手のひらの宝石箱
青桐美幸
三題噺
【恋愛】「妖精」「図書館」「砂時計」
幼い頃、眠りにつくまで母によくお伽話を読んでもらった。
特に好きだったのは、妖精の女の子が出てくる話だ。
主人公の少年が、ひょんなことから弱っていた妖精を助け、元気になるまで共に過ごすというシンプルなあらすじだった。
言葉を介さない二人の交流がとても温かで、表情や動きから懸命に彼女の意思を読み取ろうとする少年が一途で、気づけば自分もその物語に入り込んで妖精の一挙手一投足に注目したものだ。
彼女は今、何を伝えようとしているのか。それに何と答えたら、花が咲くような笑みを見せてくれるのだろう。
その可愛い笑顔を自分に向けてもらうために、一体何ができるのか。
そう、それは今まさに隣に座っている少女のような──。
「こら」
軽い叱責と同時に、人差し指で頬をつつかれた。
我に返ると、呆れたような眼差しとぶつかる。
「何ぼーっとしてるの。時間計って問題解きたいって言ったのは誰?」
全部落ちちゃったよ、と側に置いていた砂時計を持ち上げる。
十分ごとに引っくり返す仕様になっているそれは、以前遠出した先で、彼女が気に入って購入したものだ。
今時砂時計なんて珍しいものをほしがるなと思っていたが、まさかこんなに役に立つとは想像していなかった。
「集中したいからって、わざわざ図書館にまで来たのに」
「ごめん。真面目にやる」
あまり大きな声で話せないため、普段より顔を近づけてボリュームを絞る。
それはつまり相手の感情の変化も悟りやすくなるということで、今何を思っているのか聞かなくとも容易に理解することができた。
まだ疑わしそうな様子の彼女を見て、とっておきの一言を告げる。
「同じ大学行きたいからさ」
耳元で小さく呟くと、ぱっと瞳が輝いた。
それは、幼い頃にほんのり好意を持った、あのお伽話の妖精のような可憐な笑みで。
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