6話目:ハッピーバレンタイン!



 風花と太陽が戻ると、そこでは翼と優一がじゃんけんをしていた。かなり真剣に勝負をしているようで、2人が帰ってきたのにも関わらずしばらく気づいてくれなかった。


「ジャーンケーン」

「ポン!」

「ああああ!!!」


 と、負けたのは翼。彼は、崩れ落ちるように床へと身体を預けた。


「……あ、お帰りなさい」


 最初に気づいたのは、大勝利のガッツポーズをする優一だった。彼は、片手を高く掲げた格好で2人に声をかける。


「おかえりなさい」

「ただいま!」

「桜木たちが行ってから5分くらいしか経ってないけど何してきたの?」

「えー、チョコ作ってきたよ?」


 その時間の短さに何かを期待した彼らは、風花の一言で表情を一変させた。


「へ、へえ」

「5分で作ってきたってこと?」

「いいえ、少なくとも2時間以上は体感時間がありました」


 優一の質問に、太陽が答える。

 太陽は、そんな2人の様子を見て、先ほどのじゃんけんは彼女のチョコレートを食べる順番を決めていたのだろうと容易に想像がついた。


「……異世界ってすごいな」


 と、いうのが精一杯のようだ。


「今度は、相原くんと成瀬くんも一緒に行こうね」


 風花は、そんな2人にニコニコしながら話す。そして、手に持っていた紙袋から作ってきたチョコレートの袋をテーブルの上に置きだした。

 この後2人に訪れるであろう出来事に、彼女の後ろにいた太陽が静かに合掌をする。



 ***



「ああ、先生」

「なに?」


 風花たちを見送った2人は、そのまま帰路につく。

 このまま留守番していた彼らに挨拶すると、時間を食ってしまう。早くサツキに会いたい風音は、風花と太陽に「みんなによろしくお伝えください」と伝言を託した。

 ユキが自室に着くと、そわそわしている彼に向かってあるものを差し出す。


「これ、風花ちゃんからです」


 そこには1粒のココアパウダーのかけられた丸いチョコレートの入った袋が。透明なので、中身がよく見える。


「……坂本くんが味の保証ができないって言ってたけど、うまそうに見える」

「私は食べましたよ」

「……何その顔。怖い」

「はい、あーん」


 ニコニコと笑いながら袋を開けたユキが、そのまま彼の口元へチョコレートを運ぶ。それを素直に受け取る風音。口にした瞬間、顔色が真っ青になった。


「……天野、飲み物」

「ありませーん」

「……天野、お願い」

「ダメでーす」

「……天野」

「初めから太陽くんに言われていたのに伝えてくれなかった罰でーす」

「……」




 風音は、目の前で楽しそうに笑う彼女に恨めしい視線を投げながら、そのまま気絶した。



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