これは死んだ君に贈るラブレター。もしもこれをお前が読んでるなら、君はもう死んでる。

鳩尾

拝啓、ありんこ。

君は俺の幼馴染。だからそのー、ラブレターなんていうと、凄く、キショイ。でもね、今日映画を観たんだ。ラブには、色々な形があるんだってさ。だからラブレターって言ってみる。

ラブレターとは言ってみたけど、俺は別に君とチューとかその…セから始まるヤツをしたいわけじゃない。いや、むしろね、こっちから願い下げ!それに、アリサって呼んでみたいとも思わない。キモい。だから、きっとそーゆーラブじゃないんだよきっと。

だけどね、やっぱり君がいなくなって、凄く寂しいんだ。本当に寂しいよ。脳死判定がどーとか、心ゾウ死がどうとか言われたけど、さっぱりわからん。つまり、どっちかの意味では、君は死んでるんだってね。でも、起きるかもしれないとも、言ってた。君のお母さんが。だから書く。


じゃ、まずは君の嫌な所からね!3歳の頃から一緒にいるんだ。ちなみに今は中3ね。つまり10年ぐらい。そりゃ、嫌な事の方がいっぱいあって当然だろ!

まず君は、洋画を観ない。これはね、人として、致命的。君、どーやってこの先、デートするわけ?ああつまりその…生きてたらの話しね。

次、俺が『バッドボーイズ2バッド』を観に行こうって誘った時、君は断った。今でも覚えてる。

「私、洋画は嫌い。字ぃ読んでるの、疲れちゃうもん。」

「じゃあいいよ、吹き替えで。」

「吹き替えだとさ、その人の声じゃないんだよ?それって、キモくない?」

「じゃあ英語勉強しなきゃね。」

「それとこれとは話しが別だよ。」

そう言って君は笑ったんだ。ふざけんなよ!俺は一人で見に行ったんだぞ!

もーね、最っっっ高だった!あれはかれこれ1年ぐらい前の事だっけ?でもね、未だにこの映画が、俺の人生史上、ベストの映画!吹き替えでも観たけど、あっちも良かったよ!もーね、山ちゃん最強。

バクハツ!ギャグ!バクハツ!銃撃戦!バクハツ!カーチェイス!バクハツ!って感じ。

あーしまった。今のバクハツ、全部漢字で書いてたら、バクって漢字、ちゃんとおぼえられたかな?笑

冗談はさて置き、少し真面目な話しをするとね、君は俺が、俺的ベストの映画に誘ったのに、それを断ったんだ。君は絶対に笑ったに決まってる。絶対に楽しんだに決まってる。でもね、もう俺は、君にベストを見せられないかもしれない。君はいつも俺に自分が良いと思う物を押し付けるくせにね。

あー、結局こんな話しになっちゃう。


次に嫌な所は、俺の事をジュンポって呼ぶ所。なんてゆーかさ、恥ずいよ。中学生にもなって。しかもさ、なんかちょっとエロいだろ?君は知らないよ、部活で俺がどんだけイジられてるのか。だから、何度もやめてって言ったけど、もし君が復活したなら、何か新しい呼び方にかえてほしい。君の事だからもっと恥ずかしいのを考えそうだけどね。だからもう、名字でいいかもね笑


そろそろ良い所ね。

君は、かわいい。それは認める。笑顔と、エクボがかわいい。俺はスケベ小説家じゃないから、上手く言葉じゃ言い表せないけどね。でもね、なんてゆーか、君を笑わせると、「よっしゃ!」って思うんだ。小学生のころ、チンチンに落書きして、君の家まで見せびらかしに行ったろ?まさかお母さんが出て来ると思わなくてさ。あんなに怒られるとはね笑

君、「ちょっとは勇気あるじゃんっ」て、ほめてくれたよね。いつも男なんだから勇気出せって言うくせに。そんで、笑ってくれた。

つまり、俺はね、急に君を笑わせたくなっちゃうんだ。そうするとね、いてもたっても居られなくって、君を笑わせるためなら、何でも出来る気がするし、どんなバカな事でも、思いついてしまうの。

だからさ、だからこそさ、君が死んだらどうすればいいんだろう?俺は一生、人を笑わせれない人間になるのかな?運動も得意じゃない、決してイケメンでもない、勇気もない俺がさ、詰まらなくなったら、生きてる意味、あるのかな?

だからね、ラブなんだ。きっと…


今日ね、今日〈も〉ね、この手紙の続きを書こうと思ってた。そしたらね、晩飯の時に、母さんに言われた。

「あんた最近ずっと何書いてんの?」って。いつもゲームやめろ!映画見過ぎ!本は顔を離して読め!とか言うくせにね。本当に文句をつけたがる人なんだよ、あの人は。

だまって机に座ってるんだからいいじゃんね?

でもね

ごめん。泣きそうだ。てか、泣いてる。

でもね、俺はイヤな奴かもしれない。俺、何やってんだ?って思っちゃったんだ。君はまだ、死んでないのに。だけどそうだろ?君が俺の立場でもそうかな?

君がこのまま目を覚まさなかったらどうしよう。

君が読んでくれなかったらどうしよう。

君が死んじゃったらどうしよう。

涙がね、止まらないんだ。


ありんこ!解決した!

あ、ごめんこれ、泣いてた日の次の日ね!ほら、日付けが変わったり時間が空いたりしたら、段落かえるって篠山先生言ってたよね?

解決したんだよ!俺はコレを書く事にした。でもね、少し、トリックがあるんだ。

君が死んだら、俺が将来これを読む。それで、思い出すんだ、君の事。そうしたらね、君は永遠…

誰かの記憶の中にあればそれは永遠とかなんとか、そんな様な事を映画で観たんだ。

だけどそんな事はウソっぱちだって分かってる。死んだら死んでるんだもんね。だけどね、俺は思い出したいんだ。俺が君の事、どんだけ好きだったかを。これを読めば思い出せるんだ。

もーいいや、この際、言う!言うってか、書く!

書いてて気付いた。

ありんこ、好きだ‼︎大好きだ!君が生き返ったら、笑わせまくってやる!過呼吸にして、もう一回殺してやるんだ!それから、もう一回笑わせて、もう一回復活させてやる!

これは、ラブレターだ‼︎



「結局出せなかったのか。」

手紙を読み終え、純は口元を抑える。どうにもこうにも情けない。

物心ついた時からまとめてきた、A4クリアブック、通称インスピレーション・ファイルの最序盤に挟まっていたこの手紙。

執筆の息抜きにでもと思って手を付けてみたものの、読んでしまえば、恥ずかしくて情けない。こんな事では、まったくもって、仕事にならない。

でも、きっとこれでよかったんだよな。書く事に、意味があった。


「たっだいまー!」明るい声が帰ってきた。

こんな時にかよ!しかも随分と機嫌いいじゃねーかチクショー

足音がスタスタ近づいてくる。それは間違いなく、純の部屋に向かってきている。

来んな来んな。まずは手ぇ洗えや。

「ノックノック」コンコン—ガチャン!

「ハッピーバレンタイン!ダーリン!」

「おい急に開けんなよ。それノックしてる意味ないだろ。—ってか…先ず、お帰り。」

「ただいま。はい!これ!チョコ!溶けちゃったかなー?あのね、電車ん中はシートにヒーター付いてるでしょ?だからね、今日はなんとぉ、ダーリンの為にぃ…」

「なんと?」

「—座っていません!」

「あぁ…そう」純は苦笑いをみせながら、ハート形の箱を受け取る。「ありがとう。」しっかりと目を見詰めて御礼を言ってみると、彼女はしっかりと、見詰め返してくれた。

「いえいえ。—あなたは?仕事順調?順々ジュンポって感じ?」

「はぁ?なにそれ。全然だよ。」

「ねぇ!なにそれ!手紙?」

「まぁね。」

「みしてみ?」

「嫌だよ。」

「いーじゃん!」

「絶対無理!」

「ちぇっ。せっかく早く帰ってきたのに。つまんないモードっすか?作家あるあるヒステリックモードっすか?」

「なんだよそのモード。てか、他の作家知ってんの?君?」

「ほぉほぉ。妬きましたねぇ?今、ジェラッちゃいしたねぇ?」

「別に…ただ、知ってたとしたら、マズイよなーって。」純は時計を確認する。まだ16時だ。

「ねぇ、映画観に行かない?」

「ほぉ。勇気を出して、デートのお誘い?なに行く?」

「『バッドボーイズ フォー・ライフ』」

「ねぇ…」






「ゴリッゴリの洋画じゃん。」


やっぱ出しとけばよかった…

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これは死んだ君に贈るラブレター。もしもこれをお前が読んでるなら、君はもう死んでる。 鳩尾 @mizoochi

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