第18話 一緒に作ろう【5】
いや、むしろ食べる事になるであろう長谷部さんがご愁傷様です?
「……あ、じゃあ俺ちょっと百均に行ってくる」
「え? なんで?」
「買い物だよ。まだ揃えなきゃいけないものがあるし……お金も入った事だし!」
姉からもらった三千円!
早速これで収納に使えそうなグッツを買い揃える!
「ふーん、まあいいけど……あんまり遅くならないように……」
「こんにちは、飯橋さん」
「うぎゃー! はははは長谷部さん!」
「幸介くん、体調悪そうなので気をつけて見てあげてください。じゃあ行ってきます」
「え、あ、は、はい!? 行ってらっしゃい!」
……余計なお世話なんだよなぁ……。
と、思うけど、姉と会話するチャンスを与えられたのは良かったのかな?
マジですぐ出かけちゃった。
普段すれ違い生活なんだから、このタイミングで会えたのは姉的にラッキーのはずだし。
「…………」
ポーッと顔を赤くして長谷部さんが出かけるのを見送る姉。
そしてそんな姉の手を、せりなちゃんが掴む。
ニコォ、と微笑むところは微妙に怖い。
「え、せ、せりなちゃん?」
「やりましょう! 長谷部さんにはわたしのお兄ちゃんもお世話になっているので! わたし、お姉さんの応援を全力でしますよ! 一緒に長谷部さんが腰を抜かすようなチョコを作りましょう!」
「ふぇ、ふおおええええええ!?」
「……じゃあ、俺百均いくから……あの、頑張って姉さん」
グイグイ、せりなちゃんの部屋に引き摺り込まれていく。
うん、まあ、うちの姉はそこまで料理上手くないしね。
いいんじゃないかな、食べるの長谷部さんだし。いろんな意味で。……命かかってるわけじゃないけど……姉は時々毒物を生成する時があるし……うん。
……長谷部さん、バレンタイン後も生きて。
***
「よし!」
百均で買い物をして、戻ってきてからまず姉の部屋の洗濯物を確認する。
残念ながらまだ乾いてはいなかった。
まあ、だとしてもこの靴の山はなんとかしたい。
なので百均から買ってきた重ねられるラックを使い、そこに縦長の塔を建設。
その中にこちらも百均で買ってきた二足セットに出来るアイテムで収納。
三十分ほどですべてを綺麗にする事が出来た。
「ふう。よし、じゃあ次!」
次に風呂場。
そもそも姉の風呂場はなんか色々多過ぎるんだよ。
化粧品?
あとはコンタクト?
仕事道具だかなんだか知らないけど、缶類がたくさんある。
使い終わってるやつはガス抜きしてさっき捨ててきたけど……まあ、酒缶の方が圧倒的に多いという……いや、それはいいや。
ともかくこういうものをこれも百均で買ってきた、シャワーカーテンに吊るして使える収納アイテムに入れていく。
シャンプーやボディーソープとかは、これでだいぶ使いやすくなると思う。
あとはここにもゴミ箱が必要。
同じ収納アイテムをトイレのタンクの蓋を開け、そこにひっかけて使えばいい。
ちょっと蓋は浮くけどないよりマシ。
これで風呂トイレもまあ、だいぶ片付けられた。
「次はキッチン台だな」
そもそも、ここがメインで片付けてたはずなのに。
いつの間にか姉の部屋をだいぶ綺麗に仕上げてしまった。
姉は長谷部さんと付き合う事になっていたら、この部屋に彼を入れるつもりなのだろうか?
……あの部屋に……?
弟がドン引きしたあの部屋に?
……死ぬ気か?
「百均ってほんと便利だよなぁ」
靴箱のところで使った台のようなアイテムを重ねる。
それは上にある戸棚にぴったりくっつければ揺れる事もない。
これで収納は倍以上。
下の方を水切り用にすれば、洗ってすぐ置いておくだけでいい。
これでダメならもう俺には姉のものぐさをどうにかする事は出来ない。
「…………」
目が……まぶたがとろんと落ちてきた。
あれ、おかしいな?
寝不足ではないはずなんだけど……。
「まさか、ね?」
寒気はずっと感じているし、少しずつ頭が痛くなってきている気がする。
まさか本当に風邪?
いやいやまさか。
「…………。よし、帰ろう」
とにかく姉の部屋の掃除は終わったし。
長谷部さんに言われたからじゃないけど、水分取って温かいもの食べて暖かくして寝れば明日にはいつも通り! の、はず!
「ん?」
部屋に戻り、扉を開けようとした時……隣の部屋からチョコレートの甘い香りが漂ってくる。
あと、悲鳴。
……悲鳴? いや、きっときのせいだろう。
なんでバレンタインのチョコレート作ってて悲鳴が聞こえるんだよって話だし……。
「……あれ?」
がちゃ。
部屋に入ってから自分の部屋も相当甘い匂いに包まれている、と気がついた。
ああ、姉がせりなちゃんの部屋に行くまでは俺の部屋で試作品作りしてたんだもんな。
そりゃ甘い匂いもす──……。
「…………」
……この、この形容し難い感情をどう言い表せばいいのだろう?
電子レンジの蓋は開けっ放し、しかもキッチン台と同じように飛び散ったチョコレートがなかなかの量。
器具はそのまま。
冷蔵庫を恐る恐る開けると、こう、なんか、なんか……なんかぁ!
「ラップはねーわ……」
皿ではなく、ラップの上にもにゅっと載せられたチョコレートの塊。
一口サイズなのは分かるんだが……姉の指紋がくっきりついてて……俺なら好きな子でもちょっと引くと思う。
これはひどい。
あ、ああ……長谷部さん……長谷部さん……すみません……。
俺はそっと冷蔵庫の扉を閉じながら、自分の部屋の掃除を開始するのであった。
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