第八部

第424話 天才とアホの子の父ちゃんも紙一重

 年が明けて、本日1月の2日。

 昨年はマジで色々あり過ぎて、振り返ろうにもどこから振り返って良いのか分からないレベルである。

 俺の人生が終わる際の走馬灯は、高校2年生編だけ特別に発注しよう。


 それにしても、新年と言うのは何となく厳かな気分になるものである。

 クリスマス前後で色々とはっちゃけたし、その反動もあって、実に静か。

 このままずっと正月なら良いのに。


 え? ずっと真夜中で良いのに。みたいに言うな?

 良いよね、最近実はハマってる。秒針を噛むから順番に聴くのがマスト。


 そうだ、正月特番にも飽きて来た事だし、届いた年賀状でも読みながら、今日は1日音楽に浸るのも良いかもしれない。

 よし、桐島公平セレクションの開幕だ。



 そして震えるスマホ。



 今日はやけに早いじゃないのよ。

 いつもは、もう少し後じゃないのよ。

 割と長めの俺のモノローグから始まるのが常だったじゃないのよ。


 しかし、無視すると言う選択肢はないのである。


「コウちゃーん! 助けてぇえぇぇぇーっ!!」


 もう何だか、得も言われぬ安心感すら覚えてしまう。

 なんだろう、このあるべき場所にあるべき物がある感じ。


「なんだ、どうした。思ってたよりも貰ったお年玉が少なかったのか?」

「聞いてよぉー! コウちゃーん!」

「お餅食べたいねってお母さんと話してたらさー!」

「お父さんが、よぉし、任せとけ! って言ってさー!!」

「炊飯器のご飯全部使って、なんかネバネバする物体作ったー!!」


「助けてぇー、コウちゃーん!!」



 ついに毬萌の父ちゃん助けるパターンが来ちまった。



「今から行く」


 とりあえず、行かなければならない。

 俺は寒風吹きすさぶなか、自転車に飛び乗った。


 新しくご飯炊けばとりあえず良いんじゃね? とか言わないの。

 それ言ったら、俺の毬萌の家に行く理由がなくなるでしょうが。

 暇なんだったら、なんか神の奇跡を起こして、時を戻して毬萌んちのコシヒカリをもち米にしといて、ヘイ、ゴッド。



 神野家の呼び鈴をポチリ。

 もちろん、ビリビリコウちゃん1号の有無は確認済み。


「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!! いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 その時、俺の指に激痛走る。


 呼び鈴を押した瞬間にね、呼び鈴自体が変形して、ネズミ捕りみたいになったの。

 バネ式のヤツ。トムとジェリーに出て来る、アレ。

 原理はもうサッパリ分からないけど、とりあえず怪我しない程度に加減された痛みが俺の指をスタート地点に全身を駅伝。


「コウちゃーん! いらっしゃーい!!」

「いらっしゃーい! じゃねぇよ!! お前、なんだこりゃ!?」



「ガウガウコウちゃん1号だよっ!!」

「悪質なもん作ってんじゃねぇよ!!」



「これはねー、後ろについてるつまみを捻ると、はい、取れたーっ!!」

「見ろ、俺の細くて美しい人差し指を! こんなに赤くなって!」

「だってぇー。コウちゃんにも刺激が足りないかと思ってー。ほら、前に言ってたじゃん! 刺激のねぇ人生なんて退屈なだけだぜって!」


「言ってねぇよ! 勝手に俺の発言にハードボイルドなセリフを加えるな! よしんば言ってても、刺激ってのはこういうんじゃねぇよ! 物理的なものじゃねぇよ!!」


「まあまあ、入って、入ってー! 寒いでしょ!」

「ちくしょう。お邪魔します」


 毬萌はごそごそと、オリジナルの呼び鈴を元に戻して家に入る。

 呼び鈴を丸ごと罠に取り換えようって発想が既に常人のものじゃねぇんだよ。



「あら、コウちゃん。あけましておめでとう。寒かったでしょう? 今、お茶淹れるわね」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「いやぁ、コウちゃん。お正月から来てくれるなんて、毬萌と相変わらず仲が良いなぁ」


 おじさん。あなたがやらかしたと聞いて伺ったのですが。


「コウちゃん、コウちゃん! お餅食べたいっ!」

「おう。そういう話だったな。おじさん、錬成したペースト状のご飯は? あと、コシヒカリをいくらボコっても餅にはなりません」


「いやぁ、新しい発見ができるかと思ったんだけどなぁ! あっはっは!」

「おおう。これは見事なペースト状。おばさん、台所借りても?」

「もちろん良いわよ!」


 もう解決策まで用意して来た今日の俺。

 五平餅を作るのだ。

 のんのんびより見てて良かった。


 えっ? ネタ元バラして良いのかって?

 むしろ多くの人に知ってもらいたいよ。

 のんのんびよりりぴーとの9話だから、ゴッドも見といて。


「コウちゃん、わたしもお手伝いするーっ!」

「おう! そうか、毬萌が料理できるようになったから、作業が半分で済むんだなぁ。いや、これは助かる」

「コウちゃん、ビデオ回しても良いかな?」

「おじさん。どういう用途で使うんですか?」


「二人の結婚式で流そうかと思ってさ! 良い記念になるぞー!」

「ヤメて下さい」


 どうして俺の知っている家の父ちゃんはほとんどがポンコツなのか。

 うちの父さんを含めて、ポンコツにならなければならない呪いでもかけられたのか。

 カメラ映りに難のある俺を動画撮影すると言う発想は、さすが毬萌の父ちゃん。

 どうなるのか興味はあるけども。


 しかし、やっぱり邪魔なのでおじさんには退場頂こ——


「あ、コウちゃん! 忘れてたよ! これ、少ないけど、お年玉!」

「好きなだけ撮って下さい! 目線が必要な時は指示を! 今から俺はおじさんの操り人形です!!」


 うわぁ! お年玉だぁ!

 しかも、高速で中身をチラ見したら、学問のすゝめ書いた人がいた!!

 うわぁ!! うわぁ!!! お正月ってステキ!

 こんなセクシーな日、毎日来ればいいのに!!!


「コウちゃん、こんな感じで良いかなぁ?」

「おう。さすが、元から手先が器用なのもあって、完璧なフォルムだな。もっと適当で良いのに」

「じゃあ、どんどん作っていくねーっ!!」


「コウちゃん! ここで目線ちょうだい! あと、何かカッコいいセリフも!!」



「毬萌は本当に料理上手だな! 最高だぜ!!」



 と、こんなやり取りを繰り返していたところ、俺が担当していた味噌ダレが完成。

 毬萌は甘めの味付けが好み。

 ならばそうしない理由がない。


「おっしゃ! 焼いていくぞー。毬萌は下がってろ。油がはねちゃいけねぇから」

「平気なのにぃー」

「バカ、嫁入り前の娘の肌だぞ! 火傷でもしたらどうすんだ!」

「コウちゃんが火傷するのもヤダよー?」


「あらあら、まあ。じゃあ、お母さんが代わりましょう。コウちゃんは毬萌と一緒にテーブルに行ってて。ここまでありがとうね」


「わぁーい! ありがと、おかーさん!! 行こ、コウちゃん! メロンソーダ冷えてるから!!」

「なんか中途半端にやりっぱなしですみません。お言葉に甘えます」

「コウちゃんとは長いお付き合いになるんだから、変な気遣いはなしよ! うふふ」



 そしてテーブルに座って、毬萌とメロンソーダを半分こ。


「あれ? そういえば、お前。炭酸ってあんまり好きじゃなかったろ?」

「にへへーっ。バレてしまったのだっ! だって、コウちゃんが好きなものは、わたしも好きな方がいいもんっ!」

「そう言えば修学旅行で八つ橋工場に行った時にもそんな事言ってたな」

「そだよー。コウちゃん、忘れてたけど!」


「これまでコウちゃんには助けてもらってばっかりだったからさっ! これからは、コウちゃんの好みのね、あの、女の子になりたいなって、さっ!!」

「毬萌……」


「ああー! 良いね、今のは良い! いやぁ、一生もののシーンが撮れたぞぉ!!」


 ぐっ。今のシーンはさすがに恥ずかしい!

 正直カメラをぶんどりたいけども、俺のポケットの中に潜む諭吉様が!!


 が、それは杞憂に終わる。


「にははーっ! おとーさん、カメラ逆だよぉ! それじゃ、自分の顔が映ってる!」

「ええっ!? しまったなぁ。お父さん、うっかりしてたよぉー」


 おじさんは、毬萌の父ちゃんなのである。

 紙一重の向こう側の住民なのである。


「さあ、お餅焼けたわよー。コウちゃん、コーラも冷えてるから、おかわりしてくれていいわよ!」

「うっす! ありがとうございます!!」


「あーむっ! んー。コウちゃんと作ったから、すっごくおいひー!!」

「良かったな。おう。メロンソーダと相性抜群だわ」


 ちなみに、俺が動画でどうなるのかについては毬萌が、「結構ふつーだよ?」と呆気なく答えをくれた。

 けども、俺の動画をお前はいつ撮ったんだ。



 これは、今年もアホの子は一家そろって元気で何よりと言う、そんな感じのイントロダクション。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る