第46話 待ち時間をどう過ごす?:久留里線全駅乗下車・実戦篇その一:久留里線全駅乗下車・三

 『鉄子の旅』の連載漫画、その第一話の初出が二〇〇一年、アニメの放映が二〇〇七年夏、そして、現在は二〇二二年、すなわち、漫画から二十一年、アニメから十五年の時間が隔たっており、その間に、千葉の久留里線において、ダイヤの改正があったのは当然だ。


 すなわち、漫画やアニメの「第一旅」では、その移動経路こそ書かれてはいるものの、その細かな列車の発着時刻までは分からない。

 しかし、漫画版『鉄子の旅』の単行本の巻末には、それぞれの〈鉄〉の旅で、ヨコミさんとキクチさんが乗った列車と、その発着時刻が記載されているので、単行本巻末の付録データは、『鉄子の旅』の〈舞台追跡〉の大いなる助けになる。


 とまれかくまれ、隠井は、「休日おでかけパス」を片手に、東京都内から、総武線と総武線・内房線を利用して、脳内の作中人物たちと九時に待ち合わせをしている木更津に移動したのであった。


 『鉄子の旅』アニメ放映・十五周年記念として、第一話の初回放映〈曜日〉に合わせて、第一旅の題材である久留里線の全駅乗下車を自主企画した時には、時期的に、それが梅雨の最中の六月末ということもあり、隠井は、雨を心配していた。

 だが、実際、二〇二二年に関しては、六月の最終金曜日の夕方に、記録的な、平年よりも三週間も早い梅雨明けの予想が出された。

 そして、久留里乗下車企画の当日は、その予想に違うことなく、六月では観測史上稀な〈猛暑日〉という、隠井のそもそもの懸念とは全く異なる、過酷な状況下に置かれることになってしまった。

 とはいえども、単行本の巻末データによると、漫画版の取材日は、二〇〇一年七月二十九日・日曜日だったそうなので、梅雨明け直後の酷暑の中の行動だと考えれば、物語に近い条件下で、作中人物の状況に近い行動ができる、と言えるかもしれない。


 さて、以下は、物語におけるヨコミさん達の移動スケジュールで、駅名とその脇が発着時刻、そして、その駅での待ち時間、丸括弧の中が隠井の発着時刻で、〈〉が隠井の待ち時間である。


 01:木更津913~上総清川921;二十分待(916-924)〈二十分〉

 02:上総清川941~祇園945 ;二十五分待(944-947)〈一時間半〉

 03:祇園1010~横田1022;五十二分待(1117-1130)〈二分〉

 04:横田1114~東清川1119;四十三分待(1132-1136)〈三十八分〉

 05:東清川1202~馬来田1216;三十四分待(1214-1234)〈三十七分〉

 06:馬来田1250~東横田1255;八分待(1311-1315)〈十分〉

 07:東横田1303~小櫃1316;二十二分待(1325-1337)〈二十三分〉

 08:小櫃1338~下郡1342;三十分待(1400-1404)〈二十六分〉

 09:下郡1412~久留里1421;一時間六分(1430-1444)〈九分〉

 10:久留里1527~俵田1532 ;四十二分待(1453-1458)〈四十分〉

 11:俵田1614~上総松丘1633;三十二分待

 (俵田1538〜久留里1544;久留里1639〜上総松丘1650)

 *〈久留里の乗り継ぎで五十五分待、久留里では計一時間四分待ち;上総松丘で十七分〉

 12:上総松丘1702~平山1708 ;十三分待 (1715-1726)〈二十一分〉

 13:平山1721~上総亀山1734 ;十八分待(1747-1759)〈十五分〉

 14:上総亀山1752~木更津1859 (1814-1929;*久留里で乗り継ぎ)


 物語の中で、ヨコミさん、イシカワさん、キクチさんの三人が、駅で三十分以上待つのは、ヨコミさんのセリフによって、久留里で一時間、俵田で四十分という事が分かるのだが、単行本の巻末データによって、実際に三十分以上待ったのが、横田、東清川、馬来田、下郡、久留里、俵田、上総松丘の七駅、すなわち、久留里線の全十四駅のうち半分の七駅に及んでいた事が分かる。

 これに対して、隠井が、結果的に三十分以上待ったのは五駅で、物語よりも二駅少なく、その内訳は、祇園、東清川、馬来田、久留里、俵田で、二〇〇一年の漫画と、二〇二二年の隠井の舞台追跡で共通しているのは、東清川、馬来田、久留里、俵田である。ちなみに、下郡は〈二十六分待ち〉なので、これを含めて、二〇〇一年との共通を五駅と考えても差し支えはないかもしれない。


 さて、このようにまとめてみると、待ち時間が長い駅に関して大きく違っているのは、漫画・アニメの「横田駅」と、舞台追跡の〈祇園駅〉であることが分かる。


 物語では、横田駅で「五十二分」待っているのだが、二〇二二年では、乗り換え〈二分〉で、別のホームに入ってきた木更津行きの列車に急ぎ乗ることになった。

 『鉄子の旅』では、もはや現在では失われてしまった「タブレット交換の見学」や、駅長室で「タブレットの機械を見る」機会が得られた事が描かれているのだが、このように、横田駅でのタブレット交換の場面を細かく描くことができたのも、二〇〇一年当時の横田駅での待ち時間が「五十二分」もあったので、その結果として、このシーンは、必然的に生まれたのかもしれない。


 これに対して、二〇〇一年当時の「二十五分」と違って、二〇二二年現在においては、隠井は、祇園駅で〈一時間半〉待たねばならなくなった。

 祇園駅とは、木更津の次の駅、久留里線全駅の序盤の序盤である。

 スケジュールを作っている時に、この祇園駅での一時間半待ちをどうにかできないものか、と頭を捻ってみたのだが、全駅乗車下車を、『鉄子の旅』と同じようにやってみよう、という記念企画である関係上、スケジュール的に祇園駅の一時間半待ちは避けては通れない、まさしく〈通過儀礼〉なのだ。

 アニメと同じ、祇園駅の「かわいい」駅舎を、様々な角度から写真に収めても、乗り換えまでに時間は未だ未だ一時間以上もある。

 そこで、隠井は、こんな試みをしてみることにした。


 二〇〇七年六月末に、『鉄子の旅』の「第一旅 久留里線全駅下車」が放映されたのは、六月二十四日・日曜日の朝の十時から十時半であった。

 そこで、隠井は、長い、長過ぎる、この待ち時間を利用して、自分以外に人っ子一人いない祇園駅で、アニメの放映時間にピタリ合わせて、持参した端末で『鉄子の旅』の「第一旅」のシンクロ視聴をしてみたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る