第15話 一緒に作ろう【2】


 姉の部屋を片付け、洗濯機に服を放り込み液体洗剤と柔軟剤を入れる。

 さすがに下着は自分で洗ってくれ。

 ふと、嫌な予感がして風呂場を覗くと案の定……ゴミが溜まり、姉の最低限の名誉のためにちょっと実況は控えたい状況。

 深く溜息をついて、まず片付けた部屋の方に戻り窓を開けた。

 エアコンの上、ラックの上から埃を落として掃除機で床に落ちていたゴミを吸い上げる。

 長谷部さんに教わった分別……まさか姉に活用する事になるとは思わなかった。

 うちのアパートは翌日のゴミならゴミ置き場に置いてきていい、という事になっている。

 網の鉄格子で覆われていて、カラスや猫はいじれないからだ。

 明日は燃えないゴミの日だから、缶詰やビール缶などは今のうちに出してきてしまおう。


「ん……?」


 一階に降り、ゴミ置き場に二袋にもなる燃えないゴミを持っていく。

 そこに待ち構えていたかのようなデブ猫が歩み寄ってきた。


「ぶみぃーぉ」

「…………の、野良?」


 デカくね?


「あ! コウくん!」

「! あ……せりなちゃん……?」


 買い物袋を持ったせりなちゃんがアパートの敷地に入ってくるところだった。

 あれ、せりなちゃん……部屋でチョコ……じゃ、な、なくて! ……料理してたんじゃなかったのか?

 でも、せりなちゃんから漂ってくるのは甘いチョコレートの……いやいやいやいや!


「…………」

「ハッ! お、俺のじゃないよ!? 姉さんの部屋のゴミだから!」

「あ! そ、そうだよね! コウくんまだお酒飲めないものね!」

「そ、そう! 姉さんの部屋の掃除頼まれて!」


 せりなちゃんが俺の持つ酒の缶が大量に入ったゴミ袋を見て、固まった。

 それで思い出したのだが、俺はなかなかにとんでもない状況だったのだ。

 姉の飲んだビールやチューハイ缶の入ったゴミ袋を持つ未成年……やばい絵面だったに違いない。

 慌ててゴミ置き場にそれを入れて、扉を閉める。

 しかし、その間野良猫は微動だにしない。

 目つきが悪く、太ったその猫……俺とせりなちゃんをじーっと見上げていた。


「この子知ってる。ボスって言うんだよね」

「ボス?」

「そう、この辺りの地域猫のボスなんだって。隣の家のおばさんが餌をあげてたよ」

「え、餌あげていいの?」

「耳にカットの跡がある子は地域で去勢済みで、ご飯をあげてもいい事になってるんだって。ボスが縄張りの外から来た、去勢してない子は動物病院の前まで誘導してくれるらしいよ」

「猫が!?」

「そう。もう五匹くらい動物病院に連れていって去勢させて舎弟にしてるんだって。ボスすごいよね」

「……そ、それが本当ならすごいね」

「ぬぇーぁご」


 顔を見合わせる。

 すごい顔だ。眉間にシワは寄ってるし……デブいし。

 とてもそんなすごい猫には見えないんだけどな?


「お腹減ってるのかな? でも、猫用のご飯は買ってないから……そうだ! 作ってみよう!」

「え? 猫のご飯を!?」

「うん! 結構簡単みたいだよ。ボス、少し待ってて。作ってみるから」

「んぬぁー」


 返事した……。


「コウくんはまだお姉さんのお部屋掃除してるの?」

「あ、うん……まだ洗濯機回ってるし……あと風呂とトイレも掃除してやろうかと思って」

「すごいなぁ、コウくん……お掃除も自分で出来るんだ……?」

「……せ、せりなちゃん掃除とかどうしてるの」


 言い方が気になって、思わず聞いてしまう。

 すると「うちは週に一回お手伝いさんが掃除や洗濯しに来てくれるの」と……。

 うーん、さすがお嬢様……。


「……でも、自分でも出来るようになりたいな」

「え? ……な、なんで?」

「え、そ、それはそのー……やっぱり出来ないと、困るかなぁって……。さ、さっきコウくんに教えてもらったコンビニにも、初めて一人で行けたんだよ……!」

「そ、そうなんだ」


 コンビニに、初めて一人で……。

 なかなかのパワーワードな気がする。


「すごくドキドキしたけど、ワクワクして楽しかったの。あんな場所があるんだね〜! 実家では禁止されてたから、ちょっぴり悪い事した気分……」

「禁止されてたんだ?」

「うん、コンビニはよく強盗が入るから危ないってお父様が」

「…………。そこまで頻繁ではないと思う、よ? 少なくとも俺がコンビニで強盗を見た事はないから……」

「そうなの!?」


 過保護がすぎないだろうか、せりなちゃんのお父さん。

 アパートの階段を登りながら、ふと、せりなちゃんのエコバックの中身が気になった。

 ──チョコ……い、いや、いや……!


「今日は、なにを作るの?」

「えっとね、今日はからあげ! の、予定だったけど、ボスにご飯を作るから別なものにしようと思うの。なにがいいかなぁ……」


 せりなちゃんの部屋は階段を登って正面の最初の部屋。

 俺はその隣。

 俺の部屋の正面が長谷部さんの部屋で、長谷部さんの部屋から二つ隣が姉の部屋だ。

 俺の隣から突き当たりまでは空室。

 多分、これから続々引っ越してくるだろう。

 それでもせりなちゃんの部屋の隣は、俺だけ……。


「作りすぎたらコウくんに持っていくね」

「え!」

「えへへ……じゃあ、お掃除がんばってね!」

「あ、う、うん」


 これからやるのは、洗濯物を干す……んだけど……。


「がんばる」


 めっちゃがんばれそう。

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