第286話 緊急開催! お泊り会!
その日は週末。
俺のスマホは稼働中。
天使とのテレビ電話のためであり、この通話を守るためならば俺は炎の中にだって笑顔で飛び込めると思われた。
「兄さま、兄さま!」
うん。可愛い。心菜ちゃん、可愛い。
なんかモコモコした部屋着が最高に可愛い。
「おう。なんだい? まだ宿題があるのかな?」
先ほどから、心菜ちゃんの数学の宿題を一緒に解いていた。
テキストの方程式は解けたものの、心菜ちゃんの可愛らしさの秘密は解けず、俺の心が溶ける寸前と言う
「違うのです! この前言ってた、お泊り会がしたいのですー!」
「ゔあぁぁぁぁぁっ!!」
電話の向こうで死神がうっかり地獄の
「こ、心菜!? あれはまだ、ずっと先の話なのよ!?」
「おう、氷野さん。こんばんは」
「あら、こんばんは! じゃないわよ! あんたも何とか言いなさいよ!!」
「おう。氷野さん、風呂上りはなかなかセクシーだぜ?」
「ぶっ飛ばすわよ!」
今のは俺が悪いかもしれない。
そこで俺は、お詫びに建設的な意見を考えた。
花梨が「うちでやりましょう」と言っていたお泊り会。
ならば、その会場が押さえられなければ、開催は不可能となる。
俺がやんわりと「急には無理だよねー」的な質問を花梨に投げかけたらば、「そうですねー。ちょっと急過ぎますねー」となるのではないか。
そして、そのうち
完璧なプランではないか。惚れ惚れする。
俺は、心菜ちゃんに「ちょっと待ってね」と言ったのち、氷野さんにウインク。
氷野さんの冷たい視線に見送られて、一度通話を切る。
そして返す刀で花梨へテレホン。
すぐに繋がる。
「おう。花梨。悪いなゆっくりしてるとこ」
「いいえー! ぜーんぜん平気ですよ! どうしましたか?」
俺は事情を話した。
やんわりとおよび腰で、「無理は承知の上だわさ」と大量の布石をトッピング。
「無理だよね」と言う言葉を振りかけ過ぎたせいで、ポッピングシャワーみたいになったセリフを花梨ががっちりキャッチ。
勝ったな。
「うちはいつでも大丈夫ですよ! あ、じゃあ明日にしましょう! みんなに早速連絡してみますね!」
おや? ちょっと思ってたのと違うな。
そして電話が終了。
数分ののちに、グルーブラインで花梨がお泊り会を打診。
いつものメンバー全員があり得ないスピードで反応。
瞬く間にOKのスタンプでその場が溢れかえった。
俺はとびきり爽やかな顔で、再び心菜ちゃんとテレビ電話。
「はわわ! 公平兄さま、すぐにお泊り会の用意してくれて、ありがとうなのです!」
心菜ちゃんの背後には、お怒りの氷野さんが立っている。
スタンドかな?
「お、おう。明日、楽しみだね!」
氷野さんと目が合ったので「てへぺろ」と舌を出してみると、その瞳が獲物を見つけた雌ライオンのそれになった瞬間を見逃さなかった。
とりあえず心菜ちゃんとの楽しいテレビ電話にお別れをして、俺はベッドに寝転び、天井を眺めて、ひとり思う。
いっけね、やっちった!
「コウちゃーん! 来たよー!!」
翌朝。
普段はどれだけ叩き起こしても「あと5分だけだよぉー。……できればあと1時間ー」などとたわ言を抜かす毬萌が、土曜の朝9時に突撃してきた。
「おまっ、早くねぇか!? そりゃあ、来れる人から順番にって話だったけども!」
今、俺まだ朝飯食ってるんだけど。
うっすい食パンにマーガリン塗って、味気ない朝食中なんだけど。
「にへへっ、楽しみで早く目が覚めてしまったのだ!」
「普段の朝は楽しみではないと、そう言うんだな、お前は」
「違うよぉー! 平日は、コウちゃんに起こしてもらうのを楽しんでるんだよっ!」
「たちが悪いな! 起きれるなら起きろよ! つーか、前から言おうと思ってたけど、普通幼馴染が朝起こしに来てくれるのって女子側じゃないの!?」
「……にへへーっ」
こいつ、最近笑って誤魔化すことを覚えたんだけど。
その後、毬萌のせっつかれるままに身支度を整え、わずか15分で家を出た。
道中、鬼瓦くんと勅使河原さんにバッタリ遭遇。
拒む理由がないので、一緒に向かう。
毬萌と勅使河原さんが楽しそうにしている姿を、鬼瓦くんとほっこり眺める。
まだ青い
「わぁ……。す、すごい、です、ね! お話には、聞いて、ましたけど」
冴木邸初体験の勅使河原さん、しっかりとその豪邸っぷりに驚く。
このグループに所属する以上、もはや通過儀礼である。
「桐島先輩。せっかくの機会ですので、残りのアルバム作業をしようと思い、パソコンを持参しました」
鬼瓦くんの目の付け所は今日もシャープ。
「そうだな! 俺もちょうどそう思ってたよ!」
嘘をつくな? 心外じゃないか、ヘイ、ゴッド。
俺はちょうど今、そう思ったんですー。
今だから、嘘じゃありませんー。
どうにかお泊り会を正当化する理由も発見したところで、呼び鈴をポチリ。
どうせ、ロシア軍人みたいな髭をした屈強なおっさんが出てくるだろう。
「いらっしゃいませー! あー! 皆さん一緒だったんですね! もうマルさん先輩たちは着いてますよー! 中にどうぞどうぞー!!」
部屋着の花梨はいつも通り、やたらと体のラインが主張していてスキだらけであるが、その前にもっと主張の強い人物の不在が俺を不安にさせた。
「花梨。……お父さんは?」
「もぉー。公平先輩とパパ、仲良すぎですよー!」
別にそんなつもりもないのだが、いつも居る人が姿を見せないと心配になる程度には友好的な関係なのに間違いはないので訂正はしない。
「パパ、今日からブラジルに行ってましてー。さっき電話でお泊り会の事を話したら、サンパウロからいますぐ帰るーとか言ってました!」
パパ上が不在、だと……?
さすがのパパ上も、地球の裏側に居ては出現不可能だと分かったが、これはいかがしたものか。
年頃の男女が一つ屋根の下に集まって、しかも家主が不在と言うのはよろしくない。
「今、磯部さんがお昼作ってくれてますから、早く入って下さい!」
ああ、そうか。
そう言えば、花梨の家には磯部さんを筆頭に、シェフやら執事やら、その他大勢がいる事を失念していた。
それならば、まあ、大人が居ると言う事で問題ないだろう。
「あ、先輩の考えてること、分かりますよー?」
「おう、さすが花梨。やっぱり分かっちまうか。そろそろ付き合いが長いもんな」
「えへへー。当たり前ですよ!」
そして花梨は恥ずかしそうに言う。
「夜にはうちのスタッフ全員に帰ってもらいますからね! 気兼ねなく色々できますよ! せーんぱい!!」
花梨さん。
違う、そうじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます