好きだよ

20

「保育園の紹介?」


朝礼で周知された事項に、私は思わず呟いた。

タウン誌に、毎月市内の保育所が1つずつ紹介されるコーナーがある。今度うちの保育園も取材されるらしいのだ。


取材自体は園長が受けるけれど、年長年中クラスは園庭で写真撮影をする。それがタウン誌に載るそうだ。子供達にとってはすごくいい記念になるに違いない。私にとっても始めての経験で、ワクワクドキドキしてしまう。

タウン誌に写真が載ったら、絶対手に入れて宝物にしよう。今から楽しみだ。



年中年長児は園庭に出るよう指示があった。

私は年中クラスの副担任をしているので、子供達を並ばせて賑やかに外に出る。


写真は園舎の二階から撮るようで、園庭に出た私は二階を見上げた。

カメラをこちらに向け手を振っているカメラマンがいる。


「みんなー、二階を見てねー。」


私が園児たちに声をかけると、カメラマンが更に大きく手を振った。


「ここだよー。」


カメラマンがカメラをすこしずらしたときにようやく気付いた。


瞬くんだ。


子供達に手を振っているハズなのに、瞬くんは私を見ている気がしてしまう。

遠くて視線の先はわからない。

わからないけど、目が合っている気がするのは自惚れだろうか。

ドキドキが大きくなっていくのを感じた。


仕事中の瞬くんはフォーマルスーツとはまた違う雰囲気で、何というか、かっこいい。

営業的なトークで園長と話しているのをついつい聞き耳を立ててしまう。


園児たちを室内へ戻すとき、偶然にも瞬くんとすれ違った。

馴れ馴れしく声をかけるのも憚られて、控えめにペコリとお辞儀をする。


「写真できたから今夜電話する。」


私だけに聞こえるボリュームで耳打ちされ、一気に心臓が跳ね上がった。

ドキドキが大きくなって私は深く息を吐く。


「ゆいせんせー、かおあかいー。」


「お、お外暑かったね!」


園児のツッコミでさえ動揺してしまうなんてどうかしている。

私は火照る顔を手でパタパタと扇いだ。

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