第422話 生徒会とゆく年くる年

 本日。大晦日。

 今年を振り返ってみれば、途方に暮れた事も数多あまたあるものの、どうにかこうして年も暮れる日を迎えられた。


 ちなみに俺の大晦日の過ごし方は、リビングで酒盛りする父と母をチラ見しながら、紅白歌合戦で現実逃避して、年が明けたら500円貰う。

 ああ、お年玉ね。


 そのあとは適当に「あけおめ」とラインなり、メールなりで送ったり送られたりしつつ、コタツに入って適当にテレビつけて、眠くなったら適当に寝る。

 これが俺のマスト。


 年によっては毬萌がやって来る事があったりするものの、ヤツも基本的に冬ごもりする習性を持つ可愛い生き物。

 コタツが俺の部屋に来てからはそれが顕著で、だいたい布団に包まって毬萌ロールに進化したら、反応がなくなる。

 ラインしても柴犬が寝てるスタンプしか帰って来ない。


 が、今年の俺は、かつてないほどアクティブ。

 よもや、大晦日の年越しの瞬間を外で過ごす日が来ようとは。


「桐島先輩。お待たせしました」

「おう。鬼瓦くん。俺もさっき来たとこだ。しっかし、さみぃな」

「ええ。何か温かい飲み物でも買って来ましょうか?」

「そうするか。一緒に行こう。どうせ女子どもはまだ来ねぇよ。なんだってこのくそ寒ぃのに晴れ着なんか着ようと思うんだ」


「先輩。その発言は危険です」

「おう。鬼瓦くんが言うなら間違いねぇな。すみません。謝罪して訂正します」


 鬼神と二人で近くのコンビニへ。

 既にコンビニの中が混雑していると言う亜空間。

 嘘だろう。これからもっと混雑している神社に行くって言うのに。



「みんなで年越し初詣に行こーっ!!」


 昨日、俺の家にやって来た毬萌がコタツに頭から入って言うのである。

 毬萌が突拍子もない事を言い出すのは日常であるが、真冬には活動力が3分の1程度に減少するアホの子にしては、張り切った提案だった。


「生徒会のみんなで、一緒に新年を迎えるのだっ!」

「ぐぅぅ……。毬萌だけなら簡単に断れるのに、生徒会を出されるとなぁ。んじゃ、みんなに聞いてみろよ。きっと花梨とか海外にいるし、鬼瓦くんも忙しいぞ」


 そして寒いから俺も忙しい。


『行きたいですー! ぜひぜひー!!』

『何を犠牲にしても参加します』


 うちの後輩たちの心意気に俺が完敗した瞬間であった。

 ちょっとだけ自分が恥ずかしくもなった。

 だって、寒いからさ、ほら、ちょっと心がモニョっとして、ね?


「みゃーっ! 花梨ちゃんが晴れ着を貸してくれるって! コウちゃん、わたしの晴れ着姿が見られるよっ! やったね!!」

「おーおー。そりゃあ嬉しいなぁ。ああああああ!! 冷たい! ヤメろ! なんでコタツから俺を引きずり出すんだ!? 悪かった! すげぇ見たいから!!」


「じゃあ、明日は夜の11時半に宇凪神社で待ち合わせね!!」

「へーい。鬼瓦くんにゃ俺から連絡しとくよ」



 と、まあ、こんな感じで、年末に生徒会が出動する事となった訳である。

 時刻は待ち合わせの時間の15分前。


 え? お前は何時からいるのかって?

 30分前からだけど?

 だって、誰かが張り切って来たのに、誰もいないじゃ可哀想やんけ。

 大丈夫、寒いのは嫌いだけど、寒さ耐性はそこそこあるんだ、俺。


「鬼瓦くん……俺ぁこの人混みじゃ飲み物もろくに買えんようだ……。先に逝くよ」

「ゔあぁぁぁぁっ!! 僕が買っておきますので、先輩は退避を優先して下さい!!」

「了解した。速やかに撤退する」


 そして鬼瓦くんが温かい午後ティーを買って来てくれた。

 もう、ライフの半分は使い果たしたかな。

 うん? 寒さの耐性はあるよ? ただね、元々の体力がないの。


「そう言えば、勅使河原さんと一緒に過ごさなくて良いの?」

 となりでBOSSのブラックを飲む鬼瓦くんに質問。


「真奈さんとは先ほどまで一緒でしたよ。今は、ご実家に。やはり、家族との時間も大切にして欲しいですから。明日は僕が伺って、ご挨拶をしようかと」

「もうアレだね。完全に亭主だね、君は。嫁さんの実家に新年の挨拶しに行くとか、高校生の交際の範疇はんちゅうを越えているなぁ」


 それから10分経っただろうか。


「せんぱーい! お待たせしましたぁー!!」

「ごめんねー! コウちゃんと武三くん! 準備に時間がかかっちゃったよー」


 周りがそこそこざわついた。

 美少女が2人、きらびやかな着物で寒風にいろどりを加えたからである。

 そして、彼女たちの向かう先が、エノキタケと鬼神の元だったからでもある。


 数名の悪い虫がうちの大事な女子たちをかどわかそうとする気配を察知。

 ならばと、鬼神バリアを起動。

 俺が「セット!」と言って指を差すと、鬼瓦くんが「ゔぁぁあぁっ!!」と咆える。

 金色のガッシュかな?


 そして悪い虫が死を間近に感じたらしく、そそくさと退散していくのと入れ替わりに、うちの女子たちとやっとこさ合流。

 真冬の寒空の下、俺と鬼瓦くんだけでよくここまで話を持たせたよ。


「じゃーん! どうですか!? あたしの着物姿! 似合ってますか!? せーんぱい!!」

「みゃーっ……。わたしはなんだか慣れないよぉー。コウちゃん、変じゃない?」



 ちくしょう。可愛いじゃねぇか。二人とも。



 着物に負けない明るい笑顔の花梨。グイグイ来るところも含めて良い。

 対して、慣れない着物で獣医に連れて来られた柴犬みたいな毬萌。……良い。


「二人とも、可愛いぞ」


 男は黙って感想を簡潔に。

 黙ってないじゃないかとか無粋なツッコミはおヤメになって。

 日本語って難しいのですわ。


「えへへー。やりましたね、毬萌先輩!」

「うんっ! 頑張って着て来て良かったぁー」


「おー。あと10分で年明けだってよ。よし、スマホのタイマー起動させとこう」


「今年も色々あったけど、4人で年を越せるのって良いよねっ!」

「はい! 毬萌先輩のおかげで、すっごくいい思い出がまた増えちゃいます!」

「僕はもう、一生分の思い出をこの1年で作り果たしました……」


「俺も、まあアレだな。なんだかんだで、楽しい1年だったよ」


「にははーっ! コウちゃんがなんか照れてる!」

「公平先輩、手に持ってるのがブラックコーヒーだったら完璧なのにー!!」


「う、うるせぇ! 良いの、俺は俺のままで! そして、お前らもお前らのままで! 年が明けたって、何歳になったって、今日の気持ちは忘れんな!」


「おおーっ! コウちゃんが、たまに良い事言う時のコウちゃんだっ!」

「公平先輩、もう一回お願いします! 動画を撮るので!!」


「ヤメなさいよ! 俺だってちょっとしんみりイイ男な雰囲気出してみただけなのに!!」



「ゔぁああぁぁっ!! 僕ぁ、僕ぁ桐島先輩に会えて、ゔぁぁあぁっ! よ、良かったです!! ゔぁあぁぁぁぁぁっ!!」



 鬼瓦くん。気持ちは嬉しいけど、俺を1人で胴上げするのはヤメておくれ?

 周りの視線も痛いし、冷たい空気が顔にぶっかかってすげぇ冷たい。


「あ、おい! 年が明ける!! もう10秒しかねぇ! ほらカウントダウン!!」


 俺がそう言った瞬間に、周りの人たちは「わぁぁぁぁ!!」と沸いて、口々に新年のあいさつを始める。

 なにこれ、どういうアレ? フライングが横行してるの?


 原因にはすぐ気づいた。


「……すまん。午前0時きっかりにタイマー仕掛けてたわ。もう年明けてた」


 昨年最後のミスと、今年最初のミスを同時に犯す男。それが俺。


「もぉー! せんぱーい! ふふっ、でも、いつもの先輩らしくて良いかもです!」

「そだね! コウちゃんは少し頼りないくらいが一番頼りになるのだっ!」

「さすがです、毬萌先輩。言葉の意味は分からないけど、納得できます」

「おう。面目ねぇ……」


 そして俺たちは、参拝の行列に加わって、財布から小銭を取り出す。

 年明けの瞬間に初詣をするのは初めての経験だったが、これはこれでなかなかおもむきがあって良いじゃないか。


 まあ、雰囲気が良い事も認めるが。

 ただ、他の誰と来ても、この感覚は2度と味わえないだろう。


 俺たち生徒会、一生で一度切りの全員揃って初詣。


 けれども、生徒会の仲間じゃなくなったって、またこうしてみんなで集まれば良いのだ。

 きっとその時には、見える景色も変わっていることだろう。


 俺たちの縁が途切れることはない。



「さぁ、みんな! しっかりお参りしよーっ!!」



 やっと列の先頭に出た俺たち。

 毬萌の号令で、全員揃って二礼二拍一礼。なむなむと神様にご挨拶。


 願い事? そんなの決まっているじゃないか。

 俺の大切な人たち全員が健康で、今年も良い1年になりますように。


 俺は勘定から抜いて良いから、しっかり叶えてくれよ。ヘイ、ゴッド。




 ——第七部、完。

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