D-GENESIS ダンジョンができて3年(縦版)
@k-tsuranori
プロローグ
プロローグ three years ago. (2015)
この日、ネバダのグルーム・レイクでは、アメリカが威信をかけて建設した巨大な加速器が稼働していた。
地下百五十メートルに建設された、グルームレイクとボールド山にまたがる周囲百二十キロの大型加速器が、余剰次元の確認を行うべく出力を上げていた。
衝突エネルギーがLHCを遥かに超えたところで、数多くの粒子を衝突させたことが、計測器を通してメモリに記録され、結果がモニタに表示された。
「……マイクロブラックホールの生成を、確認しました!」
一斉にあがる歓声が、新しい理論が証明された瞬間を象徴していた。
「タイラー博士、やりましたね!」
この実験の責任者だった、セオドア=ナナセ=タイラー博士に、まわりの科学者が握手を求めて足早に近づいてくる。
「やったな! テッド!」
「やめろよ、そのしゃべり出しそうなぬいぐるみみたいな呼び方は」
タイラーが笑いながら彼の手を握る。栄光の時間だった。
それを尊敬の眼差しで見つめていた若い科学者は、ひとしきり興奮を共有した後、ふとモニタに目を向けた。
実験成功後もコンピューターは自分に与えられた仕事を淡々とこなしていた。
フェムトセカントで積み上がるその情報は、プログラムに従って適切に処理され……信じがたい結果をモニタに映し出していた。
「な、タイラー博士!」
彼が思わずあげた、悲鳴に近い呼びかけは、まわりの注目を集めるのに充分だった。
「どうしました?」
「マ、マイクロブラックホールが……消滅していません!」
そんな馬鹿な。そこにいた誰もがそう思った。
理論が正しければ、ホーキング輻射によって、一瞬で蒸発してなくなるはずだ。生成に使われた質量は、たかだか陽子の質量に過ぎない。
「空間でいくつかのMBHが高速に運動しています! まるで……まるで、何かの力場に囚われているみたいだ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
最初は量子レベルの空間の歪みに過ぎなかった。
刹那の時間の中で発生した歪みを、
そうして、
◇◇◇◇◇◇◇◇
『固定された力場に、なにか巨大な質量が……なんだ、これは?!』
スピーカーから、誰かの悲鳴のような声が上がると同時に、モニターが白い光に覆われ、暗転して映像は終了した。
「それで全部かね?」
チェスターバリーの見事なスリーピースに身を包んだ、神経質そうな男が、足を組み直してそう尋ねた。
「はっ、グルーム・レイク空軍基地で行われた加速器実験の地上コントロールで記録された映像はこれだけです」
「つまり地上コントロールは無事なんだな? 電力供給用に建設された原発も」
男の頭には、スリーマイルのトラブルがよぎっていた。いかにネバダとはいえ、あれの二の舞は御免だ。
「地上には大きな影響は出ていません。連絡が取れなくなったのは、加速器が設置されていた地下のみで、原発は無事です」
「発生したMBHは?」
「わかりません。が、それがどうであれ、拡大して地球を飲み込むなどと言うことは考えられません」
男はそれを聞いて、安心するように頷いた。
「地下への救出は?」
「最初は基地の隊員で行われました」
「エレベーター類は完全に停止して動かなかったため、ボールド山の西側にあるポイント3の非常階段を利用して侵入したのですが……」
報告者は、モニタに静止画を映し出した。
「……なんだ、これは? ハリウッドの新作か何かか?」
そこには、青みがかった肌をした、恐ろしい顔の人型の何かが映っていた。
「身長は10フィート以上あります。突入した部隊が、最初に出会った生命体です」
もしもそれがファンタジー映画だったら、きっとトロルやオーガと呼ばれていたに違いない。
「反射的に発砲した先頭の二名が犠牲になりました。GAU-5A ASDWでは豆鉄砲のようなもので、M855A1弾は、まるで効果がなかったそうです」
「彼らは、フォボスとダイモスの間で瞬間移動装置の実験でも行っていたのか?」
唖然とした男は、若かりし頃夢中で遊んでいたゲームの設定を思わず口走ったが、すぐに首を振って、今できるいくつかのことを指示した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その有機体は、確かになにかの知的活動を行っているようだった。
微弱で複雑な電流を絶えず発生させていた器官は、
刹那と永遠の
この日、ネバダのグルーム・レイクの地下百五十メートルに、後にザ・リングと呼ばれるようになる最初のダンジョンが誕生した。
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