第15話 パーティ結成 10/26 (fri)

 突然 Rank 1 になってから、一ヶ月が過ぎた。


あれから、ひたすら一層の奥地でスライムを狩り続けた結果、保管庫の中には結構な数のスキルオーブが集まっている。


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 収納庫×1

 超回復×2

 水魔法×4

物理耐性×5

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 おかげで俺は正式に退職できたし、三好も辞職願を提出したらしい。

引き留め工作は、俺の時とは比べものにならないくらい強力だったようで、狭い部屋で圧迫面接よろしくやられて怖かったとか言っていた。


 当面は水魔法の売却益で、俺と三好の二人くらいはなんとかなるだろう。


 三好は商業ライセンスをとったあと、ついでに会社の設立も検討したらしい。


「先輩の名前を隠して取引をするのって、現代日本ではすっごい難しいことが判明しました」


 難しいのは利益の配分らしい。

現代日本では、とにかく何をどうやろうと、利益が移動すると税金が到るところで発生して、名前バレするかベラボーな税金を取られるということだ。


 株式会社を設立して、非上場で株主名簿をつくって配当とすれば、名簿を閲覧できるのは株主か債権者だけだし、税率も二〇%ちょっと……と思ったら大間違いで、

非上場の大口の場合、総合課税扱いされて、配当は超累進課税の所得税+住民税となるのだ。つまり五五%だね。


「タックスヘイヴンを利用したくなる人の気持ちがほんとよくわかりました!」


 他の国に会社を設立して、通販の取引もそこで行うというのも考えたらしいのだが、流石小心者の三好。「なんかこう、後ろめたい気がして」という理由で中止したらしい。


「そこで、ですね。パーティ制度を利用することにしました」


 パーティ制度は、グループでダンジョン探索をしたとき、収益をパーティにプールするための制度だ。


 本来は、パーティ全体で、高額な武器や防具を購入してそれを分配するために使われることが想定されていて、詳しいことはよくわからないが、パーティ全体で、ひとつのダンジョン法人みたいな立ち位置になるらしい。


 パーティメンバーリストは、パーティ作成者が管理していて、いわゆる株主名簿と同じような扱いになっているようだった。


「いや、もうホント大変でした。税理士さんに聞いてもよくわからないんですよ」


 三好は憤慨するように言った。


「できるだけ税金を節約するために、知恵を絞らないといけないような税制は間違ってる気がするんですよね。それって、バカからは取っても良いと思ってるってことじゃないですか」

「まあ、歴史的事情とか、その時点における整合性とかあるんじゃないか?」

「というより、その時々でやりたいことを税制の面から後押ししたいけれど、以前と真逆の要求がでちゃったから、なんとか整合性を取るためにひねり出しました、みたいな構造がいっぱいあるんです」


「文系の人達が考える論理は、最終的な整合性が担保されるなら、支離滅裂で非論理的な構造も許容するみたいなイメージでした。税金は誰でも計算できるようシンプルな構造にしないとダメだと思いましたね」

「税理士さんの仕事がなくなっちゃうだろ」


「ファーストフードですらバラバラに注文したものをセットに纏めて、最も支払いが少ない状態にしてくれるんですよ? 税務署はやる気がないか、ぼったくる気満々だとしか思えません」

「まあ、国家の財政は、ものすごい赤字だからなぁ」


 パーティ作成にも、意外とお金がかかるみたいで、貯金がー、貯金がーと唸っていた。仕方がないので三十万ずつ出し合って、法定費用と実印なんかの作成費用にあてた。


 貯金がどんどん目減りしていくので、すぐにオーブ販売用のサイトを立ち上げるらしい。


「売れるのは確実ですし、今は持ち出しだらけでも、ギリギリでなんとかなりそうです」とは三好の弁。いや、お手数をおかけします。


 パーティの住所は、今のところ三好のマンションだが、実働は俺の家のダイニングが占領されていた。儲かったら引っ越しましょうとか言ってたが、今は、別に困ってないからいいかと軽く考えていた。


 パーティ名は、ダンジョンパワーズ。


 なんともベタでいい加減な名前が決まったのは、二人とも、ワインでべろんべろんに酔っぱらった明け方近くで、そのままリターンキーを押して提出した三好が悪いと言える。本人は結構気に入っているようだが。


 まあ、そんなこんなで、リーダーは三好、メンバーは俺、以上終了(涙)という体制で、俺たちは船出することになったのだ。

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