隣に引っ越してきた幼馴染が手料理を毎日お裾分けにくるラブコメ
古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中
第1話 お隣は幼馴染【1】
「幸介、荷物はこれだけ?」
「うん」
二月。
高校に受かり、今年から都内の高校に入学が決まった俺、
同じ部屋なら部屋代も浮いたんだけど、1ルームの一人部屋なのでそれは不可能。
さすがに二十歳も過ぎた姉とそんな狭い部屋で一緒には暮らせない。暮らしたくない。
そんな事から俺は同じアパート、同じ階層の別室を借りる事にした。
よく借りられたな、と今は思う。
高校が近いため、地方から出てくる俺のような学生に人気のアパートなんだってさ。
姉は高校時代からこのアパートに暮らしているけど、普通に後輩に譲ってやれよ、と思う。
そう、俺は運がいい。
良すぎるくらいであった。
「ほら、荷物置いたらカーテンとか冷蔵庫買いに行くわよ〜。洗濯機とかは貸してあげるけど……買うものちゃんと覚えてる?」
「うん、リストにしておいたってば」
姉、
他の姉弟の関係性を聞くと、なかなかに悲惨なところが多い。
そのせいか、俺も少しシスコンの気がある。
うん、分かってる。自覚ある。
でも、こんなに優しくて美人な姉では仕方ないだろう。
うちは父が小学生の頃に蒸発して以降、シングルマザーとなった母、そして姉と三人家族。
母が再婚して、実家だったアパートは他の家族が住むようになって……いや、母さんが今幸せなら、それが一番いい。
「あ!」
ガチャ、と鍵が開く音がして、そちらに顔を向けると赤褐色の髪の長身イケメンが廊下に立っていた。
イケメンはスーツ姿、眼鏡と、見た目はとても真面目そう。
その顔がこちらを向くと、途端に姉が顔を赤くさせて、はにかむ。
え、と思った時には、姉が一歩前へ出てイケメンに頭を下げた。
「おはようございます、長谷部さん。これからお出かけですか?」
「おはようございます、飯橋さん。飯橋さんもお出かけですか? ……あれ? えっと、そちらは?」
イケメンが姉の後ろにいた俺の方へと目線を向けてきた。
目元も穏やかで、なにより笑顔も爽やか。
こんな完璧な爽やか系イケメンが現実に存在するのか? ってくらい。
「あ、そうだ。弟の幸介といいます。この春から長谷部さんの勤める学校に入学予定です。部屋はあたしの斜め向かい。幸介、こちらは長谷部さん。あんたの通う東雲学院一般科の先生ね。えーと、担当教科は……」
「担当は体育です。そうなんですね、初めまして、長谷部真慈と申します」
「え、下のお名前、しんじ、だったんですか? わ、わー! そうだったんですね〜! す、素敵なお名前ですね〜っ!」
「ありがとうございます」
「…………」
これは。
さすがに。
分かりやすぎやしないか。
と、思わないでも、ない。
姉の分かりやすい態度。
相手の男はそうでもなさそうだが、身内から見るとその好意は分かりやすすぎる。
思わず男の方を見上げて、改めて観察してみる。
高い身長は180を超えているだろう。
がっしりとした体格はいかにも体育教師。なにかスポーツをやっていたのだろうと分かる。
しかし面立ちは穏やかで優しげ。表情もずっと微笑みを浮かべている。
口調も同じく穏やかで丁寧だ。
初対面の、これから生徒になるとはいえ男子に対しても敬語というのは珍しい。
保護者の前であっても教師は子どもにタメ口を使う。
そういうものだった。
じゃあ、もしかして長谷部さん、も……姉を?
というか、姉さんが面食いすぎる。
「そうか、お姉さんと同じアパートに引っ越してきたんですね」
「は、はい。部屋は、違いますけど……」
「ふむ……この辺り、女子校も近くにあるから変質者が出やすいんです。なにかあったら、すぐに警察に連絡するように。今は男の子も危ないですからね」
「……は、はい、ありがとうございます……あの、四月から、よろしくお願いします」
「入学式で会えるのを楽しみにしているね」
ぽん。
頭に大きな手が乗る。
最後、ようやく敬語が外れた。
しかし、その口調はやはり穏やかで優しい。
「……あ、あの、お出かけなら、途中までご一緒しませんか?」
なんだと?
思わず姉を見上げてしまう。
初対面の男と、それにあからさまに片想いしている姉と三人で出かけるとか地獄でしかない。
絶対嫌なんですけど、と目で訴えるが……姉の熱のこもった眼差しは長谷部さんに注がれていて俺の事など見えていないようだ。
「お誘いはありがたいんですが、これから他の学校に行かなければいけないので……」
「あ、そ、そうなんですか……」
「幸介くん」
「え、あ、はい」
「俺はカウンセラーの資格もあるから、悩みがあったら気軽に相談してね。お姉さんに相談出来ない男の悩みとかも、あると思うし……。……それじゃあ、飯橋さん、今日は暖かくなるみたいですが、まだ風は乾燥しているのでお気をつけて。そろそろ変質者も増えてくる季節ですしね」
「あ、は、はい。ありがとうございます。あの、いってらっしゃい」
「はい、いってきます。飯橋さんもいってらっしゃい」
「は、は、はいっ! いぃいってきまーす!」
「…………」
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