第276話 花梨パパのよく分かる写真選考

「くっくっく。よくぞ来たな、貴様ぁ! 夕食の用意も風呂の支度も土産のメロンも整っておるぞ! くくくっ」



 ヤメて下さい、お父さん。

 まず、状況を説明させてください。

 いきなり出てこないで下さい、タイミングってものがあるので。



 放課後、花梨の家へお邪魔する事となった。

 目的は、アルバムのページを埋める事。

 なに? そんなもん、学園でやれ?

 バカだなぁ、ヘイ、ゴッド。それが出来ないからここに居るのに。


「どうぞー! 散らかっていてごめんなさい! 入って下さい!」

 花梨の家の応接間と言う名の巨大ステージへと通される俺。

 ——と。


「はわわー。とつぜんのごほうもん、もうしわけありません、なのです!」

「おっちゃん、こんちゃーっす! お邪魔しますー」

 心菜ちゃんと美空ちゃん!

 天使! ああ、天使!!


「ううん、良いの、全然平気だよ! おっちゃんね、二人だったら毎日来てくれても良いんだよー? おい、誰か! 用意しておいたフルーツを出さんか!!」

 早々にパパ上の威厳指数が急落。

 だが、それも致し方なし。分かります、パパ上。



 今日は冴木邸にて、中二コンビのページを作るのだ。

 理由は二つある。

 まず、花梨の家が、二人の通う中学校から割と近い点。

 そして、今日は鬼瓦くんが家の手伝いで離脱中のため、パソコンの扱いに長けた者が不在なためである。


 俺? ああ、ダメダメ。

 それなりに使えはするけど、センスってもんに恵まれてないから。


 花梨? おう、そこで彼女の名前出しちゃう?

 美術的センスは俺のはるか上をひた走る独創性の極致。

 その尖った芸術性は、万人に理解されるとは言い難い。


 そこで白羽の矢が立った……と言うか、矢を放ったら弁慶の立ち往生よろしく、敢然と立ちはだかった御仁がいた。

 花梨パパである。

 花梨が「うちのパパ、少しくらいなら役に立つと思います」と推挙。

 「じゃあ、コウちゃん、あとよろしくねっ!」と毬萌に送り出されて今に至る。


「自分の写真並べらてんのって、なんか恥ずいなー!」

「心菜もですー! はわわ、兄さま、あんまり見ちゃダメです!!」

 それは、心菜ちゃんの写真かな?

 それとも、照れてる心菜ちゃんのことかな?



 どっちも見ちゃうけどね!! うふふふ!!



「せんぱーい? ちゃんと選んで下さいね? 鼻の下を長くしていないで!」

「ばっ! 何言ってんの、花梨!? 俺ぁいつでもマジメだよ!!」

「どうですかねー? あ、こっちに水着の心菜ちゃんの写真がありますよ!」

「えっ、マジで!?」

 思わず反射的に手に取ってしまった。


「残念でしたー! それ、あたしの写真です!」

「おう。いや、これはこれで、なかなか、アレがナニで、おう」

「ちょ、ちょっと! なんで普通に満足そうなんですか! 先輩のスケベ!!」

 いや、だって、君が自分で水着姿の写真を出すものだから。


「時に未来の息子よ」

「はい。なんでしょうか、お父さん」

「貴様の買ってきてくれた土産について話がある」

「すみませんでした。もう処分されちゃいましたか?」


 京都駅で買った「京都!」って書いてある提灯である。

 自分用に買えばよかった。

 土産にするにしても、花梨を選ぶべきではなかった。

 さすがに俺も後悔している。場違いが過ぎる。


「あー! なんでパパが言おうとしてるの!?」

「えー! 良いじゃん! パパだって先輩とお喋りしたいんだもん!!」

「えへへ、公平先輩が下さったお土産、ちゃんと飾ってありますよ!」

 えっ!? あれをこの豪邸に!?

 いや、提灯は悪くないのだが、この豪邸には似合わないと思うのだけども。


「くっくっく。特別に金細工を施したケースを作らせてな。くくっ、そこのゴッホの絵の隣に飾らせてやったわ! ……悪くない!!」



 ゴッホの隣に1200円で買った提灯が!!



 しかも、純金が眩しいケースに入っとる!!



 俺はとんでもない事をしでかしてしまったのではなかろうか。

 やっぱり八つ橋にしとけば良かった。

 なまじ形が残るものをチョイスしたばっかりに、ゴッホと金に申し訳がない。



「それやったら、お互いに好きな写真選ぼか!」

「はわー! それなら恥ずかしくないのです!」


 これは俺としたことが。

 今は過ぎた提灯のあやまちよりも、天使たちの写真選びである。

 心菜ちゃんに比べて美空ちゃんの写真はまだ少なかったため、氷野さんに提供してもらった。

 さすが、溺愛する妹の親友の事とあって、大量の写真が出てきた。

 あの人、将来結婚したら常時子供に向けてカメラ回しているんじゃなかろうか。


「ふふっ、心菜ちゃんも美空ちゃんも可愛いですねー!」

「そうだな! ……おう。花梨も負けずに可愛いぞ!」

「へっ!? も、もぉー! 公平先輩ってば、ヤメて下さいよぉー!!」

「あでぇっ」

 乙女心の基礎教養に「女子が何かを褒めたらすかさず当人も褒めるべし」とあったので実践したら、花梨の照れ隠しで右肩がモキョって言った。


「おい! 誰か! 医療班を呼べ! AEDも用意しておけ!!」

 いえ、パパ上、そこまでの重傷じゃないです。

 さすがに心臓は動いています。


「心菜ちゃんの写真、選んだでー!」

「はわわ、心菜はまだ選べていないのですー!」

「おう。焦らなくても大丈夫だよ。時間はたっぷりあるからね。それじゃあ、美空ちゃんが選んだ心菜ちゃんの写真から見てみようか」


 ちなみに、現在作成しているのは、まだ人物紹介のページである。

 そののち、例えば合宿だったり、海水浴だったりとページを足していくので、なるべく重複しないように選定を進めている。

「これ、どないですか? 可愛いの選んだんですけど」


「くくくっ。未来の息子よ。ワシがこれより、写真選考の基準と言うものを教えてやろうではないか」

「ああ、やっぱりお父さんくらいになると、お詳しいんすね」

「当然だ。まず、目。その人物の目を見れば、良し悪しなどすぐに分かる」

 パパ上と一緒に、心菜ちゃんの弾ける笑顔の写真を凝視。


「どないですかー?」


「うん! もうね、おじさん、心がウサギさんになっちゃったみたい! とっても可愛いね! そして、これを選べた美空ちゃんも、とってもステキ!」


 パパ上?


「ほんまですか! 良かったー!」

「ほんまよ! ほんま!! もう、どの写真も完璧! おじさん、早速データを纏めちゃうね! あー、もう飛び跳ねたい! その辺を飛び跳ねたいなぁ!!」


 パパ上……。



「くくくっ。貴様にも分かっただろう? これが、正しい写真の選び方だ」

 そんなキメ顔で言われましても。


「この写真など、見るが良い! 天使がダンスをしておるわ!」

「あああああああいっ!! 尊い! こいつぁ尊いっすね、お父さん!!」

 前言撤回。こいつは上がアガるぜ。



 楽しい写真選びは後半へと続く。

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