ俺と舞の家なんだけど……あーちゃんの家ってどこなんだ?」


 俺と舞の家は隣同士。

 学校からは約一キロぐらいだから、まだこの先となると、まぁまぁな距離になってくる。


「私の家は……あ、ここ!」


 いがみ合っていたあーちゃんが俺の質問に反応して指で示した先は………………俺んちの隣だった。

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