【BL・童話風・ほのぼの・ショタ】恋する薬のつくりかた
【鈍感ショタ×クール眼鏡ショタ】
いつも図書館で分厚い本を読んでいるオト。彼は誰よりもたくさんの知識を持っている。
そんな彼に、ある日、友達のエリクが声をかける。
「ねえ、薬を作るのを手伝って」
夜の草原、鬱蒼とした森、ドラゴンの棲む洞窟。
二人は薬の材料を求めて小さな冒険を始める。
※全年齢向け。性的な描写はありません。
ノベルアップ+にも同じ作品を掲載しています。
https://novelup.plus/story/816319145
―――――――
オトは、今日も分厚い本を読んでいる。
虹色の実がなる植物について。青い鱗を持つ海の生物について。硬い骨を持つ陸の動物について。美しい声で鳴く鳥の声について。本にはいろいろなことが書かれている。
丸い眼鏡の奥にある瞳が、次々と文字を追いかける。
図書館には天井まで届きそうなほどたくさんの本があって、誰かに読まれるのを静かに待っている。
オトはまだ12歳になったばかりだが、もし「誰が一番たくさん本を読んでいる?」と聞かれたら、誰もがオトの名前を答えるだろう。
その図書館は、千年生きた
「ねえ、薬を作るのを手伝って」
声をかけられて、オトは黒髪をさらりと揺らしながら視線を上げる。
緊張した顔でそこに立っていたのは、友達のエリクだった。
彼はその胸に一冊の古びた本を抱きしめて、蜂蜜色の瞳でじっとオトを見つめている。よほど興奮しているのか、瞳と同色の髪が躍るように跳ね、白い頬が紅く染まっていた。
「どの薬を作るの?」
オトが尋ねると、エリクは一瞬だけパッと顔を輝かせ、それからすぐに慌てて視線を伏せた。
「そっ、それは秘密!」
「それじゃ手伝えないよ」
「だ、だって……その薬のことは誰にも知られたくないんだ」
「誰にも言わない」
「でも……」
「もしかして、僕にも知られたくない?」
そう尋ねてみると、エリクはこくりと頷いた。
彼は今にも泣きそうな顔で尋ねる。
「……あの、もしよかったら材料集めだけでも手伝ってくれないかな」
「わかった」
オトが読んでいた本を閉じると、エリクの顔が星のまたたきのように輝いた。
……★……☆……
ひとつめの材料は『星が生まれる音』。
ふたりは深夜に家を抜け出して、草原へ出かけた。
月のない夜だ。
ひとたび風が吹くと、草たちが波のようにざあっと揺れる。
夜の気配に飲み込まれないよう、二人はしっかりと手を握った。
空を見上げれば、光の線を灯して星が流れてゆく。
そうしてたくさんの星が地平の果てへ消えたあと、遥か高い場所で音が響いた。
パルッ。コリン。ムルル。
「……どうしよう。音が多過ぎて、どれを選んだらいいのかわからないよ」
エリクが困ったように夜空を見上げる。
「君の心に一番近い音を選ぶんだ」
オトが言った。
「うん、わかった」
エリクは頷いて、星に手を伸ばす。
トクン。
心臓の鼓動のような音がした。
フラスコの中には、とても温かい音が宿っていた。
……★……☆……
ふたつめの素材は『植物の記憶』。
ふたりは早朝の朝露に靴を濡らしながら、森の奥へ出かけた。
この季節、森は一年中でもっとも緑が深くなる。
目当ての植物たちは、養分を探して奔放に
何も知らずに飛んできた小鳥が蔦に捕まって引きずり込まれてゆくのが見えた。
「あそこに近付くと、きっと僕らも捕まっちゃう」
どうしたものかとエリクが頭を悩ませていると、オトが言った。
「歌を聞かせるんだ」
「歌を? 僕、歌はあまりうまくないんだけど、だいじょうぶかな?」
「楽しいことを思い浮かべて」
「うん、やってみる」
エリクはたどたどしく、ゆっくりと歌い始めた。
歌声は空気を微かに揺らし、それに気付いた植物たちが耳を傾ける。
やがて彼の声は楽しげにはずみ始める。植物はいっせいに綿毛を飛ばし始めた。
ふわりと頭上に飛んできた種を、オトがつかまえる。
ビーカーの中に入れると、それは虹色に輝いた。
……★……☆……
みっつめの素材は『ドラゴンの卵』。
ふたりは炎除けのマントを羽織い、夕方の洞窟へ出かけた。
ドラゴンは大事そうに卵を抱え、巣の中でぐっすりと眠っていた。
「よく眠っている。今のうちだ」
オトが言う。
だが、エリクは首を振った。
「無理だよ。あんなに大きい卵だなんて知らなかったんだ。僕たちの身長と同じくらいあるじゃないか。運べないよ」
「卵を割って欠片を少しだけ持ち帰るんだ」
オトがハンマーを渡そうとするが、エリクは受け取ろうとしない。
「それは……嫌だ」
「どうして」
「だって、欠片を取るってことは卵を割るってことだよね。そしたら中にいるドラゴンの子どもはどうなっちゃうの?」
「死んでしまうかもね」
「じゃあ、やっぱり帰る」
そう言ってエリクは歩き出した。
「待って、薬を作るにはドラゴンの卵が必要だよ」
「もういい」
エリクは諦めたように首を振る。
オトはちらりとドラゴンを振り返り、そしてエリクを追いかけた。
……★……☆……
図書館に戻ってきたエリクは、ずっと泣いていた。
ひざを抱えてうずくまり、誰にも会いたくないと首を振る。
蜂蜜色の髪が悲しそうに揺れ、ためいきと混ざり合う。
「薬を作って来たんだけど、いる?」
オトがそう声をかけると、エリクはようやく顔を上げた。
机の上に置かれたふたつの
「……その薬は?」
「秘密。飲んでみる?」
「えっと……」
「いらないなら持って帰るけど」
「待って! の、飲むよ!」
慌てて硝子瓶を受け取ると、蓋を空けて一気に飲み干す。
優しい陽だまりのような味がした。
その途端、頭上からぽつりぽつりと雨が降り出した。
不思議に思って見上げると、それは幻のようなものらしく床に落ちる寸前にすっと消えていった。
その様子を眺めていると、オトが言った。
「君が作ろうとしていた薬とは違うけど、これも悪くないものだよ」
「知ってたの? 僕がなんの薬を作ろうとしていたのか」
「そうだね。とっくに気付いていた」
「……そっか」
エリクは難しい顔をしてうつむくと、またひざを抱え込んだ。
心なしか、雨の降りが少し強くなったようだ。
「でも、不思議だったんだ」
ぽつりと呟いたのは、オトだった。
「え……何が?」
「だって君は、暗闇に広がる草原にも出かけたし、人を喰う食虫植物たちの森にも分け入った。それに恐ろしいドラゴンの棲む洞窟にも行ったじゃないか。薬なんかに頼らなくても、君には勇気がある」
オトがそう言った途端、エリクの上に降り注いでいた雨は小さな光の粒に変わった。
まるで星屑が降るかのように、きらきらと光っている。
エリクはそれをぼんやりと見上げた。
「……綺麗だ」
「そうだね」
エリクがにこりと笑ってみせると、光の粒は花びらへと変わった。
ひらひら、はらはらと、祝福するかのように花びらが降り続く。
オトはもうひとつの硝子瓶に手を伸ばし、その中身を飲み干した。
「うん、美味しくできた」
その言葉を合図に、彼の上にも花びらが振り始める。
「あの……この薬って、なに?」
エリクが尋ねると、オトはこともなげに答えた。
「気持ちが見えるようになる薬だよ」
「えっ? 気持ちって……。だって、
「そうだね。君と同じ気持ちだってこと」
「……えっ、あ、あの……」
「どう? まだ『勇気の出る薬』が必要?」
オトはいたずらっぽく笑う。
エリクはすくっと立ち上がり、オトを見つめた。
そして、ぐっと拳を握る。
「僕は、オトが好きだ」
「……うん。そうだと思ってた」
オトは笑う。
彼は立ち上がると、空きの硝子瓶をふたつ持って部屋を出て行こうとした。
「えっ、……ね、ねぇ、オト、ちょっと待ってよ!」
エリクも慌てて立ち上がる。
そして花びらを降らせながら、オトのあとを追いかけていった。
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