第42話 ホワイトデー【2】
しかし、食べ放題は十二時から。
あと二時間もある。
「十二時までゲームセンター行ってみない?」
「ゲームセンター!? 行きたい!」
横断歩道を渡って、バス停とは反対側のアーケードに入る。
そこからさらに歩くと、少し大きめのお店が見えた。
人はまばらだが、店内はなかなかに混み合ってる。
「……どうしたの?」
ゲーセン、俺もあまり来た記憶がない。
母がパートで働いているのに、自分だけ遊ぶのは……と思って敬遠していた。
でも、姉の誘いで何度か……ここじゃないけど行った事はある。
ゲーセンはどこもうるさい。
せりなちゃんはお嬢様だから、多分初めてなんじゃないかなぁ。
そう思って隣を見ると、なぜか目と口をキュッと瞑っていた。
なにこの生き物かわいい。
「せりなちゃん?」
「ん、ん……お、音が……」
「ああ、大きいよね。そのうち慣れるよ?」
「……え? なに? コウくんの声がよく聞こえないよぉ」
……かわいい。
「大丈夫大丈夫」
「……う、うん……」
ゲーセンにきたらまずはクレーンゲームだよなぁ。
そう思って連れて行ったクレーンゲームコーナー。
「これもゲームなの? どうやって遊ぶの?」
おっふ! まさかクレーンゲームをご存じではない!
さすがお嬢様!
まずはそこからか!
「お金を入れると、上に吊るされてるクレーンが動くんだ。それを操作して中に入ってる景品を取るんだよ。ここ、景品の取り出し口ね」
「へえー!」
まあ、俺もそんなにやった事ないんだけど!
「! わあ、かわいい!」
「!?」
せりなちゃんが見つけて声をあげたのは、フィギュアが景品のクレーンゲーム。
そ、そうだな、かわいいと思う。
あれって半年くらい前までやってた女の子がいっぱい出るアニメのフィギュア、かな?
俺もアニメや漫画は見るけど、中学三年になってからは受験勉強しかしてこなかったからよく知らない。
クラスの男子たちは、話してたけど……俺はぶられてたから本当によく知らないんだよ。
……まさかせりなちゃんがアニメの女の子のフィギュアに食いつくなんて……なぜ?
「すごいねぇ! かわいいね! いいなぁ、かわいい」
「こ、こういうの好きなの?」
「うん、こういうのちょっと憧れるよね。白い頭の女の子の服、特に好きかも」
「?」
白い頭の女の子の……服?
おう、ゴスロリってやつ?
確かにフリルとかたくさんついててかわいい……ん? 服?
「あ、服がかわいいって事?」
「お人形もかわいいと思うよ?」
「ふーん……」
とはいえ、フィギュアのクレーンゲームって難易度めちゃくちゃ高いと思う。
取れる自信が、ない。まったくこれっぽっちも、ない。
一回だけダメ元でチャレンジしてみるか?
「! コウくん、見て! あっちの景品!」
「え?」
「大きいよ!」
「お、おお……!」
そこにあったのは定番のお菓子、ポッキーやらポテトチップスやらのどでかい版!
なにこれこんなのあるの?
すっげ! でっけ! 中身の写真がパッケージに出てるけど、中身もでかいのか!
チップスは量が半端ないな!
「やってみようよ!」
「うん」
フィギュアより、こっちの方が気持ちが楽!
食べ物は食べればなくなるからな。
それに、せっかくゲーセンに来たんだから遊ばないと。
……金銭的余裕がないので、あまり遊べないけど。
「もうちょっと右?」
「え、このままでよくない?」
「いや、もう少し進むと……」
「あ! 通り過ぎちゃったよぉ!」
二百円を入れて1プレイ。
あーでもないこうでもないと言いながら、五回くらいやってみたけど取れなかった。
うーん、すごく難しい……。
こんなの取れる人いるのかな?
「……あれ? 飯橋じゃね?」
「女の子といる」
「マジ? 他人の空似とかじゃ……ないな?」
ヒュッと、喉が鳴る。
この声、中学の──……。
「…………」
やめときゃいいのに、見てしまった。
目が合う。
やっぱり同じクラスの男子たちだ。
どうしよう、見られた。
せりなちゃんと一緒にいるとこ……いや、だからどうとか、そういうのはないけど……。
なんだろう、すごく、嫌だ。
どうしてこんなに嫌なんだろう。
せりなちゃんは、俺の父親の事とか知らないから……知られたらと思うと怖い。
だから?
正直父親の顔とか思い出せないくらい俺は会ってない。
でも、父親が宗教にハマってる事、せりなちゃんにバレたら……せりなちゃんも……。
「コウくん! もう一回! ……ん? コウくん?」
「…………」
どうしよう、もうあいつらの方見れない。
話しかけられるだろうか?
石田もいた。
そういえば石田は東雲の芸能科に行くとか話してたもんな……この町に来てるのは、当たり前か。
でも、だけど……。
「中学の同級生?」
「…………」
「そうなんだ。…………。ねえ、コウくん、あっちに行こう!」
「!」
見上げてきたせりなちゃんが、俺の手を……掴んだ。
そして、そのまま引っ張られる。
ゲーム機の間を通り抜け、あっという間にあいつらは見えなくなるし、音も大きいから……多分、俺の心臓の爆音はバレてないと思う。
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