転生のお時間です〜転生局人型課第三係業務執行録〜

とおりすがり

第1話 前編 どこかで見た始まりと思惑

「三河行人(みかわゆきひと)さん、貴方はお亡くなりになりました。」


 男の声と共に俺――三河行人は目を開けた。

 目に入るのは神殿のような風景。

 いまだぼんやりした意識の中、「なんか昨日の世界史の授業でみたことあるかなー」などと考える。


「貴方には、まず転生か消滅のどちらかを選んでいただくことになります。」


 再び聞こえる男の声。

 先ほどの発言の内容を理解し始める。

 …ちょっと待ってほしい。


「転生を選ばれた場合は…」

「ちょっと待て!」

「はい、質問ですか?」


 先ほどから俺に話しかける男を見る。

 神殿の神様の像がありそうな場所に立ち硬い表情でこちらを見る男。

 男は俺の質問を待つかのようにじっと俺を見つめている。


「今なんて言った?」

「転生を選ばれた場合は…」

「その前だよ!」


 思わず声を荒げる。

 男の言ったことが理解できない。したくない。


「三河行人さん、貴方はお亡くなりになりました。

 貴方には、まず転生か消滅のどちらかを選んでいただくことになります。」


 ……俺が死んだ?

 甲子園に出場し、新聞記事にも載って、プロとしても通用するとまで言われた俺が?


 男がふざけている様子はない。

 男は俺の目をじっと見つめ、表情は変わらないものの優しく語り掛けるように言葉を重ねる。


「突然のことに驚かれるのも無理はありません。

 しかし貴方の人生が終わってしまったことは確かな事実。

 私は貴方のこれから先の道を指し示すものです。」


 落ち着け。落ち着こう。

 落ち着くために男を観察する。

 男はファンタジー作品に出るいかにも「神様」な服装をしていて、年は…俺より少し上くらいか。


 少し冷静になった俺は周囲を確認する。

 一見して神聖な感じがする見覚えのない場所。

 よく見ればこの神殿は雲の中に浮かぶように存在している。


 改めて男を見る。

 真剣な目でこちらを見つめる神様のような男。

 その目は俺が死んだという事実が真実であるということを告げていた。


 ……この男の言うことはどうやらマジらしい。


「これから先の道ってのは、さっきの転生か消滅か、ってやつか……ですか」

「はい。私に敬語は不要ですよ」


 つい先ほどこの神様(?)に声を荒げたことを思い出し、今更取り繕っても無駄かと思い直す。


 転生か消滅か。

 そんなのは考えるまでもない。


「俺は転生を選ぶ」

「わかりました」


 そういうと男は初めて俺から目をそらし、何かに合図するかのように背後を見る。

 すると、神殿の奥から地味な女が現れる。

 服こそ男のものと似たようなものではあるが……似合ってねえ……。

 いかにもな天使の翼が生えているが、正直素人のコスプレ感しかしない。


 女から何かを受け取った男は改めて俺の方を向き、丁寧に数枚の紙のようなものを差し出す。


「では次に、これらの中から転生される世界をお選びいただきます」

「元居た世界ってのはだめなのか?」

「不可能です。1つの魂が連続して同じ世界に生まれ落ちることはできません」


 男の示す紙を見る。

 そこには【世界座標】【文明指標】【主要技術】……などの項目が並んでいる。


「【世界座標】ってなんだよ?」

「【世界座標】は簡単に言えば数ある世界に割り当てられた識別符号です。

 あなたの元居た世界であれば【世界座標:ah4i;97agaisgw8】となります」


「【文明指標】ってのは?」

「【文明指標】はその世界の平均的な文明の発展レベルを示すものです。

 例えば【文明指標:12】であれば、あなたの元居た世界でいうところの中世ヨーロッパ程です」


「【主要技術】ってのは……」

「その世界で一般的に使われている技術です。

 具体例としては、魔法、あるいは科学などがあります」


「次の項についても説明させていただきます……」


 俺は男の説明を受けながら、あることを思い出していた。

 転生というワード。同じクラスのオタク共が教室の隅でしゃべっていたこと。


 それによれば、こうして神様が出張るのは神様側に何らかのミスがあったということ。

 そのミスの帳消しの代わりにチートが与えられること。


 ドラフト1位確実といわれた俺を間違って死なせたことは何らかのミスだったのだろう。

 だからさっきから神様でさえ俺にへりくだったような態度なんだろう。


 ……であれば。転生するにはそれ相応のチートが与えられるんだよな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る