第119話 ベトナムのホーチミンからベンチェへ引っ越し!ベトナム人妻の妊娠
私:ホーチミンのアパートにある冷蔵庫だけど、ホーチミンの近所の住民で欲しい人がいたらあげるか?
トゥイ:あげないよ。何言ってる!
私:だって冷蔵庫はベンチェに持ってくの難しいでしょ。
トゥイ:大丈夫! 妹と妹の友達に頼んで運んでもらう。
私:どうやって運ぶの?
トゥイ:バイクだよ。
私:は?
日本人夫の私は、ベトナム人妻のトゥイの冷蔵庫をバイクで運ぶ発言にびっくりした。
私:本当に冷蔵庫をバイクで運ぶのか?
トゥイ:ベトナムだと当たり前のことよ。
私:……。
家族会議の末、ホーチミンのアパートの荷物は冷蔵庫も含め、トゥイの妹が友達にも協力してもらい、何度もバイクで往復して運んでくれた。
こうしてベトナムのホーチミンの賃貸アパートを引き払い、地方都市のベンチェの家に引っ越したのである。ちなみに冷蔵庫は傷ひとつなく、無事にベンチェの家にたどり着いた。
この一件を目の当たりにし、ベトナム人の力強さを感じた。引っ越し先のベンチェの家は、トゥイの母親、妹、タムちゃん、おばぁさん、親戚の家が目と鼻の先にあり、何かあった時、すぐ呼ぶことができる。気軽に助けを求めることができる素晴らしい環境であった。
もちろん、何時までに帰らないといけない門限などもない。フリーダムである。
部屋はホーチミンのアパート時代と比べると広くなったけれど、欲を言えば、もうちょっと広い家がよかったと感じた。
※賃貸料はホーチミンのアパートと比較すると大幅に安くなったけどね。
けれども、親、妹、親戚たちが近くにある空き家は、この家しかなかった。しかも家の大家がトゥイの知り合いで「あなたは知り合いだから33%割引きの5000円の家賃でいいわ」と、もってけドロボー価格を提示した。
正直、33%割引き前の家賃でも私は激安物件だと感じていたので、この時ばかりは夢でも見ているんじゃないかと思ったほどだ。
それに我がファミリーにとって、広い家に住むよりも大切にしなければいけない重要なことがあったのだ。 ホーチミンのアパートを引き払う最大の要因のひとつはトゥイの妊娠であった。 ホーチミンのアパートで、トゥイは昼夜問わず、「眠い、眠い」と言ってよく寝るようになった。
寝すぎなぐらい眠りこけるトゥイの姿に「おかしいな」と思い、念のため薬局で妊娠検査薬を購入し調べてみたら陽性の反応がでた!
私とトゥイは顔を見合わせ大喜びしたのは言うまでもない。そしてまた、8ヶ月後ぐらいには第一子が生まれる。それは親として家族のことを考えて生きていくことを意味していた。
トゥイのお腹の赤ちゃんが大きくなっていく過程で、不足の事態が起きた時、ホーチミンで私はうまく立ち回ることはできない可能性が高い。
親、妹、親戚たちのいるベンチェに住むのであれば、私が何もできなくてあたふたしたとしても、適切な対処を周りにしてもらえるだろう。そのためには親、妹、親戚たちの家の間近に住むのが望ましい。
そうすることによって、母子ともに安全に、健やかに、私もトゥイも心配せずに生活できると考えた。 小さな心配事が積み重なると、それがストレスになる。
日々、ストレスを感じながら生活していると、体調をくずしてしまったり、うつ病の原因になってしまう場合だってある。ましてや、トゥイのお腹には新しい生命が宿っている。
夫として、できるだけ妻の肉体的、心理的負担を取り除くことで、自分自身も心配せずに日々、安心して暮らしたい。そんな想いがあった。何せ、私はベトナムでパパになるのだから……。
そして、ベトナムの地方都市のベンチェ生活が始まった。
私たち国際結婚夫婦にとって、ベンチェの暮らしは、ホーチミンでは味わうことのできない穏やかな時間が流れていく。
住み慣れた日本を離れ、海外にロングステイや移住をして暮らす日本人の気持ちが、この時ばかりは少し分かったような気がした。
トゥイは昔、自分が食べたことのあるお店や場所に私を連れていってくれた。また、行ったことのないお店を新規開拓してみるのも楽しかった。
ある日、初めて入ったお店でステーキを食べたことがあった。私がステーキに感激し、おいしそうに食べていると、店主がニコニコしながらやってきて、「ほら、おいしいでしょ」と笑っていた。
他のお店で顔面マッサージやシャンプーをしてもらった時も愛想がいい店員が多いと感じた。 また、トゥイの妊娠安定期になるまで、どうしてもスーパーで買い物をしないといけない時、電話でタクシーを呼ぶようにしてた。
買い物が終わり、タクシーで家に帰宅し、大きな額の紙幣で払おうとしたら、タクシー運転手は「お釣りがない」と言ってきた。
私もトゥイも困ったなぁという表情をしていると「もってけドロボー! 運賃は無料でいいよ」とタクシー運転手は言い放ち、ブーンとタクシーは遠く彼方へ消えてしまったのである。しかも、それが1度や2度じゃなかった。
「タクシーに乗る時は細かい紙幣を用意した方がいいね」となったのは言うまでもない。どこかのどかで下町情緒を思わせる雰囲気が地方都市のベンチェにはあった。
そんな生活の中で、トゥイは私が行ったことのないお店に連れていくのが日課になりつつあった。
トゥイ:高校生の頃によく食べに行ったお店に行くか?
私:うん、行こう!
お店は肉団子や野菜を油で揚げるところだった。日本で例えるなら、串カツ屋みたいなところだろうか。 からっと揚げられたものがアツアツの状態でやってきた。
トゥイ:懐かしいわー。
私:串カツみたいな感じの揚げ方でおいしいね。
2人してつかの間のひとときを過ごすことができた。帰宅後、いつものように寝ていると、深夜にトゥイは「お腹が痛い、痛い」と騒ぎだした。
何事かと目を覚ますとトゥイは青白く、苦しそうな表情をしていた。
私の脳裏に「流産」という不吉な2文字が浮かんだ。
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