第46話 コウくんへ【3】


 信じられない。

 わたしだって覚えててくれた!

 わたしを、覚えててくれた……!

 嬉しくて嬉しくて、途中からなにを話したのか覚えてない。

 コウくん、わたしはお礼も言えずにお別れしてしまった貴方にずっとお礼がしたかった。

 だからたくさん気持ちを込めて、『お裾分け』を持って行くね。

 どうか受け取って欲しいと祈りながら持っていく。

 少しでも昔のようにお話したくて、迷惑かなぁと思いつつ……話しかける口実に。

 制服を一緒に買いに行ってくれるって言ってくれたの、本当に本当に嬉しかったし助かった。

 ああ、相変わらずとても優しくていい人だ。

 わたしの初恋の人は、あの頃と変わらず優しい。

 また改めて好きになる。

 あの頃とは、多分違う好き。

 不思議だね。

 同じ『恋』のはずなのに、今とあの頃とではなにかが違う。




「インフルエンザ!?」

「そうなの。だから一週間は接近、面会禁止です!」

「そ、そんな!」


 今度こそバレンタインに告白するんだ。

 そう決めて、色々試行錯誤していたのにその日コウくんのお姉さんにそう言い放たれた。

 奇しくも小学生の頃、コウくんの机の中にチョコレートを入れた日だ。

 バレンタインは明日なのに。

 わたしはまたバレンタインチョコをコウくんにあげられないらしい。

 インフルエンザだから仕方ないんだけど。

 仕方ないんだけど!

 でもまさか、またインフルエンザ!

 インフルエンザはわたしになにか恨みでもあるのかな!?


「……でも、お粥は持って行ってもいいでしょうか?」

「え? こっちこそいいの? ありがたいけどさ」

「はい! ……わたし、小さい頃体は弱かったので……寝たきりの大変さとか、分かります」

「そう? ……じゃあご飯だけお願いしちゃおうかな。今度材料費持ってくね」

「いえ、そんな! わたしが好きでやる事なので」

「いやいや。こういうのってちゃんとお返ししないと気持ち悪いからさ」

「…………」


 そういうものなのか。

 少し悲しいけど、わたしもコウくんにずっとお世話になりっぱなしでお礼も出来なくてもやもやしたから……多分この気持ちの事だろう。

 それから一週間、お粥を作ってはお隣の部屋に持って行く。

 話は出来ないけど、チャイムを鳴らして声を聴ける。

 少しして扉を開けて確認すると、空のお皿が廊下に置いてあった。


 食べてくれた。良かった。


 そう安心する。

 けど、無力だなぁ、とも思う。

 コウくんはいつもわたしを元気づけてくれたのに、わたしはお粥を作って届けるくらいしか出来ないよ。

 あーあ、バレンタインに告白しようとも思ってたのに、それも無理だし。

 インフルエンザめ、一度ならず二度までも!


「はぁ……」


 どうしたらいいんだろう。

 わたし、お礼も言いたいんだけど……でも、やっぱり昔とは……違うの。

 気持ちが膨らんで、膨らんで、破裂しそうなくらいパンパンで、苦しい。

「小学校の頃は毎日話し相手になってくれてありがとう。あの頃好きでした」……って、それだけ言えたら満足だった気がする。

 でも、再会してから話をして、相変わらず優しくて、気遣ってくれて……小さな頃の「好き」が普通の好きじゃなくなっていって……自分で自分の気持ちがコントロール出来ない。

 あの頃、ただ勇気を出す、それに必死だった。

 今はそうじゃなくて、自分が自分でなくなるように、口がペラペラ勝手に動く。

 行動に移す勇気のハードルも下がってて、もう、自分暴走状態なんじゃ……。


「はぁ……。……むっ!」


 うじうじ情けない!

 もう自分の気持ちははっきり自覚しているんだから、やれる事をしよう!

 わたしはコウくんが……今のコウくんも好きだ!

 だから振り向いてもらうために、お付き合いしてもらうために頑張るぞ!

 でも会えない時期が長くてうじうじしてしまったので、コウくんのお姉さんの職場に突撃してしまう。

 中学の頃は長かったから、卒業式の前につけ毛で長い時の再現。

 コウくん、長いのと短いのどっちが好きだろう?

 あーあ、切る前に再会してたら切らなかったかもしれないのに……。


「…………」


 中学の卒業式、あんまり行きたくない。

 でも、親を安心させたいから、行く。

 でも、それまでのわたしに出来る事って、おかずを作る事くらいなんだから……よーし、作るぞ!


「って、気合入れすぎちゃったな……」


 コウくんが提案してくれたのが嬉しくて、いつの間にかお鍋がたっぷたっぷに!

 二つに分けてもまだギリギリ……なぜこんな事に……。


「さすがに多いかな? でも……あ、この足音はコウくん!」


 階段を登ってくる音だ!

 思わず部屋から出て、階段を見下ろす。

 やっぱりコウくんだ!


「はっ!」


 髪の毛! エプロン……よし!

 姿見でチェックしたあと、また扉を開ける。


「コウくん!」

「うあぁっ!?」


 あ、びっくりさせてしまった!

 ご、ごめんなさい!


「お、おかえり!」

「……た、ただいま……」

「! あれ、コウくん、髪染めてる……!」

「あ、う、うん……」


 階段を登ったてきたコウくんと対面して初めて気づいた。

 コウくん、髪が少し茶色くなっている。

 髪型も違う……切った?

 え、かっこいい……。


「え、え……ど、どうしたの? 髪も切った? 雰囲気変わったね……!」


 かっこいいけど、まさか彼女が出来た……?

 中学の頃のコウくんの事は知らないから、コウくんに彼女がいたとしたら……!

 い、いやぁ……。

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