映画サバV プロローグ

@oshiuti

第1話 魔法の夜

ルフトゥーン


それは悪徳の街にして背徳の都



ソドムとゴモラに比類する、悪の栄える街である。



この街は、三つのマフィアによって仕切られ、政府ですら手を出せないほどの混沌にいる。



狂乱と悪の栄える日々が続くこの街に


また一つ、混沌の種がもたらされようとしていた。




その混沌の使者は




おとぎ話の中から・・・・・











深夜の暗い街角。この街ではいつもの通り、娼婦たちが客を寄せて、仕事に入る。

どの勢力にも属さず、夜を売るランは、いつものように街角に立っていた。

ざわざわとうごめく街の喧騒と時折響く嬌声と怒号。

この街はいつものよう騒がしい。

いつもはここに二人で立つのだが、相方のリォルは姿を見せない。

先に客をひっかけたのだろうか。自分が出遅れたような気分になる。


足元に落とした煙草の吸殻が、四本目になるところで、一人の男が彼女に声をかけた。

「こんばんは」

短い髪のアジア系の男だ。グレーのパーカーにジーンズ。金があるようには見えないが、今夜の一つ目の仕事ならこの辺でいいだろう。

緊張しているのか、それとも軍人上がりか。この街の人間にしては、背筋が伸びている。

まぁ、それはランには関係のないことだ。

「二人なら800.一人なら400ルドル・・・今日は一人だけど、でもそれ以上は下げれないよ。特殊なことをお望みなら割り増し。」

彼女の提示した値段は、そこらの娼館よりは高い。

「じゃあそれで。場所はこちらから指定しても?」

が、男はあっさりと彼女の値段を了承した。

「・・・いいの?」

「ああ。君がいい」

すこしぎこちなく笑う男に、今日の最初はこの男にすることにした。

「ええ。変なところに連れて行かないでね」

煙草をしまうように見せかけて、ハンドバッグの中の拳銃に手をかける。

この街では、これくらいの用心は必要だ。

「いいところさ、多分。」

カバンの中に入れていつ手を不振がることもせず、男はタクシーを止め、ホテルの名前を告げる。

それなりの高級ホテルの名前で、そこを縄張りとする勢力には話をつけている。

「・・・・結構持ってんの?」

客の見立てを誤ったか、と考えた。もう少しふっかけておけばよかった。

「そんなに。見栄っ張りなのさ」

どこか自嘲気味に笑う男に、警戒は崩さないながらも、少しだけ安心した。

タクシーはゆっくり動き出し、夜の街を駆け抜けた。

窓の外を流れる夜景は、過去の戦争の爪痕などなく、毒々しいネオンを輝かせていく。

カバンの中の拳銃のグリップを強く握り、ランは背筋に力を入れた

タクシーがホテルの前につき、男が代金を払って、ホテルのフロントに入った。

「部屋は取ってる。ついてきて」

男の声は優しく、ランはあたりの客だと思った。

こういうタイプは、ド変態なプレイを要求するか、普通に終わるかのどちらかだ。

少なくとも、急に殴られたり、そうゆうことはないだろう。

「ありがとう。あなた、いい人ね」

ハンドバックに入れた拳銃に込めた力が少し抜ける。

「そうでもないさ」

ロビーに来たエレベーターに乗りこむ。

男は迷うことなく、このホテルのロイヤルスイートの階を押す。

基本的に高いホテルだが、ここまでの部屋となるとランは入ったことがない。

「え、嘘?この部屋なの?」

思わず声が漏れた。もう少しふっかっけておけば、男は出したんじゃないだろうか

「ああ。入って。」

男がドアを開け、ランが中に入る。豪奢なシャンデリア、革張りの大きなソファー、

天蓋付きのベッド、上からラ見下ろす街の夜景。

そして、部屋の真ん中には、二人の男がいた。

「・・・え?」

一人は黒い軍服で、一人は緑色。同じマークをつけた二人だ。

「お連れしました」

「ご苦労。下がっていい」

ランを買った男が、冷たい口調で言い放ち、黒服の男が答えた

「ひぃっ!」

黒服の男の足元には、何着もの安いドレスが、赤黒い液体にまみれて広がっていた。

「な、なに、こ、これ!?」

ハンドバッグから銃を取り出そうとするが、体が動かない。

「ホームレスでもよかったのでは?」

「娼婦の方が意外と足がつかないものだよ。まあ、実際誰でもいいのではあるが」

異常な光景だった。この街では殺人なぞ日常茶飯事で、死体など見慣れている。

だが、「これ」は異質にもほどがある。

「えっ、ひっ、こ、これっ!!」

赤黒い液体の中に沈んでいるドレスのなかに、相方のリオルのものを見つけた。

彼女のつけていたアクセサリーや、携帯電話、ハンドバッグもそこに転がっている

「さ、始めよう。加減が難しいがね」

「わかりました」

ランは後ろ手で組み伏せられる。バッグから銃を取り出す暇もない。

「やっやめ!」

ビシャリ、と音がして、赤黒い液体の中に押し倒される。

口に入った液体は、血と、焦げた肉の味がした。

「やっ!がっ!」

叫び声を上げようとした瞬間、喉を思い切り蹴られた。

収縮したのどが、叫び声すら上げれずに酸素を求める。

「jawsoijfsjvpwajvopsjfposjvfjspwspo」

黒服の男が、わけのわからない言葉を紡ぎだす。

それと同時に、ランに激痛が走った。

「ひっぃ!?」

全身の骨が焼けるように熱い。いや、これは、焼けているのではなく、

溶けて、とけ、とける

と、


そのまま、ランの意識は消え、彼女の相方と同じように、赤黒い液体へと変容した。



「なるほどなるほど。しかし、すごいな、この威力は」

「よくわかりませんが、なるほど。人は殺せるのですな」

黒服の男は、緑服の男と会話をする。

「効果範囲の狭さが問題ですな。これでは銃のほうがいい」

「まあ応用などは後々考えればいいさ。本来の目的は『彼』だしな」

そういって、黒服の男は顎をしゃくる

「伍長殿、少佐殿」

そこに、ランを買った男が、また別の男を連れて現れた。

フードつきローブを着ており、その表情はローブに覆われてみることができない。

「連れてきました」

「御苦労。軍曹」

軍曹と呼ばれたその男は、懐から銃を取り出し、縛られた男に向けている。

「さて、素晴らしいですな。これは」

「喜んでいただけたようで何よりです。少佐殿」

ローブの男が、獣の唸るような、不気味な声で答えた。

「まだこれは力の一端です。他にもまだ、お喜び頂けるものはあるかと」

「なるほど。いやはや、面白い」

そういって、少佐と呼ばれた黒服の男は、懐から、緑色に輝く宝石を取り出した。


「これが、【魔法】というやつですかな」

その言葉に、伍長と軍曹は眉をひそめた

「この世界では、そう呼ぶのでしょう」

まるでおとぎ話のような話だが、現に今、何人もの娼婦が目の前で溶けていくところを、

伍長も軍曹も見ていたのである。

「御伽噺ですな。しかし、こうなると信じざるを得ない」

「まだ色々と、お品物はございます」

と、いきなり二人の会話を遮るように、ドアが開いた

「いよぉっ少佐ぁ!」

そこに現れたのは、あろしゃシャツ姿の男

「見てたよぉ!面白そうなおもちゃ持ってんじゃねえか!」

「アンディか。そろそろだと思っていたよ」

突然の侵入者だが、軍曹と伍長は無反応である。予想していたとでもいうべきだろうか。

ただ、ローブの男は慌てた様子である。

「少佐?こ、この男性は?」

「取引相手というか、まあ、味方だよ」

「な、なるほど・・・」

「あんたがおとぎ話の人?変な声だな!まあよろしく!」

がはは、と笑いながら、アンディは溶けた娼婦たちの液体をばしゃりと踏む。

「すっげえなこれ!こんな風になるのか!」

「ああ。好みだろう?」

「もったいねえ!ヤッてから殺しゃあ良いのによ!」

アンディは、死んだ娼婦たちには興味を亡くしたように、部屋のソファーに座り込んだ

「こういう連中が一番足がつかない。それに、明日の朝のニュースはもう決まってる」

「それもそうだな!まあ、こんなフリーの女どもなんざ、死んだところでだれが探すわけでもねえ!こういう時には一番だな!」

そういって、アンディは携帯電話を取り出し、その場所を撮影し始める。

「と、とりあえず、取引の話ですが・・・」

気を取り直したように話し出すローブの男。

「その前に、もう一度確認をしよう

しかし、その言葉を少佐が遮った。

「ジェムによって開かれたこちら側に、もう訪れることはないな?」

そういって、懐にある緑の宝石を取り出した

「ええ。これ以外に、私たちの『世界』にアクセスする方法はありません」

「そぉの宝石がキーになって?『ナルニア国』から来たのか?」

二人の会話に、アンディが口をはさんだ

「彼を『召喚』したのは伍長と私だ。『ジェム』はカギになりうるよ」

少佐がジェムと呼ぶのは、どうっやら緑色の宝石のことのようだ

「仕組みをお教えするのは、コチラの感覚では非常に難しいものになりますが」

「なるほどぉ、つまりソイツがなけりゃあ、『ナルニア』にはいけねえんだな」

そういってアンディがジェムを見つめる。

「アインシュタインていたなあ。相対性理論?の偉い人」

「急にどうした、アンディ」

伍長と軍曹が、腰に手をやる。

部屋の空気が変わってきたことに気づいたようだ。

「ウチの本社には、二次大戦のころからの記録が残ってる」

ローブの男だけは、急に変わり始めた状況についていけていない。

「アインシュタインを含めて、76人、だ」

ゆっくりと、アンディがソファから立ち上がる。

足元で、赤黒い液体が、ぐちゃ、と音を立てた

「数だよ『世界を変えるような天才』。のな。そいつらは急に現れて、ほんの数十年で世界のありようを変えちまう。」

「まるで『おとぎ話』だな。個人の才覚で世界を変えてしまうなんて」

少佐だけは、その余裕の態度を崩さない。

アンディの手には、いつの間にか自動拳銃が一つ。

「そして、確認された76人は、出身地が不明だ。公式には認められていないがね」

しかし、アンディは手の中の拳銃をくるくると弄ぶだけで、殺気を放とうとはしない。

「まるで、その天才は、『ナルニア国』の出身なのかもしれないと思ってなあ」

「・・・好奇心で死なない猫も、厄介なものだよ」

緊張感の中、少佐が手で伍長と軍曹を制す。

二人の手が腰から離れた時には、いつの間にかアンディの手から拳銃も消えていた。

「ま、こっちとしては、ラングレーの実家に迷惑が掛からなきゃいいのさ」

そういってまたソファに座り込むアンディ。

その瞬間、

少佐の手にしているジェムが輝き始めた

「なんだ!!?いったい!!!???」

ローブの男が、その光におののく。

他の面々は、すでに光のほうに銃を向けている。

「伍長、これは?」

「少佐に分からないものが私にわかるわけもありますまい」

「何かやらかしたんじゃあねえのか!?」

その光が収まった時、そこには、一人また別の男が立っていた

「isabcyhrioaws;hiof;」

現れた男は、不思議な言葉で、ロープの男に語り掛けた

「saopnfiopsavospijaosjfias!!!!!!」

ローブの男が、慌てたように後ずさる。

ローブの男の盾になるように、軍曹と伍長が前に出て発砲する。が、

荒憐他方の男はその手にある細い剣で、まるでないかのように、銃弾をはじく

「なんだと!?」

「このっ!」

驚きつつも伍長と軍層は引き金を引き続ける。全弾剣によってはじかれる。

「今度来たのは手品師かよ!!」

吐き捨てたアンディも、別方向から銃撃を加える。しかし、それは今度は謎の「壁」ではじかれるようにして、地面に銃弾が転がった。

「・・・さて」

だが、この状況下において、少佐だけがにやりと笑っている。

この場にいる誰も、その笑みに気づくことはない。

「ipajaw」

一瞬のことだった。

ローブの男が、先ほどの娼婦たちのように、液体になって溶け果てた。

「な!?」

「ちっ!」

軍曹と伍長が舌打ちと同時に男につかみかかる。が、それすらひらりと避け、侵入者は少佐のほうへ駆け出した。

「viwjfsjoipj;p:as」

そのまま、少佐を突飛ばし、そのの手にしていたジェムを、圧倒的な速さでかすめ取った

少佐の口元に浮かぶ笑みには、この侵入者も気づいてはいないようだった。

「nm」

「少佐!?、ご無事ですか!?」

少佐に駆け寄る伍長、アンディと軍曹は男のほうを追う。

侵入者の男は、そんな二人を後目に、そのまま部屋の果て、夜景の見える窓ガラスに走る。

「ここは65階だぞ!?」

アンディの叫び声など聞こえないかのように、男は窓ガラスに飛び込んだ。

水あめのように、ガラスがどろりと溶け、水に飛び込むかのようにガラスが液体と化し飛沫になって砕けた。

これもまた、男の魔法だろう

「な!?」

「クソったれ!手品師めが!」


助け起こされた少佐はすぐさま別の配下に連絡を入れ、軍曹と伍長もすぐに部屋を飛び出した。アンディは携帯でどこかと連絡を取っている。


事態は動き出したのだ。


「始まったな・・・・さて」


その中で、少佐だけが、微笑みを崩さない







    プロローグ01 02へつづく





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る