BL(やや古め)
【BL・現代日本・執着・大人の恋愛】底辺チャラ男だけど、君のこと好きになっていい?
【したたか男娼×真面目サラリーマン】
風俗店のしつこい客引きに捕まってしまった真面目そうなサラリーマン。
彼を助けたのは、風俗店の男娼だった。
しかし、その男娼はサラリーマンの財布を盗み、家まで押しかける。
「……ふうん。なんだか気に入っちゃったなあ」
嘘だらけの男娼と、真面目だがどこか不器用なサラリーマンとの出会い。
※直接的な描写はありませんが、性行為を連想させる描写が含まれています。
※風俗店の客引きは違法行為となる場合があります。
※スリは窃盗罪にあたる犯罪です。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※この物語は、特定の職業を差別するものではありません。
ノベルアップ+にも同じ作品を掲載しています。
https://novelup.plus/story/743848866
―――――――
……なんか、面白そうな人がいるなあ。
最初はそんな感想だったわけ。
だってあのリーマン、
キャッチのやつも、どう見たって脈なんかないのに必死でさ。わかる。こういう気弱な相手ほどいいカモなんだよな。まあまあ高そうなスーツ着てるしね。
店の入口から、こっそり観察する。
ふ~ん。見れば見るほど真面目そう。勤め先は、そうだなあ、証券会社とか、生命保険会社とか、あとは銀行とか? いかにも「日本経済を支えてます」って感じ。スーツは無難なダークグレー。肩幅が微妙に合ってないからオーダーメイドではないな。袖もちょっと長いし。ああ、ネクタイのセンスは最悪。誰かからもらったやつをそのままつけてる感じかな? あはは、律儀な感じするもんね。
身長は平均よりも少しだけ低め。髪は少し長くて耳にかかっているから、営業職っぽくない。営業職って高圧的な人が多いから苦手なんだよね。それはともかく。えーっと、黒縁の眼鏡が
どこか遠くで酔っ払いの叫ぶ声が聞こえてきて、リーマンがびくりと肩をすくめる。そろそろ潮時かな。もう充分観察できたしね。
俺はつかつかと歩み寄り、キャッチの肩をつかんだ。
「お~い、そのへんにしとけって。しつこい呼び込みはダメって店長から言われてるっしょ?」
「あ?」
二人が同時に俺を見る。
キャッチは――っても同僚なんだけど、俺の顔を見て舌打ちして、そそくさと店の中に消えて行った。あとできっちりシめてやらなきゃな。
リーマンは呆然とそれを見送っていた。
今のうちにとっとと逃げればいいものを。まあ、そんな隙は与えないけどね。
「お兄さん、うちのやつが迷惑かけてゴメンね?」
そう言ってにこっと笑ってやれば、相手はおずおずと頷いた。
「いえ……大丈夫です」
いやいやいやw ちっとも大丈夫じゃなかったでしょwww
ずっと捕まってて、自力じゃ抜け出せなかったじゃない。
腹の底で大笑いしながら、顔では人好きのする微笑みをキープする。
「お兄さんってすごく優しそうだから、きっと気に入られちゃったんだね。俺らも
「……そ、そうですか」
リーマンはあまりわかってなさそうな顔で頷いた。もしかして、ここが
それにしてもこの人、せっかくさっきの鬱陶しいキャッチから解放されて逃げるチャンスだってのに、まだ律儀に俺と話してる。
仕方ない。ここは俺のほうから切り上げることにしよう。
「それじゃあ、俺そろそろ店に戻るね~。気をつけて帰ってね」
大サービスでにこにこと手も振ってみせる。
「はっ、はい」
リーマンはほっとした顔になって、ぺこぺことお辞儀をしながら繁華街の向こうへと消えてゆく。
最後まで面白い人だったなぁ。
年季の入った革製の黒い財布を手にしながら、そんなことを思う。もちろんさっきの会話の途中でポケットから抜かせてもらったものだけど、どうやらあの人は財布をスられたことにも気づいていないみたいだ。
彼の姿が見えなくなるまで、俺はずっと店の前に立っていた。
◆ ◆ ◆
店が終わるのは深夜0時。
掃除と片付けをしてその日の営業はお
自宅に帰った俺は、
「おーっ。免許みっけ!」
いきなりいいものが出てきてテンションが上がる。今日はラッキーだ。
須藤誠治。平成□年2月13日生まれ。東京都〇〇区在住。ゴールド免許。ふうん。
写真には、夜の街には似つかわしくないあの真面目そうな顔が収まっていた。ははっ、写真写り悪いなあ。
でも、いくら見つめても、それ以上のことはわからなかった。
免許証なんていかにも個人情報の集まりですって顔してるくせに、そこに書かれているのはどれも表面上のことばかり。俺の知りたいことなんてひとつもない。
だから、俺はシャワーを浴びて仮眠を取り、午前7時にはまた靴を履いて家を出た。
◆ ◆ ◆
「やっほ。遊びに来ちゃったw」
インターフォン越しにひらひらと手を振ってみせる。
中からどたんばたんとすごい音がして、玄関の扉が勢いよく開いた。
「き、昨日の……! ど、どうしてここが!?」
まるでストーカーでも見るかのような目つき。
まあ、だいたい合ってるんだけどね。
「ひどいなあ。お兄さんが財布を落としたから、こうして届けに来たんじゃないすか」
餌のように目の前で財布を見せると、相手は面白いほど食いついた。
「あっ、……おっ、俺の財布!」
真面目そうな彼のことだ。
財布を失くしたと気付いた直後から、きっと顔を青くして必死に探し回っていたのだろう。目の下にはクマが浮かんでる。
「きっとあいつに絡まれたときに落としたんだね。ごめんね、もっと早く届けられたら良かったんだけど。終電行っちゃったあとだったしさ。あっ、それと、持ち主がわかるかもと思って中を見ちゃった。でも免許だけだから」
すらすらとそんな嘘を並べる。まあ、そんなことは日常茶飯事。
本当はね、隅から隅までじっくりと見ましたとも。現金が少ないから給料日は月末なのかなとか、ここのレンタルショップでどんなAVを借りるのかな~とか、財布の中に避妊具は入れないタイプなんだね、そもそも彼女がいないのかな? とか。
なんなら免許は写真を撮らせてもらったよ。
「ど、どうも……」
彼が財布を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、俺はそれをひょいと高く掲げた。
これにはさすがに大人しそうなリーマンも怒った。
「おい!?」
睨みつけられるのも気にせず、俺はにやりと口角を上げる。
「お兄さん、お礼は?」
「……え?」
「わざわざ出張サービスしに来てるんだから、それなりの『お礼』が欲しいなあ。なんだったら体で払ってくれてもいいよ? なんちゃってw」
ふざけてそう言ったら、じとりと睨まれた。
いいね、その目つき。たまらない。
「きみ、男娼なんだろう」
慣れっ子だ。
こういうときはわざとらしいまでに明るく返す。「何も気にしていませんよ」という顔で。
「あれれ、なんで知ってるのかなぁ~?」
「店の前で落としたんじゃないかと思って店名を調べたんだ。そしたら店の説明とか出てきたから……」
「ふうん。それで興味持っちゃった感じ?」
「ち、違う!」
「あそ。まあ、どうでもいいんだけどね」
あくまでも興味無さそうに相槌を打つ。
夜の街はネオンでキラキラ飾っているけど、太陽の下で見ると汚ればかりが目立つ。俺らはドブネズミやゴキブリ、そして諦観なんかと同居しているようなもんだ。
体中には『底辺』と書かれたレッテルがべたべた張りついてる。店の客から貼られたものもあるし、自分で張りつけたものもある。
どれも
この人もまた、俺にレッテルを貼るのだろうか。
こんな優しそうな顔をして、どんなレッテルを貼るんだろう。「くだらない」? 「取るに足らない」? それとも「社会のゴミ」かな?
そんなことを思ったら、いまさら少し恐くなった。
「……それで? もしかして職業差別しちゃうタイプ? 男娼みたいな『底辺』に感謝する必要ないとか思ってる?」
へらへら笑いながら、そう尋ねる。
たいしたことじゃない。こんなことくらいじゃ傷つかない。
泣くようなことじゃない。落ち込むようなことじゃない。わざわざ死ぬようなことでもない。
繰り返し、自分自身にそう言い聞かせながら。
リーマンはあたふたと言い訳をした。
「いやっ……そういうつもりじゃなかったんだ」
じゃあ、なんで。
俺が男娼だとか、そんなことはどうでもいいはずだろ。
「お兄さんさあ、財布なくして困ってたんじゃないの? 本来なら、
言ってしまってから、後悔した。
柄にもなく説教くさくなってしまった。それに、相手も驚いて固まっている。
あ~あ。これは嫌われたかもしれない。
うん、きっとそうだ。
「…………」
無言のリーマンに、俺はわざと明るい表情を作ってみせた。
「な~んてね。冗談だよ、冗談!」
「えっ……」
「お兄さんがあんまり無防備だからさぁ、ちょっとからかっちゃった」
呆然としたまま突っ立ってるリーマンの手に、いかにも親切そうな顔をして財布を持たせる。
「ほらね? こういう面倒くさいことになるから、もう財布を落としちゃダメだよ?」
最後にきっちり「心配してるんだよ」という気持ちをチラつかせる。
もちろん、そんなことは微塵も思ってないし、そもそもこの人から財布をスったのは俺だし。
「わ、わかった」
「じゃあ、またね~」
あくまでも
この出会いはもうここまで。スマホで撮った免許証の写真も削除する。
そのつもりだったのに、呼び止められた。
「ま、待って」
「な~に? まだなんかある?」
振り返れば、呟くような声が聞こえた。
「……りがとう」
「ん? ごめん、よく聞こえなかった」
「届けてくれてありがとう、って言ったんだ!」
怒鳴り声が辺りに響く。
ちょっと、近所迷惑じゃないですかね。
でも、嬉しくなってにんまり。
「あはは。よく言えました。えらいえらい」
「……あのっ、やっぱり、きちんとお礼を……! あっ、その、体とかは……ダメだけど……そ、そうだ、拾った人には一割渡さないと」
そう言って今受け取ったばかりの財布から慌ててお金を出そうとする。
俺はそれをビシッと手で制した。
「いらな~い」
「えっ、でも……」
「じゃあさ、お金はいいからひとつだけ俺のお願い聞いて」
「お願い?」
「今度うちの店に遊びに来てよ」
「え、俺は……あの……そういう趣味は……」
「指名してくれるだけで、何もしなくていいんだけどなあ」
そんな会話をしながら、じっくりと相手を観察する。
……ふうん。なんだか気に入っちゃったなあ。
お兄さんはどんなタイプが好みなのかな。
尽くすタイプ? わがまま甘え上手? 元気な子? それともおっとり系? 意外と、頼られるのが好きかもね。
「実はさあ、今月ピンチなんだわ。お得意のお客さんが風邪ひいて来られなくて、売上の順位がガタ落ちしそうでね。お兄さんが指名してくれると助かるな~、なんて。あ、なんなら利用料は俺が持つし、今ここで渡しておこうか?」
なんて、すらすらと嘘を並べる。
ポケットから自分の財布を取り出すふりをすれば、相手はますます慌てる。
「ま、待って! どうしてきみが僕の財布を届けてくれたうえに金まで払わなきゃいけないんだ! ……わかったよ、行くよ」
お兄さんは根負けした様子でしぶしぶ頷いてくれた。
「やった、ありがとう! もちろん、その気になったら普通に利用してくれてもいいよ?」
目の前で左手の親指と人差し指で輪っかを作り、そこに右手の人差し指を入れてみせる。相手の顔がみるみる赤くなった。
「……だっ、だから、そういうのはっ……!」
ふぅん? これは押したらいけるかな?
「じゃあ約束ね! 待ってるから」
嬉しくなって、満面の笑みを浮かべる。
もちろん演技なんかじゃない。
さあて、どうやって染めてやろうか。
男同士も悪くないものだって、じっくり教えたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます