第43話 アナがあったから入りたい

 黄金期間を含んだ五月の初め、スマートフォンにインストールした日本航空(JAL)の〈ウォーキング・アプリ〉を一週間ほど使ってみたところ、普通に生活しているだけで、「デイリー・チャレンジ」として提供されている、最初のステップの六千歩も、第二段階の八千歩も、そして最終段階の一万歩も難なくクリアできてしまった。

 そこで隠井が思ったのは、JAL以外の例えば、JRなどで、類似のウォーキング・アプリがないかどうか、という事である。

 そしてネットで調べてみたところ、残念ながら、JRが提供している、例えば、JREポイントやSuicaのポイントが貯まるようなアプリは存在しなかったのだが、全日空(ANA)が提供している〈移動〉系のアプリを見付けることができた。


 隠井は、フライトやショッピングで得られるマイル・ポイントを一点集中させるために、これまでは、全日空ではなく、主として日本航空を利用してきた。両方の航空会社を使っていたのでは、貯めるべきポイントが散ってしまい、マイル獲得の効率が悪いからである。

 しかし、だ。

 〈ウォーキング・アプリ〉の場合、JALのアプリとANAのアプリを同時に使用しても、マイル・ポイントが分散される事はない。つまり、歩いた分だけ、両方のアプリにポイントが加算されてゆくのだ。


 ANAの方の移動系アプリの名称は、『ANA Pocket(エイエヌエーポケット)』で、「歩いて乗って いつもの移動でポイントが貯まる!」をキャッチコピーにしている。

 ざっと説明を読んでみたところ、類似アプリである『JALウェルネス』との大きな違いが何点か認められた。

 一点目は、JALが二ヶ月のお試し期間の後、月額五五〇円(税込)の完全課金制であるのに対して、ANAは無料版も存在している。ただし、無料版では、フライト・マイルは手に入らない。また、同じ移動距離に関して、無料版と有料版ではポイントの獲得率が異なっている。

 そして二点目の違いは、JALが、健康アプリの万歩計と連動した〈ウォーキング・アプリ〉であるのに対して、ANAの方は、徒歩だけではなく、自転車、自動車、電車、飛行機など、徒歩以外の交通手段を利用した移動もポイントの対象になり、位置や距離の測定が〈GPS〉と連動している、という点であった。

 そして三点目は、JALの場合、一日の上限が徒歩・一万歩で、この歩数で、三マイルと三枚のガチャ券が与えられるのに対して、ANAの場合は、ポイント制になっていて、一日の上限がない代わりに、三十日間で獲得・保有できるポイントの上限が十万ポイントとなっている。しかしながら、徒歩の一キロの移動で得られるポイントが五十ポイントなので、徒歩のみで〈十万〉ポイントを得るには、二千キロも歩かねばならない。これは、そう簡単には達成できるような数値ではないので、ANAにおける上限は、さほど意識する必要はないようだ。


 JALのデイリー・チャレンジの一万歩は難なくクリアできているので、実は、ポイントに加算されない一万歩以上の歩数が〈もったいない〉ように思えていた。また、隠井は、徒歩以外に、列車や夜行バス、飛行機での移動も頻繁にしているので、歩き以外の交通手段の移動距離もポイント加算の対象になるANAのアプリに非常なる興味を覚えた。

 さらに、ANAのアプリには、様々なタイプのミッションがあって、例えば、その日に自動車で何キロ移動したら○○ポイント、どこどこの場所でチェックインをしたら○○ポイントがゲットのような、位置ゲームのような要素も備わっている。


 ざっくりとした印象なのだが、同じ移動系のアプリでも、JALは〈健康アプリ〉、ANAは〈位置ゲーム〉に近いように思われる。

 とまれかくまれ、隠井は、さっそくANAのアプリをインストールしてみた。


 ANAポケットには三つのプランがあって、一つが『ポケット・ライト』、もう一つが『ポケット』、そして最後の一つが『ポケット・プロ』で、最初の二つが無料で、プロだけが有料である。三つの違いは、ポイントの獲得率だけではなく、ポイントを利用して引けるガチャの種類が違っている分けなのだが、隠井が欲している特典航空券との交換が可能な「マイル」が得られるのは、三つの中で『プロ』だけなので、ポイント獲得率という点に加えて、「マイル」ガチャを引くためにも、隠井は、月額五五〇円(税込)の『プロ』に加入することにしたのであった。


 再確認になるが、ANAポケットはポイント制で、日々の移動ポイントとミッションのクリアポイントが計上されてゆく。そして、五百ポイントで一回のガチャが引ける仕組みになっている。

 ガチャには三種類あって、一つがクーポンなどの様々なプレゼントのガチャ、もう一つが「スカイ・コイン」というANAの電子マネーのガチャ、そしてもう一つが、「マイル」のガチャで、どれも一回のガチャで消費するポイントは五〇〇である。

 すでに言及したように、一ヶ月の獲得・保有ポイントの上限は十万ポイントなので、一ヶ月で最大二百回のガチャが引ける分けだ。


 さてここからが非常に気になる点で、JALウェルネスでは、一日一万歩を一ヶ月コンプリートした結果、獲得できたマイル数は〈五一三〉マイルであった。

 ANAポケットは、黄金週間が明けてから始めたので稼働日が一週間短く、単純比較はできないのだが、五月の終わりまでに、貯まったポイントのうち五万ポイントを利用して〈百回〉のガチャを回した結果、獲得できたのは〈四六四〉マイルであった。

 ということは、上限の十万マイルで二百回ガチャを引けば、ANAポケットでは、九百~千マイルの獲得も夢ではないであろう。


 ANAのアプリは一万歩以上の歩数や、徒歩以外の交通手段もポイントに換算できるので、日々移動しまくる自分のようなタイプには打ってつけのアプリであるように隠井には思われた。


 ただ一点だけ難点をあげると、ANAポケは、GPSと連動のアプリなので、自分の移動経路が交通手段別にグラフ化され、さらに、マップ機能を参照すると、自分の移動経路も確認できてしまう。

 これは、日々の移動の自動記録という点では非常に面白いのだが、自分の移動経路が全て機械的に記録されてしまう事には、幾許かの怖さを覚えないわけではない。

 

〈参考資料〉

〈WEB〉

「ANA Pocket」、二〇二二年六月五日閲覧。

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