バイト三昧の俺が部活に入って幸せについて考える話

稚明

第1話 バイト三昧の俺は今日も働く


俺は今日も学校を休んだ。

なぜか? それは自分の生活費を稼ぐためだ。

そのためだったら学校を休んででもバイトに勤しむ。世の中、金があれば生きていける。


今日のシフトは14時から19時の五時間。この時間帯がどうやら人員不足らしく、平日はこの時間帯勤務が多い。そんなわけで、学校には行けないのだ。

俺、千屋実樹は近所の食品スーパーでレジ打ちのバイトをしている。自宅から歩いて行ける距離でバイト先を探していたら、スーパーの店頭のインフォメーションコーナーにバイト募集の張り紙広告があった。時給の安さ高さは気にしない。とにかく俺は稼がなければならなかった。

そんなわけで面接、計算問題を終え、後日採用という連絡が入り、書類を提出後、このスーパーで働くことになった。

店長から「レジ係をしてほしいんだが」と言われた。印象的に女性がレジをしている印象だったので、「俺が、ですか?」と聞いてしまった。「レジ業務は男も女も関係ないから。覚えることは多いけど」と店長は頭をかきながら言った。この際なんでもいい、働ければ。と思ったので俺は承諾した。


そして、今に至る。

3か月経って、だいぶレジ打ちにも慣れてきた。コツがいるみたいで、慣れていけばリズム乗れる。この感覚が楽しかったりする。ただ、人と接する「接客」は少し苦手だ。

「樹くん、スマイルスマイル~♪」

俺の横から頬に人差し指をさしてニコニコしながらいう女性はレジ主任の宮前主任だ。

20代にして主任を任されている、笑顔も声も誰にも負けないとても明るい女性だ。常連のお客さんのほとんどが主任に解らないことや売り場を案内してほしいと訪ねてくる。

信頼があるんだろう。現に俺にレジを教える時もわかりやすく教えてくれて、今では楽しくレジ打ちをしている。だから、主任のご指導には反論できない。それにしても何もおかしくないのに笑顔になるなんてむずい。笑顔を作るってどうやるんだ?


主任は俺の入っていたレジに休止版を立てて、「裏にいこうか」と言われ、休憩室にやってきていた。

俺の笑顔の訓練をさせるためらしい。訓練で笑顔がでるもんなのか?

「歯を見せるんだよ、にぃーーーって! ほら!」

主任は素敵スマイルだ。これこそ接客の鑑。恐れ入ります。さすがです。

「にぃー」

「いや、目が笑ってないし。ていうか話変わるけど、樹くんいつもこの時間入ってくれてるよね? 学校大丈夫なの? あ、定時制にはいってるんだっけ?」

「いえ、普通の高校です。あの、秋風高校です」

「えーー! そうなの? 私もそこの卒業生だよー! やっぱここらへんの子はあの学校いくよね~」

主任、話しがそれてます。

訓練どこいったんすか?

「じゃあさー部活、はいって、ないよね?」

「そりゃバイトしなきゃですから。お金大事だし」

「いや若者がなにいってんのさ、お金より時間でしょ!」

主任は腰に手を当てて、今度は説教をし始めた。

「ていうか先生がよく許したね、普通は学業優先っていうけど」

「あ、俺去年の夏に母親亡くして、生活費を」自分で賄うようになったんです。生活するにはお金が必要ですから。本当なら学校もやめて一日働いていたいんですけど」

「そーーれーーはだめだよ!! 高校卒業したらいやでも働かなきゃいけないんだから!!」

主任は両手をぶんぶん上下に振りながら俺にいう。この人20代って本当か?

「高校時代の三年間ってね、本当にほんの一瞬なんだよ?365日を三年間って考えたらそりゃ長いかもしれないけど、ほんと、一瞬だった」

あの頃が懐かしいと言わんばかりに、主任はいう。

「でも、俺、今はバイトしていたいです」

「じゃあさぁ、土日はバリバリ働いて、平日は17時からのシフトに変えよう! 主任命令です!」

急にシフト変更できるのそれ職権乱用というんじゃ…

「でも今俺が入っている時間帯、足りないんじゃないんですか?」

「そんなもん私がなんとかする! 高校生は青春するべき! 勉強に恋に、するべき!」

主任から放たれるそれはすごく説得力のあるものだった。


高校生活の三年間。確かにもう半分は過ぎている。

あと半分。あっという間にすぎるんだろうな~。それをバイトの時間に費やして俺的には損はしない。なぜならその分お金になるからだ。楽しいと思える職でお金が入るなら、何時間でもできる。

でも、高校生活は? いかなかったら、やめてしまったら、もうあの時には戻れない。

15歳から18歳の時間は戻れないんだ。


「確かに。卒業したらばりばり働けますもんね。学校は今しか、いけないですもんね」

「そう! だから樹くん、笑顔がでないんだよ! 最近楽しいコトした?」

「…いや、レジ打ちは楽しいなって思いますけど」

「それはその背景にお金がちらついてるからでしょうに。ちがうよこうワクワクドキドキするようなことだよー! 明日がくるのが待ち遠しいとか、あの人に会いたいなとか、ないの?」

主任に言われて初めて気づいた。小さいころ親に動物園に連れて行ってもらった時のことを思い出す。あの時はとても楽しかった。朝早くに目が覚めてしまって早く行こうと駄々をこねたこともあった。そうだ、俺はそういうワクワクをいつの間にか忘れかけていた。

「樹くんが学校に通って楽しいスクールライフを送るようになれば自然と笑顔もでるって!」

そこにつなげられる主任はすごいな。プライベートが充実してるんだろうか。

「ま、そういう私は樹くんと同じ、金の亡者なので、そのお金を推しに使うというワクワクが…」

そういって主任は手で口をふさいだ。

「推し?」

「まーまーまーまー! そういうのはいいから! とりあえず、シフトの件は私がなんとかする! だから樹くんは学校にちゃんと通いなさい! そして部活動にはいる!」

「いや、部活動に入ったら、バイト時間が…」

「ん? 何言ってんの?」

いや、主任こそ何言ってるんですか、部活なんてしてたら、17時から来れないし、土日なんてつぶれてしまうじゃないか。あ、運動系ではないのに入れってこと?

「秋風高校に通ってるんだよね?」

「はい、それが?」

「いや、あの学校、部活入部必須の学校じゃん? 帰宅部はないよ?」


え、まぢか。うそ、そんなことだれもいって…


「まぁそっか。ちょうど一年前ってことは6月だもんね、みんながどの部活に入るか決めるあたりに生活費を稼がないとという理由ができれば、先生はそっち優先でいっちゃうか~」

「ど、どういうこと、ですか?」

「きっと先生は樹君の家庭を優先したから、部活入部必須の情報を伝えてなかったんだよ」

なんだよ、まぢかよ。てことは、俺、今からでも何かに入らないといけないのか?

できればお金が稼げる部活とかあれば入りたい。でも学校にそんな部はない、はず。

「バイトは部活じゃないからね~。秋風高校ってたしかおかしな部活たくさんあるから、毎日活動しなくてもいい部もあったはず。まあ私が在学中に入ってた部活はもうなんていうの、雑談しかしてなくて~。…いやいや、そういうのはいいの、とにかく、笑顔と学校に通う! これ主任命令ね!」

主任は俺の背中をバンっと叩いた。押してくれた? といったほうがいいかな。

とにかく、俺は学校とこのバイトの両立を余儀なくされた。


あぁ。今月の給料、少なくなりそうだ。

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