第45話 ベトナム女性の日を知っているだけで嬉しいと彼女は言った

 ベトナムには「女性の日」と呼ばれる特別な日がある。10月20日はベトナム女性の日で、多くのベトナム人男性がベトナム人女性に感謝を込めてプレゼントを贈るのである。


 プレゼントは花や細やかな物を贈っているようだ。私はベトナムがどのような国なのかインターネットを使って調べていたのもあり、10月20日はベトナム女性の日だと知っていた。


 しかし、10月18日、19日とこくこくとベトナム女性の日が近づいてきても、ベトナム人女性のトゥイからはベトナム女性の日のベの字もなければ、プレゼントの催促もなかったのである。


 そして、時が過ぎて10月20日当日になった。


 私とトゥイは、私が駅へ向かう片道20分ほどの距離を歩いている時、SkypeやLINEで通話するのを日課にしている。


 いつものように私はトゥイに電話をかけ、通話しながら歩いていた。10月20日でベトナム女性の日のはずなのに、トゥイからはベトナム女性の日に関しての話はなかった。


私:今日ってあれでしょ?


トゥイ:あれって何よ?


私:あれは、あれだよ。


トゥイ:あれじゃ分からないよ。


私:ベトナムだと10月20日はベトナム女性の日でしょ。


トゥイ:そうだよ。あなた! 何かプレゼントは?


私:トゥイはベトナム銀行の口座作ってないから、これでプレゼント買ってとお金送れないじゃん。


トゥイ:そうだね。そうだけど、あなたがベトナム女性の日を知っているだけでトゥイは嬉しいよ。


 そう言うと無邪気にトゥイはケタケタと笑うのであった。結局、私は10月20日にベトナム女性の日だねとトゥイに言うだけで何もプレゼントを贈ることはできなかった。


 また、それに関してトゥイは特に怒ることもなく、ただ、私が純粋にベトナム女性の日を知っていたことがとても嬉しかったようだ。


 来年のベトナム女性の日は、きっと私とトゥイは公私ともにいっしょにいることだろう。同じものを見て笑い、同じものを食べて至福の時を味わい、辛いことも悲しいことも楽しいこともいっしょに味わることになるだろう。


 来年こそはトゥイに何かプレゼントしよう。サプライズとか自分の性に合わないので、王道と呼ばれてもいい。花をトゥイにプレゼントしよう。


 そういやトゥイから何か買ってと言われたことがない。トゥイのお金の管理は母親がしていて、必要に応じて母親がトゥイにお金を渡すシステムのようなので、好きなようにお金を使えないようである。


 現在も画面が割れたiPhoneを修理せずに使っているし、無駄なものを買わずに生活している。私がマルチデバイスキーボード買った方がいいんじゃないと提案した際、トゥイは母親に相談しないと買えるかどうか分からないと言い、相談した結果、まだ買うのはやめましょうとなった。


 私がトゥイの生活を見る限り、質素な生活をしているように思える。


 ベトナム女性の日に、愛情表現のひとつとして愛するベトナム人女性にプレゼントを贈った男性たちもいるでしょう。


 日頃の感謝を込めて、いっしょの職場で働くベトナム人女性のプレゼントを送る男性たちもいたでしょう。


 いろんなベトナム女性の日の形があるけれど、私とトゥイは、ただ、私が10月20日はベトナム女性の日だねとトゥイに伝えただけの日となった。


 けれども、トゥイは「あなたが10月20日はベトナム女性の日だと知っていただけで嬉しい」と言ってくれたこと。


 私は生涯忘れない。


 そして、来年のベトナム女性の日は、日頃の感謝を込めて、トゥイに何かプレゼントしたいと決意した。

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