猫な彼女のバレンタイン

猫な彼女のバレンタイン

「そういえば、はいこれ」

　咲弥が自分が食べていた俺に板チョコを差し出した。

「……何これ」

「今日なんの日か知らないの？」

「いや知ってるけど」

　今日は二月十四日。バレンタインデーだ。

　俺が学校から帰ろうとすると、咲弥は家まで着いてきた。そして今は俺の椅子でくつろいでいる。俺はベッドに腰かけて咲弥と向かい合っていた。

「だからこれあげる」

「……ありがとう」

　俺はチョコを受け取った。咲弥は満足そうに俺の方を見ている。

「お返し、期待してるから」

「これで何を求めてるの……」

　俺はため息を吐いて、受け取ったチョコを食べた。

　咲弥は物欲しそうに俺の方を見ると、俺の横に腰かけて口を開いた。

「……」

　俺はチョコを小さく割って、咲弥の口の中に放り込む。

「ふふふ」

　もごもごとさせながら咲弥は笑うと、俺に寄り掛かってきた。そのまま俺の膝を枕にして寝転がる。

　ふと咲弥のスウェットのポケットから、小さな包みが見えた。

「それ、なに？」

　俺が包みに手を伸ばそうとすると、咲弥は慌てて起き上がってしまう。

「なんでもない。これはなんでもないの」

「逆に気になるんだけど……」

　俺は咲弥を捕まえて膝の上に座らせた。咲弥は不満そうにして小さな包みを取り出した。

「これはチョコ」

　包みの中から球体のチョコを取り出す。少し形が歪んでいるところを見ると、手作りなのだろう。

「失敗したから渡さないつもりだったの」

　俺は咲弥からチョコを取ると、口に運んだ。形は歪んでいたが味は普通のチョコだ。

「美味しいよ？」

「……じゃあ、これもあげる」

　咲弥は包みごと俺に渡した。包みをしまい、咲弥を抱きしめた。

「ありがと」

「……うん」

　急に咲弥は立ち上がると、顔を赤らめて俺の方を見た。

「きょ、今日はもう帰るから……」

「家まで送るよ」

「いい。一人で帰る」

　慌てた様子で咲弥は出て行ってしまった。

　俺は包みからチョコを取り出して口に入れる。

「うん、美味しい」

　ホワイトデーは何を返そうか、と考えながら俺は晩御飯の支度に向かった。