第66話 来年のテト(旧正月)はいっしょに過ごしたいよね?
ベトナム人女性のトゥイは朝7時から夜中まで働くという過酷な状況下でホーチミンで働いているのだが、テト(旧正月)で仕事先を2日間だけ休むことができた。
いっしょにアパートで同居している同僚の女の子はベトナムのダナン出身のため、2日間の休みではダナンの実家に帰るのは困難であった。
トゥイ:わたしは2日間、実家に帰るけど、あなたもくる?
同僚:え? いいの?
トゥイ:いいよ。
ということで同僚はトゥイといっしょに実家に帰ることになった。日本だと正月休みに同僚を実家に連れて行くなんて考えられないが、ベトナムでは当たり前なのかもしれない。日本人男性の私にはびっくりな話である。
ホーチミンからバイクで2時間かけてトゥイたちは帰ったのだけれど、実家は騒がしい状態で、とても私と電話で話せる状態ではなかった。
トゥイ曰く、「みんなカラオケに夢中になって歌っている」そうである。通常、テト(旧正月)休みはお店も休みになることが多いのだが、トゥイの働いているお店は飲食店ということもあり、テトだろうとお構いなしに営業しているみたいだ。
日頃の仕事の疲れがたまっているのだろう。トゥイは口癖のように眠い、眠いとハンモックに揺られながら言っている。
私も寝た方がいいよと言って、トゥイには寝正月を送ってもらった。毎日、長時間労働をしていたわけだから、休みぐらいゆっくり寝て欲しいと思っている。そんなトゥイから、ユニコーンの踊りのビデオを送ってもらった。
どうやらベトナムのテト(旧正月)ではユニコーンが太鼓の音色でリズムをとりながら踊るらしい。日本で例えるなら獅子舞みたいなものだろうか。
ビデオを観た私は、いつかこの目でテトの様子を見たいと思った。トゥイたちの休みが終了し、ホーチミンに戻り、またいつものように仕事が始まっていく。
トゥイは暇な時間を見つけて私にLINEを送ってくるのだけれど、「忙しいよ」「まだ何も食べてないよ」「やばいよ」と悲痛なメッセージを送ってくる。
私はそのたんびに「仕事がんばってね」と返事をしていた。そう言えばトゥイがまだ実家に住んでいた頃は、トゥイは仕事もしていないニートの状態だった。
私が外出して歩いている時、Skype通話していたことを思い出した。日本とベトナム、お互いに遠いところに住んでいるけれど、毎日、いろんなことを話していたっけ。
状況が変わって以前のようにはいかなくなったけど、人生山あり谷あり、いろんなことがあっていいと思う。トゥイはあと何日で私とベトナムで会えるねとカウントダウンしている。私にしても、トゥイに会える日を楽しみにしている。
私は液晶が割れたポメラのキーボードを叩きながら思うのだ。今この瞬間の自分の心情を書いている。記憶は時間が経つと忘れてしまったり、色あせてしまうことだってあるだろう。
けれどもこうして文章にして記録に残しているのだから、数年後、読み直す時がくればいいなと思った。「来年のテトはあなたといっしょに過ごしたいね」とトゥイは笑った。「うん、そうだね」と私も笑った。
そして「明日もトゥイは仕事早いんだから、もう寝てね」と続けて私は言った。来年のテトはいっしょに過ごしたいねと思いながら……。
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