若き少年の苦悩
@Hachitarou323
序章
少年は目覚まし時計のけたたましい音に誘われ深い眠りから目を覚ました。意識は未だ朦朧としており、昨晩見た夢が断片的に頭に思い起こされた。必死に眠気と闘いながら大きく欠伸をし、鳴り響く時計を止めギシギシと軋むベッドの上からゆっくりと身を起こすと、目一杯両腕を振り上げ上半身を伸ばす。辺りはすっかりと夜が明けたらしく、左へ振り向けば薔薇をモチーフにした朱色のカーテンがほんのりと輝いていた。その端をひっつかみ、シャッと勢いよく左右に開くとまばゆい陽光が部屋中に照らし出され、少年は思わず目を細めて唸り声を上げた。毛やほこりが宙を舞って輝いている。少年が暮らすこの小さな住居は首都部から少しばかり離れたところにある。人気の少ない閑散とした最寄駅から商店街を抜け、誰が利用しているとも分からない、ブランコが1つばかり置いてある公園の裏にそれはある。最も、彼の部屋はこの格安アパートの2階の1角でしかないが。4畳ばかりの狭苦しいその少年の部屋は一人暮らしの大学生の身としては至って清潔に保たれており、部屋にあるのはぎっしりと本が並べられた木製の本棚、そして縦横3寸ほどの勉強机と椅子のみである。少年はさびれた公園の噴水に視線を向け、上の方へと見やった。天には雲一つ無い晴れ晴れとした青空が果てしなく広がっていた。(今日も良い天気だ....。)少年はのどかな朝のひと時を一秒一秒味わうようにして、柔和な笑みを浮かべながら佇んでいた。だが突然として、彼の安穏な朝は終わりを告げた。少年の脳裏に何の前触れもなく、全く関係のないものが浮かび上がってきたのだ。彼の表情は次第に曇り始めた。それは誰にも話しかけられることもなく、ただただ一人で黙々と講義室で休憩時間を過ごす見覚えのある光景だった...。突如違和感が彼の全身を駆け巡り、それから少年は、無意識に黙念とし始めた。(君は、あんな嘘偽りであふれた友情を欲するのか?そんなわけがない。あんな欺瞞に満ちた関係、うらやましくとも何ともないはずだ。そもそもあれは利害関係で成り立っているようなものではないか。ひとたまそれが崩れれば、まるで今までのことなど無かったかのように赤の他人のごとく振る舞う。そういうものではないか...。)無抵抗に風に煽られるか細い枝の上で、小刻みに首を振りながら獲物を探すカラスをぼんやりと眺めつつ思索にふけること数分、ちらっと時計を一瞥すると時刻はすでに7時ちょっとだった。このまま何もせずに呆けていると遅刻するのは必然である。少年は事の重大性に気付き、すぐさま着替え始めて大学へ行く準備をし始めた。違和感の正体はまた後でゆっくり考えよう...。と、彼はそう念頭に置きながら部屋を出た。
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